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ブガッティはケーニグセグやヘネシーにはない「最高速記録達成」のためのシークレットウエポンを持っている。その”秘密兵器”とは

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| ただし現在のブガッティ・リマックCEOが記録に挑戦するかどうかは未知数である |

現代のブガッティは十分な名声を得ており、ここで危険なチャレンジを行う理由は見当たらない

さて、そのブランドの技術力を示すのにもっとも効果的な手段の一つが「最高速記録」。

とくに新しいブランドの場合、この記録を更新することで大きな注目を集めることができ、結果として知名度を向上させ販売を有利に進めることができるようになりますが、ぼくら素人からすると、この記録達成はニュルブルクリンクのラップタイム更新に比較すると「まだ容易」であるように思えます。

というのも「数千馬力を発生させるスーパーカーを用意し、勇気のあるドライバーを見つけ、地元の運輸省の助けを借りて閉鎖された道路を全速力で走らせればOK」だと考えてしまうのですが、「時速300キロから上」の速度域になると「それまでの速度」とは全く別の話となり、ある意味ではロケットを宇宙に送り出そうとするのと似ている、とも言われます。

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ブガッティは最高速を達成するための「秘密兵器」を持っている

この最高速はヘネシー、ケーニグセグ、SSC(シェルビー・スーパー・カーズ)、ブガッティの4社によってお互いの記録を更新しつつ高められている状態でもあり、このうちブガッティは「競争相手に差をつける秘密兵器を持っている」とされ、そしてそのシークレットウエポンとは最新ハイパーカー、トゥールビヨンではなく(ブガッティが属する)フォルクスワーゲングループの保有する「エーラ・レシエン・テストコース」。

そしてなぜ「エーラ・レシエンがブガッティに優位性をもたらしているのか」を理解するには、まず高速記録がいかにリスクが高いかを把握する必要があります。

一般に、高速道路で時速100キロで普通の車を運転する場合、路面や空気力学などについてはまったく考慮する必要はなく、スピード バンプや路面の穴はもちろん、路面の傾斜、路面の舗装品質、風などの要因については「気にする必要はない」わけですね。

しかし、走行速度が4倍(あるいは5倍)になると、道路の凹凸の影響は即座に壊滅的な状況を招く可能性があり、よって高速記録チャレンジには、勾配や路面の変化が限られた長い直線の舗装道路が必要となることが多く、しかし滑走路は短すぎることが多いため、公道が唯一の選択肢となるのですが、これには一連のリスクが伴います。

現代のスーパーカーやハイパーカーの多くは320km/hを突破できる実力を持ちますが、しかしこの速度域において、わずかな路面の凹凸によってノーズがほんの少しでも浮くことがあれば、簡単に揚力が発生しハイパーカーを空中に浮かせることとなるわけですね(映画「グラントゥーリスモ」では向かい風の影響が描かれていたが、ル・マン24時間レースでもメルセデス・ベンツCLRが簡単に飛んでいった事故が発生している)。

市販車の場合、レーシングカーほど足回りは固くなく、よって多少の段差であれば吸収できる可能性もあり、しかし実際に超高速域においてケーニグセグ、そして直近だとヘネシーもクラッシュを発生させているので、「路面の状況」がいかに大切であるかがわかるかもしれません。※真っ直ぐ走るだけでクラッシュというのは”通常”考えにくいが、それでも起きるのが超高速域の恐ろしさであり、それだけ環境が特殊であることを物語る

さらにこういった「路面」に加えて様々な要因が最高速チャレンジに影響を与え、その一つが「風」。

たとえば突風が吹いた場合、その突風が「時速130キロで走るクルマを毎秒36メートル横に移動させるもの」だとすると、時速320キロの場合では同じ風が吹くと「89メートル」、時速480キロでは134メートルもクルマが流されてしまい、サッカーコートの長さ(~120メートル)を遥かに超える距離を車体が横へと移動してしまうわけですね。※これほどの突風は稀であり、極端な例えではあるが

多くの場合、最高速に挑戦できる「公道」となると社会の喧騒から離れた場所となり、しかしこれらは一般に人口密度の低い地域にあるため、5車線や6車線ではなく、2車線や3車線といった場合がほとんどです。

そのため予期せぬ突風で簡単にクルマがコースから外れクラッシュに至る可能性が考えられ、とくに地形が平坦で、風の緩衝してくれる丘や谷がない州では、さらにこの可能性が高まります(とくにアメリカの場合、だだっ広い平地での挑戦を行うことが多く、風の影響を無視できない。SSCも挑戦のための場所を確保することに苦労し、季節を選んで走行を行った)。

SSCトゥアタラ
SSC

最高速を達成するためには「長さ」が必要である

こういった「懸念」を見るに、路面の舗装がしっかりしており、かつ風の影響を受けない環境、あるいは突風を考慮して「幅」を持つ環境が必要ということがわかりますが、それ以上に重要なのが「長さ」。

最高速を出すにはそれなりの「助走」が必要なのですが、最高速はタイヤに掛かる負担が大きいため、0-100km/h加速のように急発進を行わず、タイヤをいたわりながら徐々に速度を上げてゆくといい、これだけで相当な距離を要するものの、さらには減速時の距離も必要です。

もちろんこの減速についても車体やタイヤに掛かる負荷を減少させ「不測の事態」を回避しようとなれば”ゆっくり”減速することが求められ、これら必要な距離を総合すると(航空機の)滑走路でも不十分なのだそう。

実際のところ、ヴェノムF5にて世界最高速を狙うヘネシーCEO、ジョン・ヘネシー氏は「NASA​​ の滑走路はわずか 3.2マイル(5.14キロ)しかないため、加速できるのはせいぜい 2マイル半だけで、減速するのには最後の7/10マイルを残しておかねばならない」と語ったことも。

実際にヘネシーはケネディ宇宙センターにてテストを行っているものの、この際は「そもそも最高速に到達することが不可能な」状況でテストを行い、来たるべき日に備えていたということになりそうです。

そしてもうひとつの意外な(そして予測不可能な)要素は「野生生物」。

ジョン・ヘネシー氏は「公道での走行の大きな課題は野生動物だと思います。私自身、レースやクルマのテストで鳥にぶつかったことがあります。間違ったタイミングで道路を横切ることにした他の動物にも遭遇しました。もしそういった動物に出くわすと、時速180マイル、200マイル、または300マイルの速度であっても、それは最悪の日になる可能性があります」とコメントしており、これは日本だと想像しにくいものの、欧米では「野生生物と接触しないよう」様々な対策が取られていること、そして上述の通り最高速の挑戦ができる環境は「辺鄙なところ」にあるため、この懸念が一層高まることも考えられます。

そこで(前置きがずいぶん長くなりましたが)登場するのがエーラ・レシエン・テストコースで、これは上述の通りフォルクスワーゲンが所有しており、ドイツのヴォルフスブルクにあるVW本社から約25km北のエーラ・レシエンに設置されるもの。

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Bugatti

施設全体の広さは 6.8平方kmで、あらゆるタイプの路面のさまざまなサーキットに加えて合計で約100kmの道路があり、この中には石畳、急勾配の坂道、そして目玉となる幅5車線の21kmにも及ぶ高速道路を模した舗装路が含まれ、直線道路だけでも長さは8km強あり(これだけでNASAの滑走路の1.6倍)、その両端にあるバンクカーブは横方向のGをゼロに抑えて最高時速200kmもの速度を維持できます。

つまり、バンクを時速200kmで走行してもクルマは真っ直ぐに走行できるということを意味し、トータルすると「加速、制動に十分な距離」を持つことになりますが、当然ながらコースの路面含む環境は「万全」な状態に整備され、こういったコースを持つことがブガッティにとって(開発段階からのテスト含め)大きなアドバンテージになっているというわけですね。※ほかの自動車メーカーは、いかに速いクルマを作ろうとも、それを走らせ記録に挑戦する場が存在せず、それを見つけることが非常に困難である

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参照:CARBUZZ

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