
| ただし「ハイパフォーマンスカーに限って」ではあるが、興味深いトレンドであることには間違いがない |
そう考えるならばEVの可能性は今後まだまだ広がるのでは
さて、最近様々なクルマを試乗して感じるのが「EVがガソリン車に近づき、またガソリン車がEVに近づいている」こと、そしてこのままゆけば「EVのほうがガソリン車よりもガソリン車的になるのではないか」ということ。
EVはこれまで以上に「ガソリン車に近づいている」
どういうことかというと、まずEV黎明期では、「EVはガソリン車とは全く違う乗り物」という(メーカーによる)打ち出され方がなされることが多く、よって同じ自動車ブランドであっても「名称や販売チャネル、デザイン言語」をEV専用とする場合が少なくはなかったと認識しています。
たとえばBMW「i」やメルセデス・ベンツ「EQ」がその最たる例かもしれません。
ただし現在では「EVは特別な存在ではない」として扱う自動車メーカーが増えていて、これは「EVが身近な存在になってきた」からというよりも、「EVを特別な存在として扱うと消費者が受け入れてくれない」からだと思われます。
たとえば”かなり早い段階から”EVを手掛け、全く異なる未来的なデザインをEVに与え、EVを特別な乗りものとして扱ってきたBMWはそのギャップに(実体験として)気づいたようで、EVラインアップを「ガソリン車と同じ見た目」へと調整し、EVとガソリン車ラインアップを統合して「EVはディーゼル同様、パワートレーンの選択肢の一つ」というスタンスへ。
さらにメルセデス・ベンツも「EQ」シリーズのデザインをガソリン車へと寄せ、そしてEQというサブブランドを廃止するとまで報じられています。
この傾向はハイパフォーマンスカー市場で顕著である
そしてもうひとつの「EVのガソリン車化」という”逆の”流れを作ったのがヒョンデ・アイオニック5 N。
このクルマはピュアEVではあるものの、ガソリン車を模したサウンドそして疑似トランスミッションを持っており、この出来が素晴らしいため、多くの人の「EVに対する考え方」をひっくり返してしまい、それは一般消費者に対してのみではなく「自動車メーカーに対して」もまた同様。
-
-
(後編)久々にオールマイティで完璧なクルマが出てきたな。ヒョンデ アイオニック5 Nを特設サーキットと公道で試乗、ドリフトも体験してみた【動画】
| いくつかの懸念事項は存在するものの、現段階でアイオニック5 Nは「限りなく完璧に近い」と考えていい | ヒョンデがここまでのレベルのクルマを作ることができるとは考えてもみなかった さて、ヒョンデ ...
続きを見る
実際のところ、BMW「M」、ランボルギーニもこの車両をテストしたこと、そして一定の評価を与えるべき存在であることに言及していて、それまでは「疑似サウンドやフェイクシフトなどは「文字通りのフェイクであって本質ではない」「単なるギミック」と軽視されていた風潮を一変させ、ある意味では「これこそがEVのあるべき姿」だと認識させるに至ったようにも思います。
-
-
ランボルギーニCEOが「EV開発の際にヒョンデ アイオニック 5 Nのサウンドを参考にした」。いつの間にかアイオニック 5 Nは高性能EVのベンチマークに
| さらにヒョンデ アイオニック 5 Nに搭載される「疑似マニュアル・トランスミッション」も高い評価を受けている | ただしランボルギーニは現段階では「そのサウンドをどうするか」決めかねている さて、 ...
続きを見る
そしてこの傾向はどんどん加速し、フェラーリすらも「仮想トランスミッションと合成サウンド」に関する特許を出願したことが報じられ(ただし実際にこれを市販車に採用するかどうかは別問題である)、こういった流れを見るに、「EVはEVとして独自の進化を遂げるよりも、ガソリン車へと寄せる方向へと進化する」のかもしれません。※ただし中国市場のみは独自のEV市場を形成している
-
-
フェラーリが初のEV、”エレットリカ”に「バーチャルエンジン&ギアシフト」搭載へ:感情に訴える走りを電気自動車においても再現か
| フェラーリのEVに対する人々の期待は非常に大きい | フェラーリは絶対に顧客を失望させることはできず、むしろ「期待の上」を行かねばならない さて、フェラーリは10月9日にブランド初となる電気自動車 ...
続きを見る
ただし正確にいうなれば、「ガソリン車そのものになる」というわけではなく、「ガソリン車のいいところを取り入れ、エレクトリックパワートレーンにしかできない方法でそれを強調する」ということだとも捉えているのですが、これはつまり「EVがガソリン車以上にガソリン車的になってゆく」ことを意味するのだとも考えられます。
一方、ガソリン車はより「ガソリン車らしさを失う」
その一方、ガソリン車はというと、排ガス規制や騒音規制によって「シリンダー数」「パワー」「音」「振動」といったハイパフォーマンスカー特有の”象徴”を失ってゆく傾向にあり、それを補うのが「電動化」。
その一方でハイパフォーマンスカーを購入する「層」も大きく変化していて、現在のハイパフォーマンスカーのオーナーの多くはそのパフォーマンスを楽しむことはなく、「ラグジュアリーアイテム」としてそのクルマを所有することが多いのかもしれません。
そして「新しく誕生した」購入者層に対応するため、ハイパフォーマンスカーはどんどん「快適に」なってゆくわけですが、ここでもやはりガソリン車らしさが失われ、つまり「パワートレーンの存在感」が希薄になってゆき、たとえばトルク特性がフラットになったり、ノイズやサウンドが抑えられたりすることで「内燃機関特有の」キャラクターが失われてしまい、ある意味では「ノイズやサウンドを発生させず、瞬時に最大トルクを引き出せる」エレクトリックパワートレーンに近づくこととなるわけですね。
そうなると「内燃機関搭載車がその個性を失う一方」で、「EVはガソリン車特有の個性を強調して表現する」こととなり、ここ数年というタームでは「内燃機関とEVとの逆転現象」が誕生するのかも。
ただ、そこから先になれば「内燃機関が存在したことすら忘れ去れられてしまう」可能性が高いため、現在の「ガソリンエンジンを模倣」というトレンドは消失するものとも考えていて、代わりにエレクトリックパワートレーンにおける様々な可能性が探られることにより「電動車ならでは」の楽しみを備えたクルマが登場するのではないかと考えています。
いずれにせよ、今はパワートレーン移行の「過渡期」であり、奇妙なねじれ現象が生じているのではと考える今日このごろです。
あわせて読みたい、関連投稿
-
-
ちょっと衝撃。BMW M部門のボスが「ヒョンデがアイオニック5 Nで取ったアプローチは正しい」と述べ、EVにフェイクサウンドとMTロジックを組み込むことに言及
| ヒョンデ アイオニック5 Nは異常なほど称賛を浴びている | たしかにボクも一瞬、アイオニック 5 Nを「欲しい」と考えた さて、日本ではブランド自体の知名度が高くないせいか「それほど」ではありま ...
続きを見る
-
-
ポルシェもEVのフェイクMTをテスト済み。しかし「電動パワートレーンは内燃エンジンよりも優れているので、(より優れていない)過去のものを模倣する必要はありません」
| ポルシェは自社のEVに対し「疑似マニュアル・トランスミッション」ではなく別の方法を用いることで顧客へのアピールを考えているようだ | その「別の方法」が何なのかは現時点ではわからないが さて、EV ...
続きを見る
-
-
ホンダも「EV向けフェイクMT」を開発中。ただしクラッチペダルを持ち、そのサウンドはNSXや各タイプR、さらにF1やホンダジェットまでをシミュレート
| かつてホンダはEV向けフェイクMTに対して否定的な見解を示していたが | それでもこの分野に「参入せざるを得ず」しかしホンダらしい手法を採用するようだ さて、ヒョンデは(ピュアEVである)アイオニ ...
続きを見る