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ポルシェの水平対向エンジンの出力と耐久性を飛躍的に向上させることになった「キングシャフト」。70年以上前に誕生し「カレラ」の名の由来となったその偉大なパーツとは

ポルシェの水平対向エンジンの出力と耐久性を飛躍的に向上させることになった「キングシャフト」。70年以上前に誕生し「カレラ」の名の由来となったその偉大なパーツとは

| ポルシェの歴史上、その未来を形作ることとなった偉大なパーツや構造がいくつか存在する |

こういった革新がポルシェと他の自動車メーカーとを隔てている

さて、これまでにもポルシェは「ボルト」「キー」など革新的なパーツを公式コンテンツとして紹介していますが、今回解説されているのは垂直シャフト「コーニヒスヴェレ(Königswelle)」。※英語で「キングシャフト(King’s Shaft)」という意味

このパーツは”文字通り”、ポルシェの4気筒ボクサーエンジンをモータースポーツに適したポルシェタイプ547エンジンへと進化させる中心的な役割を果たしたといい、ここでその詳細を見てみましょう。

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垂直シャフト「コーニヒスヴェレ」とは?

この長さ16.8センチの部品は一見地味ではあるものの、ポルシェいわく「ダイナミックな効果をもたらします」。

金属製のハウジングの両端には円錐歯車、いわゆるクラウンギアが取り付けられており、この仕組みが「Königswelle」というドイツ語の名称の由来なのだそう。

このクラウンギア間の構造によって、垂直シャフトは2つの回転を90度の角度で方向転換させることができるようになりますが、この設計によってじつに70年以上前、4気筒ボクサーエンジンを耐久性のあるレーシングエンジンに発展させることができるようになったとされています。

1934年、ポルシェタイプ60(一般的にはVWビートルとして知られる)は、フェルディナンド・ポルシェの指揮のもとでフォルクスワーゲン向けに設計され、この時点で搭載されていた4気筒ボクサーエンジンにはまだ垂直シャフトは搭載されておらず、この革新的なシャフトを設計したのは1950年代初頭のエルンスト・フールマン博士。

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1947年にポルシェに入社したフールマン博士は、1950年に「高速燃焼エンジンの制御のためのカム駆動」というテーマで博士号を取得し、そして1952年夏から、彼の専門知識を活かしてボクサーエンジンの改良が進められることに。

この改良の中心にあったのが今回紹介する垂直シャフトそのものなのですが、この垂直シャフトによる革新的なバルブ駆動方式はのちにモータースポーツ活動の基盤を築くものとなり、まずタイプ547エンジンでは、このシャフトが4本使用され、クランクシャフトの回転をシリンダーヘッド内のオーバーヘッドカムシャフトに伝達します。

この設計は、高回転に対応できること、全開時に正確なバルブ制御を保証すること、そしてほぼメンテナンスが不要であることから、非常に優れたソリューションであったようですね。

垂直シャフト「コーニヒスヴェレ」はポルシェをモータースポーツの主役に押し上げる

かくしてこのタイプ547エンジンは「フールマンエンジン」として知られるようになり、1953年4月2日に初めてテストされ、そこでこの1.5リットルエンジンは6,200rpmで110PSの出力を発揮します(一方で、ポルシェ356 1500の量産エンジンの最大出力は70PSだったというので、このフールマンエンジンがいかに高性能であったかがわかる)。

翌1954年、メキシコで開催されたカレラ・パナメリカーナ公道レースに参加したポルシェ550スパイダーにはこのタイプ547エンジンが搭載されており、その結果としてみごと550スパイダーはクラス優勝を果たすことになるのですが、このレースにちなんでタイプ547エンジンには「カレラ」という名が付けられ、ポルシェ初のスポーツカー356シリーズには新しい派生モデル「356 A カレラ」が加わることに(これは当時の最強モデルであった)。※「カレラ」のほか「タルガ」など、ポルシェにはモータースポーツにちなむ命名も少なくはない

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ただ、ここで満足しないのがポルシェであり、エンジニアたちはさらに高性能エンジンの改良を続けていて、例えばタイプ547/6エンジンは圧縮比の向上と新しいキャブレターの採用によって7,200rpmで135PSの出力を実現することに。

さらに1956年、ウンベルト・マリオリは550Aスパイダーに搭載された新しい547エンジンを駆使してタルガ・フローリオにてポルシェ初の勝利を獲得しています。

この「547系」エンジンの成功は1960年代まで続き、後期には排気量を2リットルに拡大して904カレラGTSに積まれ180PSを発揮したほか、フォーミュラ1用エンジンにも採用されたそうですが、この「コーニヒスヴェレ」はまさに”革新”そのものであり、ポルシェがモータースポーツにおける伝説としての地位を確立するのに一役買ったということになりそうですね。

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参照:Porsche

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