>VW(フォルクスワーゲン/Volkswagen)

もはやクルマのデザイン、機能は「中国の嗜好」に合わせねば自動車メーカーは生き残れない。VW/ポルシェのデザイナー「中国市場のために変革の必要性を感じている」

2023/10/27

フォルクスワーゲン

| いつの間にか、中国市場においてフォルクスワーゲンは「支配者」から「落伍者」となりつつある |

これを挽回するには、今までの常識に囚われない変革を目指さねばならない

さて、フォルクスワーゲンは「かつて」中国自動車市場の発展を牽引し、覇者として君臨していた存在ですが、現在では多くの中国の地元自動車メーカーに押されて存在感を失いつつあります。

そしてフォルクスワーゲンは販売の多くを中国市場に依存しているため、この状況が続けば「危機的状況」に陥る可能性すらあるわけですが、こういった経緯もあり先月フォルクスワーゲンCEO、オリバー・ブルーメ氏が「(VW内の)各ブランドのデザインを先鋭化し、それを武器とする」という談話を発表することに。

ポルシェ
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ポルシェ/フォルクスワーゲンのデザイナーも「デザイン変革」の必要性を認識

そして今回報じられているのは、フォルクスワーゲングループ、そしてポルシェのデザイン責任者を務めるミヒャエル・マウアー氏の発言で、同氏はまず「(VWグループが)デザインに注力することは非常に良いことです。意思決定者、つまり経営陣がよりオープンマインドになることを意味します」とコメント。

加えて、フォルクスワーゲンを苦境に押しやっている原因である中国の新興企業は「フォルクスワーゲンのデザインをより大胆に変革させることを強いる」とも語っており、すでに同社はシュコダ、クプラ、アウディ、VWといったフォルクスワーゲン傘下にある各ブランドにてデザインの変革を遂行中です。

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実際のところ、クプラでは「これまででは考えることすらできなかったような」デザインを持つコンセプトカーをリリースしており、そのほかの一部ブランドでもデザイナーの入れ替えが発表済み。

Cupra-Darkrebel (2)

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こういった「より個性的な」デザインが現在のフォルクスワーゲングループに求められているというのがグループ内の共通認識であり、よってゴルフのように正常進化を遂げてきたクルマであっても革命的なデザインを採用したり、高級車部門であっても大きくデザインを変更することで販売を促進することが期待されています。

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ただ、「物珍しい」「過激な」デザインを採用すれば売れるというものではなく、ミヒャエル・マウアー氏いわく「エッジの効いた未来的なデザインを正しく表現するのは難しいことなのです。よってデザイン担当者は慎重にそのスタイリングを検討する必要があります」。

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さらに同氏は、「美的感覚と車載機能の両面で中国の購買層とつながる必要があり、現在のVWにのクルマには改善の余地が大きい」と述べ、フォルクスワーゲンのデザイン状況については「悲惨だとは考えていないが、絶対に正しいものにすることがこれまで以上に重要だ」とも。

私の頭の中にはいつも、未来に投げる石のイメージがあります。しかし問題は、どこまで投げられるか?そのスイートスポットに正確に当てること、未来に十分遠くまで行くこと、しかし行き過ぎないこと、これが本当の挑戦なのです。

フォルクスワーゲン・ブランドがボリューム・セグメントで成功を収めたのは、デザインとデザイン・クオリティに強いこだわりがあったからだと私は思います。デザインは確かに会社の最大の問題ではないが、比較的控えめなリソースで多くのことを達成できる分野でもあり、これから大きな挑戦が待っています」。

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なぜ中国のクルマは大胆なデザインを採用できるのか?

そこで考えねばならないのが、なぜフォルクスワーゲン、そして傘下のブランドと、中国の自動車メーカーとの間にデザイン的な差がついたのか。

中国の自動車メーカーというと「コピー」「パクリ」というイメージがあるものの、最近だと(フェラーリやマセラティ、BMWのクルマをデザインしてきた)大御所デザイナー、フランク・ステファンソン氏も「最近の中国のクルマのデザインは侮れないレベルにある」とも。

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その他にも各所から同様の意見を聞くことも多くなっていますが、ぼくが考える”中国の新興メーカーが躍進した”要因としては3つあり、ひとつは「中国の自動車メーカーには歴史(遺産やヘリテージと言っていい)がないこと」、2つ目は「デザインを低コストの武器だと認識していること」、3つ目は「そもそもクルマに対する固定概念がないこと」。

まず「歴史」については文字通りではありますが、フォルクスワーゲン・ゴルフであれば「いくつか守らねばならない」デザイン上のルールがあり、そしてベントレーであれば「長いリアオーバーハング」、ポルシェであれば「盛り上がったフロントフェンダーになだらかなルーフライン」など、そのブランドが構築される過程で培った伝統があり、それを捨て去ることはある意味で「タブー」です(いつかそうしなければならない時期が来るのかもしれない)。

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一方で中国の自動車メーカーではそういった歴史がなく、よって「過去にとらわれることなく未来を作ってゆくこと」ができ、ここに大きな自由度が生まれるわけですね。

そしてこれが2番めの理由にも繋がってくるわけですが、歴史がないということは逆に販売のための基盤も(既存自動車メーカーに比べ)劣っているということを意味し、そしてそのブランドの認知度やファンも少なく、新興メーカーであれば「ゼロ」からのスタートです。

そういった状況において新興自動車メーカーは、既存自動車メーカー、そして同時多発的に登場したほかの新興自動車メーカーの中で自社をアピールし、生き残らなくてはならないわけですが、新興自動車メーカーが(大企業の一部門として新規展開をするのでもなければ)既存自動車メーカーに勝る機能を開発したり実装できるわけではなく、そこで登場するのが武器としてのデザイン。

自社で過激なデザインを行う例もありますが、ジウジアーロやピニンファリーナなど有名デザインハウスにデザインを委託する例、高名デザイナーを引き抜く例なども見られ、そこにコストが掛かったとしても「技術開発に費用を投じるよりはずっと安い」ということなのかもしれません。

テックルールズ

Geely(吉利汽車)
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よって(ゼロベースからスタートする)中国の新興メーカーは「デザイン」をトッププライオリティに掲げることが多く、デザインのために多くを犠牲にする傾向が見られ、これは既存自動車メーカーでは「考えにくいこと」だとも思われます。

ただ、これは考え方の違いでもあり、既存自動車メーカーは「そこまでしなくても売れる」、しかし新興自動車メーカーは「そこまでしないと売れない」ということになり、企業としての優先順位が異なるということになりそうですね。

そしてここからは3つ目に繋がってゆくのですが、「失うものがない」「そもそもの既存生産設備を持たない」スタートアップ自動車メーカーだけに様々なチャレンジが可能となり、よってデザイナーに任される裁量も非常に大きく、既存自動車メーカーのように「伝統を守れ」「そのデザインは今の工作機械では作れないからダメ」「無駄な部分にコストかけずぎ」と言われることもなく、比較的自由にデザインができる傾向があるといい、これが”多くのデザイナーが中国に移る”一つの理由だとも。

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そして(中国での)新興メーカーは「クルマを作ったことがない」「異分野で元手資金を稼いだ」人が一旗揚げようと考えて起業されることも少なくはないとされ、よってクルマに対する固定概念というものがなく、これがさらにフリーダムなクルマを作ることに繋がります。

つまり、そのデザインが「そうあるべき理由」は必要ではなく、要求されるのは単に「カッコいい」クルマであり、それが「スーパーカーとピックアップとのマッシュアップ」であったり・・・。

Great-Wall-Motors-Supercar-Pickup-2

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そしてこれらを見た(中国以外、主に日米欧)既存メーカーのデザイナーや経営者、そして成熟した市場の消費者は「また中国がなにかやったのか・・・」という冷ややかな目で見ていたものの、中国はまだ自動車市場として新しく、消費者自体もクルマのことをよくわからないままに選ぶ例が多いといい、よって消費者も「カッコよければそれでいいじゃない」という選択基準を持つ人が大半であるとされ、そのために”目立つクルマ”が売れるのだ、とも報じられています。

ただ、そういった様々な飛び道具的なクルマの登場も一段落し、現在中国の自動車におけるトレンドは独自進化を遂げているわけですが(デザイン、機能とも)、これに外資自動車メーカーがついて行けるかどうかが今後の成否の鍵を握っているのかもしれません。

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そして中国独自のトレンドの重要性については、まさにフォルクスワーゲンの「美的感覚と車載機能の両面で中国の購買層とつながる必要がある」というコメントに端的にあらわれており、つまり同社は「いま現在、中国の購買層とVWとの間では認識の乖離がある」という理解を持っているわけですね。

フォルクスワーゲンは「その市場の嗜好にあわせようとしなかった(グローバルスタンダードを貫いた)ため」インド市場で存在感を発揮できず、これがスズキとの提携問題に発展したことがありますが、中国市場に関しては「同じ轍を踏むまい」と考えているのだと思われます。

いずれにせよ、自動車市場の勢力図が大きく変わり、これまでの常識が通用しない時代に突入していること、知らぬ間に「中国の基準に合わせねば」生き残りが難しくなったことには驚かされます。

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参照:Bloomberg

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