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2020年の欧州EV市場において「テスラのシェアが1位から3位に下落、4位に転落寸前」。どうしてこうなったのか、そしてシェア回復策はあるのかを考える

2021/01/18

テスラ・モデル3

| 短期的に見るとテスラはシェアを失い続けるだろう |

さて、2019年の電気自動車市場においては「テスラしか売れてない」という状況でしたが、その裏にあったのは「そもそもテスラ以外の選択肢がほとんどない」という事実。

ただし2020年にはテスラ以外にも多くの自動車メーカーが電気自動車を投入しており、西ヨーロッパにおいてはテスラの優位が崩れつつあるようです。

テスラは欧州市場でシェアを失い続ける?

下のグラフは2019年から2020年にかけての(西ヨーロッパにおける)EV販売状況ですが、2019年末には登録台数ナンバーワンだったテスラがなんと3位に後退(このままだと4位に下がってもおかしくはない)。

2020年通年の累計だと、EV販売トップはフォルクスワーゲンの172,000台、次いでルノー=日産・三菱の135,000台、そしてテスラの96,000台、そしてヒュンダイ・キアの95,000台。

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欧州におけるEVの販売台数は2019年との比較にて+105%(つまり2倍以上)へと成長しているものの、この増加分については「テスラ以外」で賄われており、つまり「これまでテスラが売れていたのは、テスラ以外の選択肢がなかった」ためで、その他の選択肢が登場すれば「テスラ以外にも消費者の目が向く」という事実を示しているのかもしれません。

ちなみにテスラは2020年の全世界販売がおよそ50万台だったと公表しているので、欧州はテスラにとって約1/5のマーケットシェアを持っているということになりますね。

今後どうなるテスラの販売?

そこで気になるのが今後のテスラの販売状況。

欧州について考えてみると、欧州市場で売れるクルマは(ガソリン/ディーゼル含めて)もともと「コンパクトカー」が多く、であればフォルクスワーゲンやルノー/日産、ヒュンダイ/キア、PSAが販売を伸ばしているのは「当然」と言えそう。

実際のところダイムラー(メルセデス・ベンツ)、BMWといった「比較的価格の高い」EVラインアップしか持たないブランドの伸びが低く、同様にアウディやポルシェも入ってきていないということを鑑みるに「欧州では価格優先にて、かつコンパクトなEVが好まれている」という事実が再確認されたということになりそうです。

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そしてテスラは今のところ「モデル3」「モデルY」といった、比較的コンパクトなラインアップであっても”そこまで車体が小さくはなく”、加えてID.3やPSA(プジョー・シトロエン)のEVに対して価格競争力をもたず、このままだと2020年のトレンドが繰り返されることになるのかも。

ただ、これをひっくり返す材料としては「中国や欧州でのギガファクトリー(工場)建設や稼働」によるコストの引き下げ、そして中国向けとされる「260万円程度の安価かつコンパクトなニューモデル」の欧州への”輸出”。

加えて、テスラの製造コストは他の自動車メーカーに比べてかなり低いとされ、よってモデル3やモデルYの値下げ余力もかなり大きいと考えられるので、仮に”テスラ大幅値下げ”となった際のコンパクトEV市場消耗戦においても、テスラはかなり有利な立場にあると考えられます。

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世界のEV販売状況はどう動く?

ただ、欧州マーケットはテスラにとって上述の通り1/5。

最大のマーケットは米国、そして今後は中国になると思われ、テスラの業績を占うにはそれらを予測するほうが正しいのかもしれません。

まず米国ですが、先日発表された「最も売れているクルマTOP10」だと、上位3台がぶっちぎりで「トラック」。

そのほかにもトラックが多数ランクインしており、ここにテスラ「サイバートラック」が投入されるとかなりなヒットになる可能性も(現在の予約台数を考慮したとしても)。

さらにサイバートラックのコストは非常に安価だといい、サイバートラックの投入によってテスラの財政状況は大きく変わる、とも見られます。

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テスラは「ローカライズ」を重視?

そのほかインド市場への進出についてもアナウンスされていますが、インドについても現地工場の建設を行う可能性があると報じられ、となると中国同様に「特殊な嗜好を持つインド市場にあわせた、インド向けモデル」を開発する可能性が大。

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この「ローカライズ」というのは思いのほか重要だと考えていますが、これまでテスラは世界共通にて「モデルS、モデルX、モデル3、モデルY」といった4台を販売してきたものの、「アメリカではサイバートラック」「中国では小型で安価なEV」といった具合に、それぞれの市場に向けた展開を行なうというフェーズに突入するのでしょうね。

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世界の自動車販売がすべてEVに置き換わると?

なお、2019年における世界の自動車販売台数は約9000万台。

この中におけるEV/PHEV/PHVの販売は220万9831台となっていて、つまりEV/PHEV/PHVのシェアは2.5%以下。

さらにこれが「EVのみ」となるとぐっと少なくなるものと思われ(ピュアEVのみの統計は探すことができなかったが、2020年で120万台くらいなんじゃないかと予測。欧州のみだと約65万台)、つまり2035年位までのタームで考えると、自動車販売総台数が「変わらないまま」だとして、しかしこれらがすべてEVに置き換わったとなると、「9000万台くらい、つまり今の75倍くらいのEVマーケットが空白のまま残されている」と考えられます。

つまり、世界中の既存・新興自動車メーカーがこの「9000万台」の奪い合いをはじめる(というかすでに競争はスタートしている)ということになりますね。

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テスラはまだまだ「先」を見ている

そこでテスラがここからどれくらいのシェアを獲得できるのかということですが、「このまま既存・新興EVメーカーに食われるのか」「それともさらなる強みを発揮し、ライバルを蹴散らすのか」。

もちろんイーロン・マスクのビジョンの中には前者は微塵も存在しないと考えられ、そのための戦略が「世界各地へのギガファクトリー建設」そして「ローカライズ」なのだと思われます。

しかしながら、おそらくもっとも重要なのは「自社でのバッテリー生産」。

ここから2500万台/年のEV需要が生じるとなると、それに搭載するバッテリーの確保が最重要課題となるのは間違いなく、よって各社とも多くのバッテリーメーカーとの提携によってこれの確保に走っているわけですね。

一方のテスラはというと、増加するバッテリー需要を「他社との提携」ではなく「自前で生産」する方向を選択しており、2020年9月に開催された「バッテリーデイ」にて発表された新型「4680」バッテリーがこの核となることに。

この4680バッテリーは簡単に言うと「容積が小さく、しかしエネルギー密度が高く、製造コストが安い」。

数字的なものだと、従来のリチウムイオンバッテリーに比較してエネルギー密度が5倍高く、一回の満充電あたり航続可能距離を16%伸ばせるとしており、その生産のための準備も着々と進行中です。

よって、他社が「バッテリーの確保が追いつかず、車両の生産ができない」状況を尻目にどんどん車両を生産することも可能で、もしかすると「他社へのバッテリー供給」を行う可能性も。

自動車ビジネスはリスクの塊なので、イーロン・マスクCEOとしてはさらなる経営の効率化を目指し、「自動車の生産台数を増やす」よりも、将来的には「バッテリーメーカー」「(自動運転など制御技術を供給する)ソフトウエアメーカー」へと脱却を図ろうとしているのではないかという考えも読み取ることができ、こういった長期的な計画においても、テスラは「他社の先を行っている」とも考えています。

参照: Schmidt Automotive Research, JAMA

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