| 正直なところボルボとポールスターですらこの問題を解決できず、ポールスターはボルボを食い物にしてきただけである |
こrwは「ボルボ問題」として親会社(吉利汽車)にとって大きな頭痛の種であるようだ
さて、ボルボの高級EVブランドとしてスピンオフしたポールスター。
現在はボルボとともに中国・吉利汽車傘下にありますが、つい先日CEOが(おそらく引責の形で)交代したことが報じられています。
なお、ボルボと袂を分かったのは約8年前ではあるものの、いまだEV市場では強みを発揮できず、様々な問題を抱えているもよう。
そして最大の問題とされるのは「存在感が希薄」ということで、そもそもポールスターのオーナーですら「ポールスターがどういったブランドなのか」を説明するのに困る事が多いといい、結果的には「ボルボのようなものですよね?」聞かれ、それに対して「ええ、そうですね、まあ」と答えるのがポールスターに関する一般的なやり取りである、という認識すら持たれています。
この問題はポールスター自身ですら解決が難しい
こういった「ボルボと、そのパフォーマンスとプレミアム性重視のスピンオフブランド」との違いがわからないことは、ポールスターの幹部、エンジニア、デザイナーでさえ解決できない根深い問題となっていて、実際のところ売上は落ち込み、(SUVが自動車業界で人気化したにも関わらず)唯一のセダンに販売を長く頼りすぎ、株式公開後の株価は大失敗、中国への(生産や開発の)依存は資産ではなく負債となっているという状況です。
そしてトーマス・インゲンラート氏のかわりに新しく就任するCEOがマイケル・ローシェラー氏で、同氏はダイムラー、三菱、フォルクスワーゲン、オペル (およびニコラ モーターズやヴィンファストなどの中小自動車メーカー) などの大手自動車メーカーで経験を積んでおり、ポールスターの取締役会および親会社から期待されているのはこれまでのポールスターがなしえなかった「ポールスターが独自の努力で成功すること」。
現在のポールスターは、かつてのホットなワゴンやハッチバックを量産していたポールスターとは異なり、もはやボルボのパフォーマンスサブブランドではなく、この方向性を変更(両社を分離)したのが2015年にボルボとポールスターを買収した吉利汽車。
ただ、この「ポールスターが何なのかよくわからない問題」はこの分離に端を発しているといい、順に説明してゆくと、まずボルボは2013年にフラッグシップとなるクーペ「C90」の開発を開始します。
当時、トーマス・インゲンラート氏はボルボにてデザイン担当上級副社長を務めており、このC90を2020年までに発売する予定であったものの、吉利汽車の買収によってボルボからポールスターが分離され、同氏がポールスターのCEOに任命されたこともあり、このC90はポールスターから「ポールスター1」として発売されるわけですね。
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さらにトーマス・インゲンラート氏は「ボルボ40.2(S40の後継として企画されていた)をポールスター2として2019年に投入するのですが、このポールスター1、ポールスター2ともに「もともとボルボとして企画されたクルマなので」ボルボとあまり見た目が変わらず、この時点で市場は「ボルボとポールスターとはどう違うのか」と大きく混乱してしまいます。
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そして一方のボルボは「2031年までに完全電気自動車ブランドへと移行する」という計画を立ち上げつつもいまだ(多くのブランドが投入している)エレクトリックセダンを投入しておらず、投入したXC40(ポールスターと車体を共有)とC40リチャージはライバルに対しEV性能にて劣っており、EX90はソフトウェアの問題で展開が遅れているという状態です(ポールスター1/2も大きな問題が生じている)。※さらに言えば、EX30は中国製EVということで欧州と米国で高額な関税が課されて販売が芳しくない
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いったい吉利汽車は何をしたかったのか
こうやって見ると、「最初からボルボとポールスターを分けず、一緒のままで展開したほうが良かったのではないか(分けることでいたずらに販管費や開発費が増加しただけなのでは)」という疑問も出てきますが、このスピンオフの理由につき、吉利汽車は「ポールスターには、ボルボにはできない実験的な役割を持たせたかった」からだと言われていて、どちらかというと保守的なボルボに対し、ポールスターではスタイリング、素材、機能に根本的な変更を加えて新鮮さを出し、さらには「オンライン注文のサブスクリプション専用モデル」として展開したかったからだと言われます(米国では、多くの州でフランチャイズ形式のディーラーを持たないオンラインのみの販売は違法であり、しかしサブスクリプションであればこの問題をクリアでき、より低いコストで北米に参入できる)。
しかしながら、この「オンライン販売」「サブスク」につき、吉利汽車が別途立ち上げた「Lynk&Co」のほうがポールスターよりも成功してしまい、さらに革新的なデザインという言う意味においてもポールスターより大きな話題をさらいます。※吉利汽車としては、ボルボの威を借りてポールスターを展開し収益化に結びつけようと考えていたのだと思われるが、ZeekrやLynk&Coのような自社ブランドのほうがより大きな利益を生むようになった
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つまり現在のところ「ボルボとポールスターとを分けた」戦略は機能しないばかりか利益を生まず、よってポールスターは”お荷物”となってしまい、そのためボルボは今年はじめにポールスターから資本を引き上げているのですが、これによって厄介な立場となるのはもちろんポールスター。
ボルボは「ポールスターとの研究開発と製造の協力は継続する」としているものの、資金源を絶たれたポールスターが今後積極的に新型車を展開できるとは思えず、かつ研究開発も進まないであろうためにEVとしての革新的な性能の進歩や自立運転についてもアピールできないかもしれません。
そして生産拠点についてもポールスターは十分ではなく、ポールスター2は中国、ポールスター3は米国(ボルボ工場)、ポールスター4は韓国生産となっており、生産効率にあまり優れないのも事実です(1工場1モデルなのでマスメリットが発生しにくい)。
こうやって振り返ってみると、吉利汽車はポールスターをボルボに便乗せず(ボルボとして企画されたクルマをポールスターとして発売することもなく)、独立したブランドとして立ち上げればよかったかもしれず、そしてデザイン面においてもボルボとの差別化を図り、Lynk&CoやZeekerのデザインを(それらのブランドとしてではなく)用いてポールスターとして発売したほうが良かったのではないか、とも考えられます。
ただ、現在のような状況に陥ったのでは、それらも「後の祭り」となってしまい、よって新CEOの手腕にかけるしかないというのがポールスターの将来なのでしょうね。
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