| これからの自動車業界はギガキャストなしでは語ることができない |
トヨタはこれの導入によって開発費と製造コストを半減させることを目論んでいる
さて、トヨタは先日「EVに関する新戦略」を発表し、その中では「全固体電池(ソリッドステートバッテリー)」「エアロダイナミクス」といった今後の注力要素が語られていて、さらに”コスト削減の要”として言及されたのがギガプレス(ギガキャスト)。
トヨタはこのギガキャストを使用することで開発コストを引き下げ、そして様々な(起こりうる)変化に対応しようという計画を持っており、そしてこのギガキャストについてはトヨタのみならず、多くの自動車メーカーが注目する技術(製造方法)となっています。
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もとはというとテスラが導入したことでその存在が知られることに
そんな「自動車業界の最重要技術」と目されるギガキャストですが、これは溶けたアルミニウムを鋳型に注入する高圧ダイカストマシンを指しており、これまでに作ることができなかった大きなサイズのパーツを「一度に」製造できることが大きな特徴。
従来の製造方法であれば、鋳造した数十個のパーツを溶接して一つの「アッセンブリ」にする必要があり、その鋳造過程、溶接過程、そもそもの設計にかかる時間や工作機械の数など”膨大なコスト”がかかっていたものを、このギガキャストであればひとつのマシン(ギガキャスト)に集約することが可能となります。
そしてこの導入のメリットといえば「時間、場所、工程」など、ありとあらゆる部分における効率化が可能となるということで、逆にデメリットといえばギガキャストが「異常に高額である」ということ、そして「集約された大きな部品」で車体が構成されているため、ちょっとした事故であっても修理が難しくなったり高額になってしまうこと(さらに言えば、テスラのように車種が少なく、1車種あたりの生産台数が大きいメーカーであればメリットを出しやすいが、多くの車種を抱えるフルラインアップメーカーではその効果が現れにくい)。
よって多くの自動車メーカーがこの導入をためらっていたものの、生産効率を最大の課題として定めるテスラ(テスラは効率化を極限まで進め、それによってもっとも安価なEVを作ることを目標としている)がこれを導入したことで状況が一変します。
これからの自動車業界ではギガキャストが標準に?
テスラは「モデルY」の製造工程においてはじめてギガキャストを使用することになるのですが、これまでの工程だと「70の部品」にて構成されていたアッセンブリをわずか2〜3個の巨大な鋳造パーツに置き換えたと言われ、これによって飛躍的なコストダウンを実現しています(結果として車体コストを40%削減でき、600台のロボットが”失業”したとも報じられている)。
ただ、この場合のコストダウン=ケチったという意味ではなく、機能や品質をそのままに(むしろ向上させ)生産工程を効率化したということになり、これによってテスラは大幅に利益率を向上させることとなったわけですね。
そしてテスラの「あまりにも強力な財務体質」を世に知らしめることになったのが先般の「値下げ」であり、これによってますますギガキャストへの注目が集まることになるのですが、トヨタが検証の結果これを取り入れると発表したのは上述の通りで、このほかだと中国の吉利汽車傘下にあるZeekrもこれを導入すると発表したところ。
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なお、Zeekrの場合は、ギガキャストの弱点である「破損の際の(部分的な)修理が難しい」という点を克服したともコメントしており、Zeekrが使用するギガキャストは中国のLK社製だとアナウンスされています。
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一方、テスラが使用するのはイタリアのIDRA社製のギガキャストであることが知られていますが、テスラはさらなる可能性を模索するため、他の会社の製品もテストしている、とも報じられていますね(ギガキャストのメーカーだとスイスのビューラー社もよく知られる)。
なお、現在はトヨタの他にGM、ボルボほかいくつかの自動車メーカーがギガキャストの導入を検討しているとされ、特にトヨタはこれによって開発費と工場投資が半分になるとしており、おそらくは他の自動車メーカーもこの動きに追随するものと思われます。
特に現在は中国製の安価なEVが欧州市場を席巻しつつある状態で、コストをさほど気にしなくてもいい高級車であればまだしも、普及価格帯のクルマを(大量に)作っているステランティスなどは早急にこのギガキャストの導入を図る必要があるのかもしれません。
このほか、ギガキャストの副次的メッリットとしては「製造工程や構造が簡略化されるので」製造段階におけるCO2排出量が減少したり、車体を軽量化できたりといったことが考えられ、副次的なデメリットしては、ロボット同様に人間の失業、そして小さなパーツを鋳造してきたサプライヤーの仕事がなくなる、という点についても指摘がなされ、すべての自動車メーカーにとって必ずしも(規模や目指すところが異なるので)ギガキャストが正解ではない、といった意見も見られます。
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参照:InsideEVs