
| ストロール体制は継続、ブランド名も維持。だがアストンマーティン本体は苦境にあえぐ |
アストンマーティン、「アストンマーティン」を売る
アストンマーティン・ラゴンダ・グローバル・ホールディングスPLCは今週、アストンマーティン・アラムコF1チームの保有持分を第三者に売却する契約に署名したと正式発表。
売却価格は非公開ながら1億4600万ドル(約235億円)とされており、F1チーム全体の評価額は約32億ドルに達すると見積もられています。
なお、この「アストンマーティン」は自動車メーカーとしてのアストンマーティン本体ではなく、F1チームの名称(アストンマーティン・アラムコ・フォーミュラワン・チーム =Aston Martin Aramco Formula One Team)としての話であり、市販車ビジネスに与える影響は現時点でほぼ「ゼロ」と見られています。
持分はたったの4.6%。しかし今のアストンマーティンには「その4.6%すら貴重な現金源」
「自動車メーカーとF1チーム」との関係性は(ロータス、マクラーレンしかり)ややこしいものが多く、アストンマーティンとてその例に漏れず。
実際のところ、自動車メーカーとしてのアストンマーティンは、F1チームへの出資比率がわずか4.6%にとどまっており、実質的なF1チームの運営権はストロール家の手にあります。
そして今回の持ち分売却により、アストンマーティン本体はこの小さな持分を現金化したことになり、完全に出資比率が「ゼロ」になってしまうというわけですね。
ブルームバーグによれば、アストンマーティンの経営状況は極めて厳しく、過去1年で株価は半減。
第2四半期の売上高は前年同期比34%減少しており、特にヴァルキリーやヴァルハラといったスーパーカーの販売不振が響いている、とされています。
関税も大打撃。米国輸出にかかる税率は一時27.5%に
さらに追い打ちをかけるのが新たな米英間の自動車関税。
かつては2.5%だった米国への輸出関税が、一時最大27.5%にまで跳ね上がり、現在はようやく10%に緩和されたものの、年間販売台数が少ないアストンマーティンのような小規模メーカーにとっては致命的であり(関税分を吸収する手段がなく、しかしそのまま市販車の価格に転化すると高額になってしまって車両が売れなくなる)、現実問題として輸出収益に大きな影響を及ぼしています。
F1は数少ない「収益源」。売却価格は当初想定の1.5倍に
実は今回のF1チーム(の持ち分)売却は当初の見込みよりも大幅に高値での成立となったとも報じられ、2024年3月に売却意向を初めて示した際は1億ドル前後とされていたものの、F1人気の高まりとそれに伴う評価の上昇を受け、最終的な価格は約1.5倍の1億4600万ドルに。
これはアストンにとって、まさに“恵みの雨”といえそうで、苦境にあえぐアストンマーティンの財務状況を(多少なりとも)潤すこととなりそうです。
チームはストロール体制で継続。ブランド名「アストンマーティン」も維持へ
なお、この持ち分売却後であっても、F1チームは今後も引き続きカナダの実業家ローレンス・ストロール氏が率いる体制で運営される見込みだとされていますが、そのほうが同氏にとっても好都合なのだと思われます。
というのも、ランス・ストロール氏が運営するYew Treeコンソーシアムはアストンマーティン本体の株式33%を保有しており、アストンマーティンの名でF1チームが活躍すれば、それはすなわち市販車の販売増加とブランドのプレゼンス強化に直結し、間接的にYew Treeコンソーシアムの資産を増加させることにもつながるから。※彼の息子であるランス・ストロールはアストンマーティンF1チームのドライバーとして参戦を続けている
2026年、F1レギュレーション変更で浮上の兆しも
今季のF1では思うような成績を残せていないアストンマーティンF1ではありますが、2026年には大きなレギュレーション変更が予定されており、パフォーマンスの逆転が期待されています。
さらに注目すべきは、元レッドブルのエースエンジニア、エイドリアン・ニューウェイ氏の加入。
もし彼がレッドブルで見せたような“魔法”をアストンでも発揮できれば、トップ争いへの復帰も夢ではないかもしれず、もしかするとここでのノウハウを市販車にフィードバックし、さらにアストンマーティン全体としてのブランド価値を高めることに成功することとなるのかもしれません。
合わせて読みたい、アストンマーティン関連投稿
-
-
【新型アストンマーティン・ヴァンテージS登場】680馬力・3.3秒で0-100km/h、過去最強の「S」モデルがデビュー
Image:Astonmartin | 680馬力を誇るV8ツインターボ、新シャシー設計と美しき“S専用”ディテールで武装した究極のフロントエンジン・スポーツ | 「ヴァンテージ」はボクがもっとも興味 ...
続きを見る
-
-
【驚愕】アストンマーティンが東京・表参道に「超高級邸宅」を建設。クルマも家も“アート”として楽しむ時代へ
Image:Astonmartin | アストンマーティンが「家」までプロデュース | その場は日本の東京・表参道 英国の高級自動車ブランド「アストンマーティン」が、東京・表参道に初の“ウルトラ・ラグ ...
続きを見る
-
-
【限定10台】アストンマーティン「ヴァルキリーLM」が10台のみ限定販売。ル・マン直系のハイパーカーを市販化
Image:Astonmartin | 今年のル・マン24時間レース参戦車において、ヴァルキリーは唯一の自然吸気V12エンジン搭載車である | ル・マン開催直前、アストンマーティンが超限定モデル「ヴァ ...
続きを見る
参照:Astonmartin, Bloonberg