| 現在メルセデス・ベンツの販売のうち40%は中国が占めており、中国市場で販売を落とすことは会社の危機を意味する |
加えて、今後中国市場はもっとも競争が厳しい市場となるだろう
さて、メルセデス・ベンツの最高経営責任者であるオラ・ケレニウス氏が「自動車産業にとって中国はあまりにも重要であり、中国をないがしろにすることはできない」とコメント。
この発言はドイツのオラフ・ショルツ首相がビジネスリーダーの代表団を率いて中国を訪問した直後、習近平国家主席が任期を延長したことで中国との関係が悪化した場合を考慮し、ドイツ企業に多角化を図るよう警告を発した直後に行われています。
つまり、今後中国とのドイツ(含む他の国)との関係性が悪化すると中国市場を(ロシアのように)捨てねばならない場合が出てくる可能性を指摘しており、それに備えよとオラフ・ショルツ首相が警告したものの、オラ・ケレニウス氏は「それは無理」と反発したということに。
「中国を見捨てることは絶対にありえない」
なお、オラ・ケレニウス氏の発言はオラフ・ショルツ首相に対して向けられたものではなく、ドイツのベルリンにあるESMTビジネススクールでの講演にて発せられたもので、そこで「グローバル化のメリットを深く確信しており、中国を見捨てることは”絶対にありえない”とコメントしたもよう。
これについては十分に理解ができ、メルセデス・ベンツがドイツの自動車メーカーにとって「いかに中国市場が重要であるか」を理解し、高く評価しているのは同社の販売の40%が中国にて占められているため。
直近の2022年第3四半期だと、メルセデス・ベンツが納車した52万100台のうち、約20万6800台が中国で販売されたことが明らかになっていますが、これは15万2700台を納めた欧州や、8万3200台を販売した北米を軽々と上回る数字です。
こういった数字を見ると、いかなる状況であっても(中国が台湾に侵攻したとしても)メルセデス・ベンツが中国を切り捨てることはないものと考えられますが、これには販売以外の理由もあって、現在メルセデス・ベンツの筆頭株主は中国人であり、3番めの株主も中国企業だから。
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さらにメルセデス・ベンツはアリババのAIを搭載し、オーナーのデータを中国政府に提供するという話があったり・・・。
中国市場を強く意識したコンセプトカーを発表したこともあって、全社をあげて「中国寄り」の展開を行っているのが現在のメルセデス・ベンツということになります。
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ただし中国はメルセデス・ベンツを見捨てるかもしれない
ただ、メルセデス・ベンツが「中国を見捨てることはありえない」と考えているとしても、中国側は容易にメルセデス・ベンツを切り捨てる可能性があると考えていて、実際に中国におけるメルセデス・ベンツの2022年1-9月の販売は2021年の同期比に比較して5%減少して562,600台へ。
これには様々な理由があるかと思われますが、大きな要因は中国現地における「EVシフト」が挙げられます。
現在中国はEV購入者、オーナーに対して様々な優遇を提供し、これによってEVの普及を加速させているわけですが、ここで売れているのは「中国メーカーのEV」ばかりであると報じられています。
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なお、中国政府は当然ながら中国の企業を優遇する傾向にあり、悪評高い「現地生産を行う場合には要合弁設立(現在は緩和されている)」という法規、そのほか販売に関する様々な外国企業への締め付けも報じられており、ステランティスはEUへと中国車が入ってくるのであれば「中国で我々が受けているのと同等の仕打ちを行わねばフェアではない」と主張しているほど。
中国が現在世界最大の自動車市場であるのはすでによく知られていますが、すでに(一部のプレミアムカーを除くと)外国の自動車メーカーが不要なレベルにまで中国車のレベルが向上しており、よってトヨタ、ホンダはじめとする日本の自動車メーカー、そしてビュイック、フォード、ルノー、シトロエンなど欧米の普及価格帯のブランドも存在感を発揮するのに苦戦している、とも報じられていますね。
メルセデス・ベンツはプレミアムブランドなのですぐさまそういった危機が訪れるとは思えないものの、電動化が(中国内で)進んでくればその存在感が希薄になってくるのは間違いなく(中国メーカーのEVにはどうやってもコストパフォーマンス的に対抗できない)、メルセデス・ベンツの意向とは裏腹に、中国政府や、中国の消費者がメルセデス・ベンツを選ばなくなる可能性も考えられ、そうなるとメルセデス・ベンツは中国の株主の意向を反映させざるを得ず、そのあり方が大きく変わってくるのかもしれません。
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参照:Automotive News Europe