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ブガッティ・ヴェイロン開発秘話がいま明かされる:「タイヤ開発だけで5年」など時速400km/hを実現するために必要だった“ありえない”挑戦とは

ブガッティ・ヴェイロン開発秘話がいま明かされる:「タイヤ開発だけで5年」など時速400km/hを実現するために必要だった“ありえない”挑戦とは

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| 時速400km/hの壁を越えるという前人未到の挑戦 |

当時「時速400キロ、1,000馬力」は空想上の産物でしかなかった

ブガッティ・ヴェイロンが自動車の歴史を塗り替えたのは、単に“速いクルマ”を作ったからではなく、それは、物理法則すらもねじ伏せる必要があるという、まさに前代未聞のプロジェクトに挑戦し”達成した”から。

当時のフォルクスワーゲングループの会長、フェルディナント・ピエヒがヴェイロンの開発に際し掲げた目標は「一般公道を走行可能でありながら時速400km/hを超えるクルマの実現」。

これは当時、自動車業界の誰もが不可能だと思っていた領域です。

ブガッティ・ヴェイロンという“常識を超えた夢”を実現した人物──フェルディナント・ピエヒとは何者だったのか。けして限界を受け入れなかった男
ブガッティ・ヴェイロンという“常識を超えた夢”を実現した人物──フェルディナント・ピエヒとは何者だったのか。けして限界を受け入れなかった男

| 2005年当時、「1,000馬力」はまだ空想上の産物でしかなかった時代にヴェイロンを市販 | 限界を受け入れなかった男、それがフェルディナント・ピエヒである 自動車の技術が大きく進歩する時代(ある ...

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タイヤ開発だけで5年。全てが「存在しないもの」からの出発

時速400km/hという速度は、音速の3分の1に相当する領域であり、その速度域では通常の車体構造もタイヤも全く通用しないというのが当時の状況。

実際に、ヴェイロン専用タイヤの開発には5年もの歳月がかかったとされますが、それほどまでに、車両全体の設計思想を根本から変える必要があったわけですね(現代においても、クルマの最高速は「タイヤが決定する」とされ、つまりハイパーカーの性能にタイヤが追いつかない)。

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今まで全力で走れなかったブガッティ・シロン。ミシュランが「シロンのパワーに耐えられるタイヤ開発に成功」との報道

| ブガッティ・シロンがこれで「フルパワー」を発揮できる? | ミシュランがついにブガッティ・シロンの性能に耐えられるタイヤを開発した、との報道がBloombergより。 ブガッティ・シロンは最高速4 ...

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このほか、ボディパネルが風圧で「外れる」ためにパネル(カウル)の多くが開閉せずに固定されていたり(そのため整備は困難を極める)、超高速でドライブトレーンが回転すると「グリスが遠心力で飛んでいって」油切れを起こしてしまうといった開発時の苦労話も聞かれ、規格外のクルマを開発するには既存の技術や常識が通用しないということもわかります。

ちょっと待って!ブガッティ・ヴェイロンの中古タイヤ+ホイールセットが1100万円で販売中。ボッタクリと思いきや、新品で買うと1700万円・・・

3回目のタイヤ交換が必要になったヴェイロンオーナーには安い買い物 ブガッティ・ヴェイロンのタイヤとホイールのセットがebayにて、約1100万円にて販売中。え?110万円ではなくて1100万円?という ...

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心臓部:W16エンジンの驚異

ヴェイロンの象徴ともいえるのが、8.0リッターW16エンジン。

4基のターボチャージャーと10基のラジエーターで冷却され、1,001PS、最大トルク1,250Nm(2,200〜5,000rpm)という圧倒的なスペックを発揮します。

このパワーを制御・伝達するため、ヴェイロンには専用設計の7速デュアルクラッチ・トランスミッション(DSG)が与えられ、これも世界初の試みであったようですね。

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一方で(フェルディナント・ピエヒの直轄プロジェクトであったといえど)開発コストは「無限」であっっというわけではないようで、ドアミラーは当時の「アウディTTとの共用」という”微笑ましい”一面も。

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ブガッティのドアミラー調整スイッチが故障→ディーラーに修理を依頼したら223万円の見積もりが出る→調べたら173円のVW製パーツだったことが判明

| ブガッティ・ヴェイロンは「あまりに維持費が高い」ことで知られるハイパーカーである | 一説によると「シロン」よりも維持にお金がかかるもよう 世界でも指折りのハイパーカー「ブガッティ・ヴェイロン」。 ...

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重心を下げるための“ドライサンプ設計”と専用AWD

このエンジンとトランスミッションはドライサンプ設計によって低く配置され、重心を極限まで下げることに成功。

また、前後のトルク配分を最適化する先進的なAWDシステムと、リアディファレンシャルには多板式のロック機構を採用し、トラクション性能も徹底的に高められています。

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空力制御は「可変式」へ。ヴェイロンのアクティブ・エアロダイナミクス

ヴェイロンの高性能を支えるもう一つの柱が「可変空力システム」。

可動式のフロントディフューザーと、リアスポイラー一体型のウイングにより空力性能は走行状況に応じて自動制御されますが、200km/h以上で作動する「エアブレーキ機能」により、強い減速時にはスポイラーが0.4秒で113度まで立ち上がり、リアに300kgものダウンフォースを発生。

これにより、高速域でも車両の安定性が確保されています。

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まさにミッション・インポッシブル!ブガッティ・ヴェイロンのエンジン整備は困難を極め、パーツや作業難易度の高さにより、プラグ/コイルの交換だけで460万円
まさにミッション・インポッシブル!ブガッティ・ヴェイロンのエンジン整備は困難を極め、パーツや作業難易度の高さにより、プラグ/コイルの交換だけで460万円

| たしかにこれだけの手間がかかるのであれば、このコストにも納得せざるを得ない | しかもこのショップは作業時間を短縮しており、ブガッティの正規ディーラーでの整備であればさらにコストがかかるのは間違い ...

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「スピードキー」で解き放たれる最高速モード

ヴェイロンで400km/hオーバーを目指すには、運転者が“覚悟”を持って臨む必要があり、ドライバーの左側に設置された「スピードキー」を挿入・回すことで、車高(最低地上高)はフロント65mm、リア70mmにまで低下し、空気抵抗を最小限に抑える設定となりますが、このスピードキーを使用するということは「覚悟」のスイッチを入れるということでもあり、クルマがドライバーに対し「本当に覚悟はできてるんだろうな」と問いかけ、ドライバーがそれに対して「イエス」と答える行為として重要かつ必要な儀式なのかもしれません。

実際のところ、この”儀式”は最新モデルであるトゥールビヨンにも受け継がれており、ヴェイロンはここでひとつの伝統を作ったと言えそうです。

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ブガッティ・トゥールビヨンの真の実力は“秘密のキー”で解放される。そしてそのキーとスロットはここに隠されていた

| シロンとはまた別の位置に「秘密のキー」が隠されることに | ブガッティ・トゥールビヨンの最高速は「時速445km」 ブガッティの伝説的ハイパーカー、ヴェイロンやシロンには「スピードキー」と呼ばれる ...

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数百台分の走行テスト、ニュルブルクリンクでの極限検証

ヴェイロンは開発段階で11台のプロトタイプが作られ、合計で数十万kmにも及ぶ走行テストが実施されたそうですが、中には“グリーン・ヘル”ことニュルブルクリンクを本気のレーシングスピードで何千kmも走破した個体も。

そして2005年。世界最速の称号を獲得

そしてついに市販開始直前の2005年、テストドライバーのウーヴェ・ノヴァッキがステアリングを握り、ブガッティ・ヴェイロンはついに407km/hを記録。

この瞬間、ブガッティは「世界最速の量産車」という称号を手に入れ、1,001馬力という前人未到の出力とともに解き放たれることに。

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なお、最高速や出力が「規格外」であるならば、燃費もまた規格外であったようで、それまで数々のスーパーカーを乗り継いできたはずのオーナーであってもヴェイロンの燃費については想定の範囲を超えていたと見え、納車直後には世界各地で「ガス欠」となったヴェイロンがネットを賑わせたことも記憶に残ります(常識をはるかに超える速度でガソリンが減り、給油が追いつかない)。

つまるところ、開発側、ユーザー側というあらゆる方面で「伝説」となったのがこのヴェイロンであり、いかにこのクルマが「想像の範疇を超えた存在」であったかがわかろうというものですね。

いまなお語り継がれるブガッティの伝説

「ヴェイロンが成し遂げたことは、物理法則に挑戦し、人類の限界をも塗り替えた真の偉業です。そして20年経った今も、その美しさ、快適性、技術的完成度は色褪せることなく、我々の誇りであり続けています」

——クリストフ・ピオション(ブガッティ・オートモビル社長)

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参照:Bugatti

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