熱膨張率、強度、冷却を考慮した素材の選択から表面のコーティングまで
ポルシェがオーナー向け機関誌「クリストフォーラス」にて、1970年のル・マンにて総合優勝を成し遂げたポルシェ917に関する裏話を公開。
今回は「917に使用されるボルト」の話ですが、ボルトといえども手を抜かないポルシェの姿勢がよく分かるものとなっています。
なお、ポルシェは「キーとキーシリンダー」についても徹底した軽量化を追求しており、そのいきさつを公開したことも。
ハンス・メツガーは悩んでいた
なお、今回の「1970年、ル・マン24時間レース総合優勝にかけた男たちのドラマ」における主人公はハンス・メツガー氏。
この名はよほどのポルシェ(しかも空冷)オタクではないと聞くことはないと思いますが、ハンス・メツガー氏はポルシェのエンジンをレースカー、市販車問わずに設計を行ってきた人物。
レーシングカーだと、ポルシェ単独でのF1優勝を成し遂げた1.5リッター・フラット8、今回紹介する917に積まれるエンジン、マクラーレンF1マシンに積まれて3度のタイトルを獲得したTAGターボ・エンジンも同氏の手によるもの。
ロードカーだと初代911から997世代の991に搭載されたエンジンまでもがハンス・メツガー氏の設計だとされ、もちろん初代「911ターボ」も同氏の作品。※ハンス・メツガー氏とポルシェ911ターボとのストーリーはこちら
同氏が設計したエンジンは「メツガー・エンジン」「メツガー・ユニット」とも呼ばれていますが、とにかく高い耐久性、強度を誇ることが特徴(996/997世代の”半空冷エンジン”ではインターミディエイト問題もありますが)。
そんなハンス・メツガー氏が917のエンジン設計時に悩んでいた問題が「熱膨張」。
917のエンジンブロック、シリンダー及びヘッドに使用されていたマグネシウムとアルミとの合金は熱膨張率が(それらを固定するスチール製ボルトに比較して)高く、エンジン本体が熱くなるとボルトに負担がかかるということが判明。
ただし強度の関係からマグネシウム製ボルトを使用することはできず、「スチール製と同等の強度を持ち、マグネシウムと同等の熱膨張率を持つ」素材を探すことに。
たどり着いた最適解はこれだった
そしてハンス・メツガー氏がたどり着いたのが「ディラバー素材(初めて聞いたが、調べてみると現代では高性能エンジンに使用されることが多い)」のスタッドボルトだそうですが、エンジン中央にある917の冷却ファンがボルトを冷やしすぎて今度は「収縮」してしまうという問題が生じ、そこでハンス・メツガー氏はボルトの表面をガラス繊維と樹脂でコーティングして「冷えすぎないように」加工。※下の画像にてエンジンの中央にある丸い物体が冷却用ファン
そこで完成したのが長さ149.5ミリ、径9ミリ、重さ65グラムの特性ボルト(一番上の画像)で、このボルトがポルシェ917のエンジンには48本使用されることになった、とのこと。
その後のポルシェ917の活躍については蛇足となるのでここでは述べませんが、ポルシェいわく「伝説の誕生の裏は必ず然るべきエピソードがある」。
VIA:PORSCHE
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