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ポルシェが「マニュアル・トランスミッションを可能な限り存続させる」と決定。なぜMTはそこまで継続させることが難しく、多くの自動車メーカーが廃止してゆくのか

ポルシェ

| 一時、ポルシェはMTを廃止する意向を示していたこともあったが |

今では一転して数少ないMT存続派となり、かつその急先鋒でもある

さて、ポルシェにて911と718ラインアップを管轄するフランク・モーザー氏がカーメディア主催のラウンドテーブル・インタビューにて答えたところによれば「マニュアル・トランスミッション搭載車の販売を可能な限り継続し、少なくとも現行世代の911、718(ケイマン / ボクスター)が終了するまではそれを維持したい」。

加えて「マニュアルト・ランスミッションは常に顧客が911に求めるものであり、それは911にとって絶対に重要なことなのです。911にマニュアル・ギアボックスを採用した911Tがラインアップされているのもそのためですし、さらには911 S/Tも追加されています」とも。

ポルシェはどこまでマニュアル・トランスミッションを存続させることができるのか

そしてフランク・モーザー氏は現行の911、718ケイマン / ボクスターについて「そのライフサイクル終了までマニュアル・トランスミッションを存続させることができるよう、現在取り組んでいます」と述べていますが、マニュアル・トランスミッションの維持についてはいくつかの課題があり、まずは「ビジネス的にそれが許されるかどうか」。

MTとATとがラインアップされる場合、基本的にMTのほうが販売台数が少なく、かつその自動車メーカーの中でのMTとATとの(コンポーネントの)調達数から見ると圧倒的にMTのほうが少なく、つまり「MTはコストがかかる」。

そういった「売れる数が少ない、マニュアル・トランスミッションを会社として許容できるかどうか」という問題がまず存在し、たとえばアストンマーティンは「MTを超高額な限定車のみ」に設定することでこの問題を解決し(同時にMTの存在価値を引き上げている)、BMWは一部地域で「MTのほうをATよりも高く設定することでそれを解決しています。

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加えて、BMWのMTの場合、クルマの内装がどんどん近代化してオシャレになっているにもかかわらず、シフトノブは1980年代からデザインが変わっておらず、これはつまり「シフトノブにすらお金を投じることが許されない」状況だとも考えられます。

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そしてこの「MTのコスト高」を正当化する理由としては「たとえ利益が出なくても、宣伝効果を見込める」「ほかメーカーが廃止してゆくMTを固守することで、自社のスポーツカーに対する思い入れを表現できる」という金銭に換算できない効果が考えられ、しかしこの効果を(その会社の経営陣が)プラスとみなすかどうかによっても判断が分かれると考えていいかもしれません。

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マニュアル・トランスミッションは規制に対応しにくい

そしてマニュアル・トランスミッションを存続させにくい他の理由は「規制」の問題。

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そしてその対応のために「不要なコストがかかってくる」のがマニュアル・トランスミッションの(経営陣にとっての)頭が痛いところでもあり、これを許容できるかどうかも問題となってくるわけですね。

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そのほかの理由としては、近年のパワーアップしたエンジンに対応できないという理由も少なくはなく、BMWが持つトランスミッションだと「500馬力オーバーのエンジンのパワーとトルクに対応することは難しい」と言われており、よってM3やM4のように、(ハイパワーは)コンペティションスペックになるとMTを「信頼性の問題で」選べなくなるという例も。※フェアレディZ NISMOがATのみなのも同じ問題だと思われる

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そのほか、これは問題ではないものの、「そもそもそのクルマにMTが求められているのかどうか」。

たとえばスポーツ走行を主眼においたクルマであればマニュアル・トランスミッションを求める顧客は少なくないはずですが、たとえばアストンマーティンやメルセデスAMG、マセラティなどは「ハイパワーでスポーティ」ではあるものの、それらにMTを求める顧客の絶対数がそもそも少ないものと思われます。

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ポルシェは「フェイクMT」に断固反対

こういった理由にて各社ともMTに対する対応に差があるというのが現状ですが、話をポルシェに戻すと、現行世代に関しては、様々な困難があれどMTを残してくれると考えていいのかも。

ただ、ポルシェも一時期「マニュアル・トランスミッションを廃止しようとした」時期があり、当時は急激にデュアルクラッチが普及していて、MT装着率が5%以下になってしまい、ビジネス的に(MTの存続が)許されなくなってしまったため。

加えて、当時のポルシェは「操る楽しさ」よりも「タイム」のみを追い求めていて、そのためハードコアモデルでは「ロスの大きいMTはそもそも効率が悪く、サーキット走行に向いていない」という結論まで下したわけですね。

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ただ、「無いとなれば欲しくなる」のが人情というもので、(MTが廃止された)GT3にMT復活を求める人々の声が大きくなるにつれポルシェもこれを復活させることに(加えて、イメージ的な戦略も関係していたのだと考えている)。※それでもRSモデルにMTを設定しないのは絶対的にPDKのほうが勝るというポルシェの信念によるものなのかもしれない

しかしながらMTの存続が期待できるのも「現行世代のみ」ということになりそうで、というのもまず718ケイマン・ボクスターは次世代だとピュアエレクトリックモデルに移行するから。

ポルシェ
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そしてポルシェはフェイクMT(シミュレーテッドMT)については「電動化されたクルマにマニュアル・トランスミッションを搭載することはありません。なぜなら我々はそれを望まないからで、これはポルシェにとって非常に重要です」ともコメントし、”断固反対”の姿勢を貫いているので、まずこれの採用、つまりEVにMTを搭載する可能性はないと見てよいかと思います。

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加えて次世代の911は(どういったパッケージングになるかはさておいて)何らかの形で電動化される可能性が高く、仮にこれがハイブリッドになるとすれば、たとえガソリンエンジンを残していたとしてもマニュアル・トランスミッションが廃止される可能性が非常に大きく、というのもMTでハイブリッドシステムの制御を行うことはあまりに複雑になりすぎるから。

逆に期待できるのは剛性燃料(Eフューエル)の普及であり、これが一般に流通するようになれば911を電動化する必要がなくなってくるため、ポルシェとマニュアル・トランスミッションにとって豊かな未来をもたらす福音となるのかもしれません。

いずれにせよ、マニュアル・トランスミッションがどんどんその生息域を奪われていることは間違いなく、時間の経過とともに希少な存在となり、より高価で排他的な選択肢となるのは間違いないものと思われます。

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参照:The Drive

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