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トヨタ「EVに全面的に取り組むことは、ビジネス上の判断として間違っているだけでなく、環境にも悪い」。ある意味ではトヨタの考え方も理解でき、もしかすると生き残るのはトヨタかも

2023/02/03

トヨタ・プリウス

| ただしトヨタが生き残るのは「トヨタが想定する理由」とは異なる要因からだと考える |

どう考えても、普及価格帯のEVは中国製EVには勝てないだろう

さて、「もっとも環境に優しくない自動車メーカー」「カーボンフリーを謳いながらもランクルのような排ガスを多く出すクルマを作り続ける二枚舌企業」として環境団体から激しく叩かれるトヨタ。

しかし今回、さらに環境活動家が激昂しそうな、「EVばかりを作っている方がよっぽど環境に悪いというデータを見つけた」というコメント共に、独自の理論を展開しています。

トヨタ
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トヨタは電気自動車についてこう考える

トヨタは他の自動車メーカーに先駆けてハイブリッドカーを普及させており、当時「ハイブリッドは過渡的技術」として見向きもしなかった多くの自動車メーカーの考えを一変させた自動車メーカーでもあります(当時、一つのクルマに二つのパワートレインが含まれるのは非効率的だとし、ほとんどの自動車メーカーがハイブリッドに否定的だったが、トヨタのハイブリッドカーが世間に受け入れられるに際し、批判的だったメーカーも翻意してハイブリッドカーを作るようになった)。

ただし現在のトヨタはEV業界への参入が遅れているばかりか、EVを(正確にはEV一辺倒の世の中を)否定するかのような発言を繰り返しており、これによって環境団体ばかりか株主にも批判されているわけですね。

トヨタ
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そして今回トヨタが主張するのは「もしかすると、トヨタの立場をもっと悪くするかもしれない過激な思想」であり、多くの自動車メーカーが約束しているように、EVに全面的に取り組むことは、ビジネス上の判断として間違っているだけでなく、環境にも悪い可能性があるという理論。

そこでこの理論について考えてみたいと思うのですが、トヨタのチーフ・サイエンティスト、ギル・プラット氏によると「EV一辺倒は危険な判断であり、自動車メーカーがハイブリッドや水素などの異なるエネルギー源を持つクルマを提供する方がはるかに理にかなっている」。

しかし、環境のことを考えるならば、排出ガスを出さないEVではなく、なぜハイブリッドを増やそうと思うのかという疑問が出てきますが、それは「(トヨタによると)バッテリーパックの材料となるリチウムの入手できる量が限られているから」。

新型トヨタ・プリウス

つまりトヨタは、リチウムをはじめ電池の製造に使われる鉱物の不足によって思うようにEVの生産ができなくなり、さらにはEVの生産台数による需要の急増で、充電ポイントの不足が自動車業界を直撃する(そしてEVの販売にブレーキがかかる)ことになるとも予測しているわけですね。

テスラ
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さらにトヨタが展開する持論が「何千万台ものEVを動かすのに十分なリチウムがないのであれば、ハイブリッド車で分担するのが筋だ。数百万台のハイブリッド車をつくるほうが、同じ量のリチウムを使って少数の純EVをつくるよりも、全体のCO2排出量に大きな影響を与える」。

ここからは以前も紹介した理論ではあるものの、トヨタの考えはつまるところ、ここに集約されることになります。

「ここに100台のガソリン車があるとします。1台あたりの平均CO2排出量が250g/kmであれば、当然ながら平均は250g/kmですよね。そして100台のうちの1台のみをピュアエレクトリックカーに置き換えると、この100台のCO2排出平均は248.5g/kmに下がります」。

「ただ、この1台のピュアエレクトリックカーに使用するリチウムは、10台のプラグインハイブリッドカー(PHEV)とイコールです。よって、もし同じ量のリチウムしか使用できないのであれば、100台のうちの10台のガソリン車をプラグインハイブリッドカーに入れ替えてみましょう。そうすると、この100台の平均CO2排出量は244g/kmとなり、1台のみをEVへと変更した場合よりもトータルのCO2排出量が下がるのです」。

「ピュアエレクトリックカー1台分のリチウムが、10台のプラグインハイブリッドカーに使用されるリチウムと同じだと述べましたが、さらに言うならば、このリチウムは90台の(プラグインではない)ハイブリッドカーのバッテリーに使用されるリチウムと同じです。よって、例として挙げた100台のうち、90台をハイブリッドカーに置き換えると、100台の平均C2排出量は205g/kmにまで下げることが可能です」。

トヨタ
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たしかにトヨタの言うことも一理ある

ぼくは「たしかにトヨタの言うことも一理ある」とは考えているのですが、トヨタの理論は現在の状況をベースにした机上の空論であるわけですね。

たとえば、よくモータリゼーション黎明期に展開された「机上の空論」だと、「このまま石油が消費され続ければ、2000年代はじめにはガソリンが枯渇する」というものがあり、しかし今ではむしろ石油が余っているくらい。

これはシェールオイルはじめさまざまな採掘方法が開発されたこと、油田開発が進んだこと、石油の代替素材の活用が進んだこと、自動車の燃費が良くなったことなど様々な理由が存在します。

そのほかだと「中国全土にマクドナルドができれば、牛が食べ尽くされる」という試算も(20年くらい前、まだ中国が発展する前)あり、しかし今では中国の至る所にマクドナルドがあるものの、食肉牛が絶滅するという話を聞いたりしないわけですね(その消費量を賄うだけの畜産が行われている)。

トヨタ

ぼくはリチウムもこれと同じだと考えていて、「お金になる」のであればリチウム鉱山の開発がどんどん進むと考えていますし、一方で「代替リチウム」「リチウムを使用しないバッテリー」を実用化すれば、これもまたその企業は巨万の富を手にするので現在あちこちで開発がなされているはずだと考えています。

つまり未来は常に流動的であり、予想した通りの未来がやってくるわけではない(むしろ予想した未来が来た試しはない)とも考えていて、その意味ではトヨタの机上の空論、そしてこれをベースにした「EVは環境に良くない論」にはやや違和感を感じます(ただ、否定はしない)。

しかしながら、ぼくはまた別の意味で「EVシフトは経営的、世界経済的に間違っている」とも考えていて、その理由は中国自動車(EV)メーカーの台頭であり、日米欧の自動車メーカーはおそらくこれに勝てないだろうから。

技術、価格、生産能力の点において中国の自動車メーカーより優れたEVを作ることは難しく、これに勝つことができるのは「ブランド力」、あるいは特定ジャンル(スポーツなりオフロードなり)に特化した「パフォーマンス」だけであろうとも考えているわけですね。

よって、トヨタやフォルクスワーゲン、ホンダ、日産といった「普及価格帯のクルマ」を作っている会社が(仮に)すべてのラインアップをEVに置き換えてしまうと、中国製のEVにそのシェアの多くを食われてしまい、経営危機に陥るのは目に見えていて、よって「EV以外の」生き残れる手段を見つけなければならないだろうとも捉えています。

その意味だと、トヨタの「EVに及び腰」「マルチパワートレイン戦略」はこういった中国製EVの侵略に対するリスクヘッジとなりうる可能性があり、「(VWやホンダ、日産が淘汰されても)電動化をためらっていたおかげでトヨタが生き残る」のではないか、という気もしています。

テスラ
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参考までにですが、日本にいるとあまり実感はわかないものの、現在「自動車市場No.1」は中国であり、しかも2位のアメリカに倍ほどの差をつけるという「ブッチギリ」。

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そして多くの自動車メーカーが中国市場に頼っているという現状であり、しかしその中国市場では日に日に中国車のシェアが高まっていて、遅かれ早かれ普及価格帯の自動車につき、中国では「中国車しか売れない」時代が来るかと考えています。

そうなると日米欧の自動車メーカーは売り上げの1/3、場合によっては40%以上を失う可能性があり、となるともう会社を維持できず、さらに北米や欧州、新興市場においても中国車にシェアを奪われてしまうと、存在意義を失ってしまい、そして様々な統計を見る限り、それはもう絵空事ではないのかもしれません。

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参照:Automotive News

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