| 正直なところ、ボクは様々なハードルによって合成燃料は普及しないだろうと考えている |
合成燃料はどうやってもコストが下がらず、さらにガソリン並みの課税がなされると「とうてい通常の使用ができない」価格に
さて、最近何かと話題の合成燃料(Eフューエル)。
これはガソリンエンジンにそのまま(ガソリンと同じように)使用できるというメリットがあり、製造段階で二酸化炭素(CO2)を吸着させているために、燃焼させてCO2を発生させたとしても、(予めCO2を吸収していることから)結果的にカーボンフリーになるという考え方の燃料です。
そしてEVのように「新しく製造し、販売したクルマしかカーボンフリーにならない」わけではなく、既存の(すでに販売済みの)クルマにも使用できるため、すでに路上を走るクルマがこのEフューエルを使用すれば地球の環境が一気に改善されるという見方もあり、大きな期待が寄せられているわけですね。
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今話題の「合成燃料」!そのままガソリンエンジンに使用できカーボンフリーを実現できるものの「何が問題でなぜ普及しない」のか?
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ただし代替燃料(合成燃料 / Eフューエル)には反対派も
こうやって見ると「いいことだらけ」のように見える代替燃料ですが、批判的な意見も少なくはなく、今回はその理由を見てみましょう。
まず批判派の筆頭はその「価格」と「流通過程」。
このEフューエルは「合成燃料」とも呼ばれることでもわかるとおり、科学的に合成して製造することになりますが、その原料となるCO2と水素を調達するには多大なコストがかかり、それを合成するための設備(工場)を建設するのにもお金がかかります。
そしてこれらCO2、水素については輸送が必要であり、その輸送の段階においてもコストがかかるので、燃料にするまでにお金がかかってしまい(輸送段階でもCO2が生じる)、国際クリーン輸送協議会(ICCT)の最近の調査によると、合成燃料の価格は1リットル当たり2.80ユーロ(日本円で390円)となり、これは現在のドイツのガソリン価格に比べると50%高い価格なのだそう(ドイツはけっこうガソリン高いんだな・・・)。
なお、トヨタの試算だと「水素を日本で生産し、さらに日本で燃料を合成」するとそのコストはなんとリッター700円、ただし水素を海外で製造し、燃料製造も海外で行えばリッター300円、そして水素価格が将来的に下がった場合だとリッター200円くらいになる、としており、様々な機関がどう試算しても合成燃料が割高なのは間違いないもよう(実際に合成燃料の製造を開始したポルシェも、量産によって価格が下がったとしても”ガソリンの倍くらい”になるとコメントしている)。
さらには合成燃料の生産過程、さらには出来上がった燃料を世界中に配送する段階でもCO2が発生し、合成燃料は「いかにCO2を吸着していても」トータルで見ると環境負荷が高いモノであるのは間違いない、とされています。
これに対して電気の場合だと、電力そのものはケーブルによって送電できるために「輸送」の必要はなく、電気のほうがずっと効率的で環境負荷が少ないのではという主張もなされ、たしかにこれらについては「納得」でもありますね。
さらには実用性も疑問視される
そしてさらに指摘されている問題が「実用性」。
もちろんガソリンエンジンにそのまま使用できるというメリットはあるものの、今回問題提起されているのはガソリンに比較して1.5〜2倍くらいになる合成燃料を「いったいだれが購入して使うのか」。
どう考えても、「燃料の価格を気にしなくてもいいお金持ちが、高性能車に乗るために使用する」以外の使いみちが考えられず、となるとその消費量は微々たるもので、「現在路上を走るクルマに使用すれば、一気に地球がクリーンになる」という理論はまったく現実味がないという意見も。
さらに問題視されているのが「CO2以外の排出物」。
たとえCO2排出が理論上のプラスマイナスゼロになったとしても、燃焼させている以上は熱を発したりCO2以外の(NOXなど)有害物質を発している可能性があり、この観点からも合成燃料は認可されるべきではないと唱える人々が多いもよう。
こういった意見はいずれも納得できるものであり、ぼくが抱いている懸念と一部合致するため、ぼくとしても「政府が何らかの補助を行い合成燃料の価格を引き下げて普及に務めない限り」ガソリンの代わりに使用され、脱炭素化社会の貢献に使用されることはないんじゃないかとも考えています。
Transport & Environmentにてクリーンビークルマネージャーを務めるアレックス・ケインズ氏は「最終的に、合成燃料はポルシェのドライバーにとってのニッチなソリューションにしか過ぎないでしょう。さらに、高価で汚染性の高い燃料の使用を認めることで燃焼式エンジン廃止の明確性を損なうことになり、(ドイツの)オラフ・ショルツ首相はヨーロッパのグリーン化と自動車産業の未来を危険にさらしていることに気づくべきです」とコメントしており、たしかにこの発言は納得性が高いのかもしれません。
実際のところ、合成燃料の使用を前提とした新車販売が2035年以降も継続されることになると、自動車メーカーは「内燃機関搭載のスポーツカーを」作り続けるかもしれず、しかし合成燃料が異常に高かったり、さらに手に入らなかったり(手に入れるために何十キロも走らなくてはならなかったり)すると、むしろ消費者のほうが「いっそのこと内燃機関をスッパリあきらめてEVにしてよ・・・」と困ることになる可能性もありそうですね。
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