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トヨタの新技術は「今まで数時間かけていたものが3分でできる」。2026年の新世代EV」製造に使用するギガキャストが公開され、飛躍的な進歩をアピール

2023/09/20

トヨタの新技術は「今まで数時間かけていたものが3分でできる」。2026年の新世代EV」製造に使用するギガキャストが公開され、飛躍的な進歩をアピール

| 加えてトヨタは車両製造にかかる時間を5時間に短縮したいと語るものの、テスラは40秒に一台を作っている |

まだまだテスラに対抗するまでの道のりは遠いが、トヨタは着実に歩を進めている

さて、トヨタは「現在使用している電気自動車専用プラットフォームであるE-TNGAでは、現在のEV市場を戦い抜くだけの(価格的)競争力を発揮できない」とし、これを使用したEVの開発計画を一旦白紙に戻し、改めて”まったく新しいEV”の開発を行うという計画を発表済みです。

そして新しいEV(とそのプラットフォーム)を開発するに際して、現段階では”もっとも進んでいるテスラ”であるモデルYを購入して分解し、そしてそれを「芸術である」と表現したことについても報じられていますね。

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トヨタは早々に新しいEV構想を発表

上述の通り、トヨタは今から新しいEVの開発を行うことになりますが、その成果である新型EVが登場するのは現在の予定だと2026年。

その間には様々なEVが登場することになるものと思われるので、トヨタとしてはそこまでの空白期間を少しでも小さくする必要があり、よって現在急ピッチにて新型EVの開発が進められていることは想像に難くありませんが、今回トヨタは明知工場にて「約3分で車体の3分の1を作ることができる新しいギガキャスティング装置のプロトタイプ」を披露することに。

つい先日、ギガキャストの導入に関する困難が報じられたことを考慮するに(そのサイズの違いはあるものの)トヨタがこの時点でプロトタイプを発表してきたことは驚きに値する事実であり、いかにトヨタが真剣に、そして迅速に新世代EVへの対応を進めているかの証左だともいえそうです。

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このギガキャストは実際に記者団に対してデモンストレーションが行われたそうですが、その場では溶融アルミニウム(700度)が注入されたのちに250℃まで急速に冷却され、固化して車両シャシーの後部3分の1全体を構成する1つのダイカスト部品へと成形される様子が示されたもよう。

こにれよって今までは「86個の部品から33の工程を経て何時間もかけて作られていたもの」がわずか3分、そして一つの工程にて作ることが可能となるわけですね。

トヨタは2030年までに年間350万台の電気自動車を販売するという目標を達成するため、この技術を利用して生産工程、工場投資、製造準備にかかるリードタイムを半減させることを目指しており、車体構造はこういった感じで「3分割」、そして開発費や工場投資が1/2にまで圧縮される予定であることについても言及済み。

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トヨタは車両の組立時間を「半減」させることを目標としている

なお、トヨタが最初のギガキャスティング試作機を完成させたのは2022年9月だそうですが、重い金型の交換には当初丸1日が必要であったものの、取り外す部品の数を最小限に抑える等の対応によって20分に短縮するなど改良を続けていて、さらにトヨタは成形に最適な条件を分析する独自のソフトウェアにより、競合他社よりも20%高い生産性の達成を目指していることについても触れています。

そしてこのギガキャストに加えて「もうひとつの戦略」として紹介されたのが自走式生産。

これはEV生産に必要な”新しい設備”に対応することを目的とし、工場スペースをより効率的に使用する必要性に対応するものだといい、すでに導入が進んでいるトヨタ自動車の元町工場では、無人搬送車が毎秒0.1メートルの速度で自走して製造や検査など各工程の間を行き来し車両を輸送しているそうですが、これによって従来のベルトコンベヤーが不要になるため、工場のレイアウト変更も早くなり、投資額も削減できるとしています。

Toyota (3)

なお、ここまでトヨタがコスト削減に注力するのは「EV全体のコストにおいてはバッテリー価格が大きなウエイトを占めていて、これを引き下げることが難しい現在の状況では、それ以外の部分のコストを劇的に引き下げる必要があるから」。

そしてコストを劇的に引き下げるには、従来の製造方法を維持しつつ細かいコスト削減を「チリも積もれば」的に進めたとしても効果を得にくいためで、よってトヨタは今回のような「製造方法を根本から劇的に変える」ことで製造原価を引き下げようとしているわけですね。

実際のところ、トヨタの生産本部長は「EV専業メーカーから新たな選択肢を学び、挑戦する」とも語っており、組立時間を現在の(おそらくはシートメタルから完成までの)約10時間から半減させることを計画中だそうですが、ベンチマークとする「EV専業メーカー」がどれくらいの時間で組み立てを行っているのかは不明です(加えて”組み立て”につき、どこからどこまでを指すのかはメーカーによって異なるものと思われる)。

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参考までに、テスラの上海工場ではなんと「1台あたり40秒で生産されている」と報じられていますが、これはすでにギガキャストにて製造されたパーツを使用して組み立てる際の時間だと思われるので、ギガキャストにてパーツを鋳造する時間を含めるともっと長くなるものと思われ、(キャスト開始からの)トータルでのテスラにおける車両組立時間も気になるところ。

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そしてトヨタとテスラとの大きな相違は、「テスラは限られた車種のみ(現在は4車種)を、共通の仕様にて大量生産し、製造工場についても新しい設備を持つ新しい工場を建設できる」ものの、トヨタは「多数のモデルを揃え、共通の仕様で生産することは難しく、かつ工場についても既存の設備を(一部)活用する必要がある/破棄することが難しい」ということ。

よってトヨタがテスラの方式を取り入れたとしてもテスラに追いつくことはできないかもしれず、よってトヨタは「トヨタにしかできない」手法をもってコスト削減を行う必要があり、もちろんそれを一番良く理解しているのはトヨタだと思われます。

そしておそらく、テスラのように「キャビンの構造までを含む」キャストを行わず、あくまでも車体下部の「フロント」「センター」「リア」と分けて鋳造を行うのは、トヨタならではの多品種小ロットに対応するためだと思われ、より幅広い車種に活用することでスケールメリットを出して行こうというトヨタならではのオリジナリティ(もしくはアレンジ)だと言えそうですね。

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2022年ではトヨタが販売したEVは24,000台、それに対してテスラは1,310,000万台を販売しているので、トヨタどうにかしてこの差を埋めねばならず、今後はこのギガキャスト以外にも今後様々な手段が公開されることになるのかもしれません。

なお、トヨタは2026年には年間150万台のEVを販売することを目指しており、このうち40%ほどが既存のE-TNGAを使用し、残りの60%が「ギガキャストを使用した新しいプラットフォーム」を用いることになると見られていますが、2030年の目標である「350万台」だと、そのうち170万台にこの新しいプラットフォームが採用されることとなるもよう。

一方でトヨタは「革新的なバッテリー技術」を導入することも発表しており(バッテリー価格を大きく下げることができれば、E-TNGAにもチャンスが見えてくる)、様々な手段を複合的に組み合わせて新興勢力に対応してゆくということになりそうです。

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参照:Nikkei Asia

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