| 採算だけを見ると、MTの提供は到底正当化されるものではない |
一方、ファンへのアピールを考えるならばMTの用意は「非常に大きな意味がある」
さて、日本や米国では(G87世代の)BMW M2のマニュアル・トランスミッションとオートマチック・トランスミッションとの価格は「同じ」に設定されていますが、欧州ではマニュアル・トランスミッションのほうが割高に設定されているもよう。
なお、オートマチック・トランスミッションの登場以降、自動車メーカーはオートマチックトランスミッション車を数万円〜数十万円という価格差にて「高く」設定してきたものの、M2においては(欧州で)逆転現象が起きているということになりますね。
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なぜマニュアル・トランスミッションのほうが割高なのか?
なお、これまでオートマチック・トランスミッションが高く設定されてきた理由については、単に「トランスミッション単体で見た場合、オートマチックのほうがマニュアルよりもコストが高いから」だと思われます。
そしてアッセンブリー単体の価格は現在においてもオートマチックのほうが高価だと思われ、しかしそれでもBMW M2では「MTのほうが高い」設定を持っており、これについて今回BMW M部門の責任者、フランク・ファン・ミール氏がその理由につきズバリ「車両の開発コストを吸収することを考えると、高くならざるを得ない」とコメント。
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BMWはマニュアル・トランスミッションの構成比を公開していないものの、おそらくは「BMW全体で見ると非常に少数」だと思われ、いかに安価なマニュアル・トランスミッション・アッセンブリーを組み込んだとしても「販売台数が少ないために、想定される販売台数で開発コストを割ると、どうしてもその値段になってしまう」もよう。※M2だけだと50%ほどがMTを選択していると報じられている
たしかにポルシェも同様のコメントを発したことがあり、その際には「わずか数%の人の望みを叶えるために、MTを用意しコスト増加を受け入れるのはビジネス的に正しい判断ではない」とも述べていて、しかしその後にはMTを望む人の声があまりに大きいことからファンの声を尊重し(方針を翻し、GT3で)マニュアル・トランスミッションの復活を決めたほど。
BMWも同じ理由にてMTを投入しているとコメントしたことがありますが、どれだけコスト吸収に苦心しているのかについてはそのシフトノブを見るとよくわかり、なんと90年代から同じものを使い続けています。
90年代から現在に至る間、BMWの内装はどんどん進化しており、よってこのシフトノブのデザインが今のBMWのインテリアにマッチしていないことはBMWとてよく理解しているはずですが、BMWからすると「シフトノブにもお金をかけることができないほど」マニュアル・トランスミッションを搭載するための開発にコストを持ってゆかれているのだと考えていいのかも。
ちなみにですが、ポルシェの場合は(マニュアル・トランスミッションの)シフトノブを現代の内装にマッチするように進化させており、おそらくはMT比率が高い分、ここにコストを割けるのかもしれません(ポルシェの場合、MTを用意するモデルも多く、コストを平準化できるものと思われる)。
それでもなぜ自動車メーカーはマニュアル・トランスミッションを搭載し続けるのか
なお、現在マニュアル・トランスミッションについては機能的なメリットはほとんどなく、ATに比較して重量が軽いということを除けば「加速が遅く、燃費が悪く、サーキットの走行タイムも遅い」というのが事実であり、つまり論理的にはMTの存在する意味はゼロ。
実際に「速く走る」ことを第一義に掲げるフェラーリやマクラーレン、ランボルギーニだと「そもそもマニュアル・トランスミッションの設定を排除している」ことからもMTの優位性が失われていることがわかるかと思いますが、それでも一部自動車メーカーがマニュアル・トランスミッションを残すのは「ファンの声に応えるため」であると直接的もしくは間接的に語られています。
実際にはスポーツカーオーナーのうちほとんどはサーキットを走らず、かつサーキットを走行したとしてもコンマ何秒を削るわけではなく、しかしクルマを自分で操作しているという感覚を味わい、クルマとの対話を楽しむ場合がほとんどであるものと思われ、そして”そういった場合”、やはりマニュアル・トランスミッションに勝るものはないのかもしれません。
ちなみにエンツォ・フェラーリも「事実として、私はA地点からB地点へと行くためにクルマを運転しているわけではない。クルマを理解し、クルマの一部になろうとしているのだ」という言葉を残しており、同じ意見を持つ人にとってはマニュアル・トランスミッション以外の選択肢はないのだろうと思われます。
ただ、すべてのスポーツカーに対してマニュアル・トランスミッションが求められているかというとそうではなく、アストンマーティン・ヴァンテージについては「MTを用意したのに、それを選ぶ人はおらず、MT導入は愚かな判断であった」と語られたことも。
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反面、ポルシェ911 GT3、GRスープラ、パガーニ・ユートピアなどはMT比率50%を超えており、そのクルマによってずいぶん(MTに対する捉えられ方の)差があることもわかりますね。
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参照:Car Throttle