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VWが「最も安価なEV」、ID.2の発売を延期するとの報道。ユーロ7導入内容の軟化を受けガソリン車の販売を延長し、その一方でEVの設計を「仕切り直し」か

2024/01/15

VWが「最も安価なEV」、ID.2の発売を延期するとの報道。ユーロ7導入内容の軟化を受けガソリン車の販売を延長し、その一方でEVの設計を「仕切り直し」か

| 中国の自動車メーカーがすべての事情を変えてしまい、現在VWが持つEVプラットフォームやコンポーネントでは到底対抗ができない |

この販売延期の期間は「安く売っても利益が出る」ようID.2を開発し直すことに当てられるものと思われる

さて、欧州では「ユーロ7の導入内容が大幅に緩和され」、導入されることに変わりはないものの、その内容が”ほぼユーロ6のままに据え置かれる”こととなっており、これによって各自動車メーカーともに戦略を大きく変更する必要が生じています。

たとえば「ユーロ7に対応するためのコストが非常に大きく、かつ対応したとしても2035年にはどのみちガソリンエンジン搭載車の販売ができなくなる」としてガソリン車の開発を終了させてEVへとシフトする意向を示していた自動車メーカーにとっても、その方針を撤回して(開発コストがかかる割に回収が難しいEVへの投資を減らし)ガソリン車の開発を再開するといった道が見えてくるわけですね。

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そして今回報じられているのが「フォルクスワーゲンがガソリン車の販売期間を延長し、低コストEVとして計画されているID.2の販売開始を2025年から2026年に延期する」というもの。

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その背景にあるのはほかならぬ上述の「ユーロ7の導入内容の緩和」にあるわけですが、これは「自動車業界の未来、フォルクスワーゲンにとっての未来はEV以外にはない」とし、ガソリン / ディーゼルエンジンを可能な限り早く廃止するという意向を持っていた同社にとっては大きな方向転換であるとも考えられます。

ただ、もうひとつの、そしてもしかすると最大の理由は「EVの需要の落ち込み」にあるものと思われ、このままEVを推進してゆくと販売が伸び悩むばかりか在庫が積み上がってしまい「会社存続の危機」となるのかも。

実際のところフォルクスワーゲンは(フォルクスワーゲンだけではないですが)中国製の安価なEVの侵攻にさらされ地元欧州だけではなく世界中でその販売を伸ばせずにいると報じられており、これは「EVへの転換を急がず、ハイブリッドとPHEVを販売の核に据え、それによって販売を伸ばしてきた」トヨタと大きく差がついたところです。

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フォルクスワーゲンは「利益の出るEV」を作ることに苦慮

なお、フォルクスワーゲンはこういった状況を座して見ていたわけではなく、中国の安価なEVに対抗するため、かねてより「2万ユーロもしくは25,000ドルの」安価なEVであるID.2を企画したわけですが、この価格で販売し利益を出すことは至難の業だとされており、よって少し前にはこの計画自体が暗礁に乗り上げていることも示唆しています。

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さらにフォルクスワーゲンにとって不幸であったのはそのポジショニングであり、たとえばメルセデス・ベンツ、アウディ、BMWは高価格帯すなわちプレミアムセグメントへとEVを投入し、中国の安価なEVと戦わずにEVにて利益を稼ぐことが可能であるものの、フォルクスワーゲンの場合は「プレミアムセグメント」へとEVを投入したとしてもそれが売れるとは考えにくく(VWはプレミアムカーメーカーではない)、よって自身が最も強みを発揮できるであろう部分を中国の自動車メーカーに侵食されている、という実情があるわけですね。

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つまりフォルクスワーゲンが生き残るには「上級移行」ではなく普及価格帯のEVを販売するしかないということになるのですが、これは上述の通り「茨の道」。※VWにとっては様々な戦略が裏目に出たと言っていい

そしてフォルクスワーゲンはこういった状況を打破し、少しでも歩みやすい道を作るため、中国の自動車メーカーと提携したり、中国向けのデザインを取り入れる意向を示したり、中国流の開発手法を取り入れるといった計画についても触れているわけですが、「ユーロ7の内容軟化をうまく利用し」、当面はガソリン車を販売することで現状を切り抜け、しかし水面下では「中国製の安価なEVと戦えるよう」様々な準備を行い、販売を延期する期間は「その準備」に充てるものと考えています。

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