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もしかしたら最後に勝つのはトヨタかもしれない。他社が育てたEV市場に満を持して乗り出し、「その規模、ノウハウ、国際的なプレゼンス」によって一気に逆転か

2023/08/01

トヨタ・プリウス

| ボクは今までトヨタを侮っていたが |

トヨタにはどうやら深遠な計画があり、正しく市場と自社の武器を把握していたとも考えられる

さて、現在ぼくの中で評価が反転しつつあるトヨタ。

かつてはEVに対して及び腰であること、発表するEVの性能があまりにお粗末であることから電動化に関する競争に取り残されるのではと考えていましたが、メルセデス・ベンツやフォルクスワーゲン、フォードなど「EV先行組」が販売に苦戦して(EVに対する)投資を回収できない中、トヨタはEVへと大きくシフトしなかったことでダメージを最小限に留めることができ、かつ新しい技術をもって「身軽に」次世代EVへとシフトすることが可能となっています。

トヨタ
トヨタはEV競争に「出遅れた」からこそ無駄な出費を抑えることができ、今こそ最新の技術をもって「初期の技術を使用している」ライバルよりもいいEVを作ることができる?

| これがトヨタの意図したことなのか、それとも怪我の功名なのかは判断できないが | いずれにせよ、中期的に見るとトヨタの(EVへの)対応遅れがいい意味で働いたことは間違いなさそうだ さて、先日「一部の ...

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一方、メルセデス・ベンツやVWは相当な投資を行い、いくつかの工場そのものをEV専用に作り替えてしまったために(車体の設計や製造含め)方向性の転換を行いにくく、となると「出直した」トヨタに対してこれらが遅れをとる可能性もあり、一気に形成が逆転してしまうのかもしれません。

参考までに、トヨタ同様に「選択肢は多く持つべきで、EV一辺倒にすべきではない」という見解を示し、事実その通りに動いていたのがBMWですが、BMWは他社に先駆けて電動化ブランド「i」を展開し、しかし成功に結びつかなかったという経験から「EVのみに完全にシフトするのは危険である」という考えを持っていた可能性もありそうです(代償は高かったが、それを取り戻すだけの経験となったようだ)。

フォルクスワーゲン
VWよお前もか。VWが中国シャオペンに投資しEVを共同開発するもよう。もはや中国市場では現地EVメーカーの助けなしには魅力的なクルマを作れない?

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現時点、トヨタはBEV販売では「ほぼ最下位」ではあるが

「現在」のところ、バッテリー式電気自動車(BEV)におけるトヨタの存在感は非常に希薄であり、これは広く認められているところかと思います。

トヨタは2022年に「世界でもっとも自動車を販売したメーカー(1048万台)で、しかしそのうちBEVはわずか22,300台にとどまり、これはBEV世界販売ランキング(メーカー別)だと29位というポジション。

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ルノー、BMW、フォード、そして多くの中国の新興メーカーがトヨタよりも多くのBEVを販売していますが、トヨタのEVラインアップは3台のSUV(C-HR、bZ4X、レクサスUX)と商用バンのファミリー(プロエース)のみとなっていて、この少なさが「トヨタの全販売台数の中で、BEV販売はわずか0.2%」という数字の理由だと考えてよいかと思います。

参考までに、中国最大の電気自動車メーカーであるBYDは(バンを除いて)13種類のBEVをリストアップし、BMWグループだと8種類、ステランティスでは9種類のBEV(乗用車)と15種類のバンがラインアップ。

一方でトヨタはEVではなくハイブリッドに資源を集中させており、これは欧米の競合企業の多くが、EVへの移行を加速させることにリソースを集中させたのとは全く異なる戦略です。

その理由としては「ハイブリッドの方が地球に優しい(リンク参照)」というものですが、これは1997年12月に世界初の量産ハイブリッドカーとしてプリウスを発売したトヨタならではの考えかたによるもので、排ガスが問題視されていなかった当時にいちはやく環境を意識し、1992年に「地球憲章」を定めたトヨタらしい方針だとも考えられます。

豊田章男会長「BEVに関する私の考えは、地球温暖化削減に貢献する重要な技術の一つではあるが、唯一の解決策ではないということだ」。トヨタがBEVに集中しないその理由とは
豊田章男会長「BEVに関する私の考えは、地球温暖化削減に貢献する重要な技術の一つではあるが、唯一の解決策ではないということだ」。トヨタがBEVに集中しないその理由とは

| たしかに「EVのみ」に自動車業界全てが向かうのはあまりに危険すぎるのかもしれない | 現在は「かつてないほど」自動車メーカー間で意見が割れている さて、トヨタは「EVへのシフト」についてはほかの自 ...

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そしてプリウス発売後であっても多くの(実際にはほとんどの)自動車メーカーが「ハイブリッドは過渡的技術である」としてハイブリッドに興味を示さず、しかしトヨタのハイブリッドカーが恐るべき速度で市場に浸透するに際し、メルセデス・ベンツやBMW、ポルシェすらハイブリッドへと参入し、もはやハイブリッドカーは業界標準の一つになったと言っても過言ではありません(トヨタはプリウスを今までに500万台以上販売している)。

実際のところ、トヨタは(BEVで先行する)ほかのどの自動車メーカーよりも電動パワートレインとバッテリーに関する経験と知識を持ち、事実として長年にわたって人類の保有車両の平均排出量を削減してきたという歴史を持っているわけですね。

トヨタは他のどの自動車メーカーよりもグローバル市場を理解していた?

そしてトヨタは「電動パワートレインとバッテリーに関する経験」のほかにも大きなアドバンテージを持っており、それは「グローバル市場を理解する能力」。

トヨタは非常に多種多様なラインアップを持ち、注目すべきは各モデル間でデザインが全く異なること。

つまりはBMWやメルセデス・ベンツ、アウディのように「金太郎飴」的なデザインを持たず、メーカーとしての個性よりも車種ごとの個性を尊重しています。

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これによってトヨタは販売リスクを回避しているとも考えることができ、というのも金太郎飴デザインであれば「現行世代のアウディのデザインが気に入らなければ」アウディそのものが全く購入の検討対象にならないかもしれませんが、トヨタの場合は「RAV4が好きでなくともハリアーは好き」といった具合に取りこぼしが少なくなる可能性が出てきます。

さらには販売する地域ごとの嗜好を良く研究していて、北米には北米の、欧州には欧州の、そして東南アジアには東南アジアの人々が好むデザイン、さらにはサイズや価格のクルマを投入しており、実際にアメリカでは「最も人気のある非米国ブランド」であるうえ、中国では第2位、中南米では第3位、欧州では第5位の人気メーカー。

付け加えるならば、「EVはそもそも消費者が欲しがっていない」という発言を随分前から行っており、実際のところ現在(早すぎる)EVシフトを行った自動車メーカーはそのBEVにつき販売不振に苦しんでいるわけですが、その理由はやはり「価格」。

VW
VW「EVに対して消費者が消極的なのでEVが売れず、工場を6週間閉める」。やはりEVはメーカーが笛吹けど消費者が踊らず、早々にEVシフトを行ったメーカーにはダメージが及ぶ?

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その一方、トヨタはBEVよりもぐっと安価なハイブリッド車を大量に販売しており、計算はしていないものの、これは本当にトヨタの言う通り「EVを売るよりもハイブリッドを売ったほうが、全世界レベルでのCO2を引き下げることが可能になる(そして事実としてそうなっている)」のかもしれません。

トヨタ
トヨタが経済フォーラムにて「なぜピュアEVに注力しないのか」「現時点ではPHEVが最適」だと改めて主張。言っていることは理解できるが、両手を挙げては賛同できない

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さらにトヨタは切り札を持っている

そしてトヨタが今後BEV市場に対して打って出るに際して「切り札」があり、それは”全固体電池(ソリッドステートバッテリー)”。

これは今年6月にアナウンスがなされた「2027年に、10分の充電で1,500kmの走行が可能な」次世代バッテリーで、これが実現できれば”バッテリー専業メーカーでも実現できなかった快挙”となります。

さらにトヨタはギガキャストを使用して製造した「低コスト」な車体にこれを搭載し、他社では対抗できないレベルのコストパフォーマンスを実現することになる可能性が高く、競合他社が切り開き、顧客を育ててくれたEV市場へと満を持して参入するということになるのかも。

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トヨタ
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現在こそトヨタ車は「EVを購入するための下取り」として売却されることが多いと報じられているものの、一度トヨタがこの「次世代EV」を発売した暁には、今度はトヨタのEVを購入するために多くの消費者が他社のクルマ(EV含む)を下取りに出すことになるのかもしれません。

トヨタ
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一旦その準備が整ったならば、トヨタは「その規模、ノウハウ、国際的なプレゼンス」(テスラにも通じる、しかし競合他社がすべて持っているわけではない)3つの要素のおかげで、一気にBEV市場をひっくり返してしまう可能性もありそうです。

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