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| 最先端HUDやスマートコックピットを搭載したマツダの新型EV、EZ-60が重慶モーターショーに登場 |
マツダはもはや「マツダらしさ」を捨てるべきか
2025年6月に入って重慶モーターショー(Chongqing Auto Show)が開催され、ここでマツダは全ラインアップを出展することとなっていますが、なかでも注目を集めたのが、中型SUV「マツダ EZ-60」。
本モデルは、長安汽車(Changan Auto)との合弁ブランド「長安マツダ」が開発した電動SUVで、2025年の上海モーターショーでの世界初公開後、今回が地域初披露となっています。
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マツダEZ-60が中国で異例の大ヒット:3週間で2万台の予約、「合弁EV」では過去最速ペースでの受注を達成。予約金はなんと「200円」
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若年層に刺さるスタイリッシュEV――すでに2万6,000件以上の先行予約
EZ-60は若い都市ユーザーを中心に大きな関心を集めており、6月6日時点ですでに2万6,000件超の少額予約(スモールデポジット方式)を獲得しており、とくに「広い室内」「車内テクノロジー」が好評であったとのこと。※この予約台数は合弁企業が展開するEVとしては過去最速ペースである
- 76%が25〜40歳のユーザー
- 71%が一線・二線都市(大都市圏)在住
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セグメント初の3D HUD+Dolby Atmos対応の先進機能を搭載
EZ-60は多層インターチェンジが特徴だとされる重慶のような複雑な道路環境を想定し、多数の先進機能を搭載しています。
EZ-60の主な装備:
- 100インチ 裸眼3Dヘッドアップディスプレイ(HUD)
・視線追跡(アイ・トラッキング)対応
・停車中はパーキングモードで情報表示 - Dolby Atmos対応 23スピーカー サウンドシステム
- 4nmスマートコックピットチップ(1,700以上の機能に対応)
- 26.45インチの5K浮遊ディスプレイ
・明るさ自動調整機能付き
このあたりが大きく評価されたのだとも考えられますが、もはやマツダがこれまで推し進めてきた「人馬一体感」「ドライビングポジション」といった要素はほぼ注目されていないようで、現地の消費者が注目するのは「いかに広い室内を持つか」「いかに優れた運転アシストを持つか」。
これは「自分で運転し、運転して楽しいクルマ」というマツダの方針とは相反するものであり、中国ではクルマを「移動手段」としてしか捉えておらず、かつ「いかに快適かつ安楽に移動できるか(さらに言うなれば、自分では運転せずクルマが勝手に目的地まで連れて行ってくれるということ)」を重視している端的な例だといえるのかもしれません。
その意味では、(日本の)マツダ単独ではなく、「(現地の嗜好をよく理解した)中国の合弁との共同開発」によって開発したクルマが現地の人々に「刺さった」のはよく理解ができ、これはもうマツダの今までの考え方が中国ではまったく通用しないということが明らかになった事例と言って良いかと思います。
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ただ、これはマツダに限ったことではなく、日産も現地パートナーとの間で開発した「N7」がヒットしていて、これもまた「今までの日産の考え方は(中国市場では)もう古い」というひとつの証明。
さらにアウディも現地10日型ブランド「AUDI」を設立し、トヨタも現地向け車両の開発の責任者を中国人に変更したと報じられているので、いま多くの自動車メーカーがその考え方をシフトさせており、今後は「同じようにマツダや日産、トヨタの名を持っていても」中国では全く異なるクルマが開発され販売されるようになるのかもしれません。
もはや中国市場におけるクルマは、日米欧で親しまれてきたものではなく、もはや別の製品(運転するものではなく運転しなくてもいいもの、運転以外の楽しみを提供できるもの)だと考え、企画し開発する必要があるのでしょうね。
心配なのは「独自性」が薄れること
しかしここで心配されるのは「独自性が薄れること」。
現在の中国市場において、自動車の好みといえば「ツルッとした外観」「細長いLEDライト」「格納式ドアハンドル」「快適な室内」「高い自動運転レベル」に集約され、その名称も基本的には「アルファベットと数字(しかもに文字が多い)」。
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実際のところ多くの自動車メーカーがこの方向性へと集中しており、「売ろうと思えば」独自性を排除して流行に従うしかないというのが現在の状況ですが、こういった環境だと「どこの自動車メーカーのクルマも同じような製品に」なってしまい、さらに競争が厳しくなれば「勝ち残る方法が(技術の頂点がどこの自動車メーカーであっても同じレベルで頭打ちになったとすれば)”価格”しかなくなってしまう」こと。※現実的に、現地のマツダのトップページには「予約金10元(約200円)」という価格情報が真っ先に打ち出されている(ディーラーサイトではなく、メーカーサイトで、である)
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現時点でもその兆候が見られているとも報じられており、これはメーカーの体力を削るばかりか、「独自性を持って他社に先んじる」という健全な企業努力を阻害する環境となる可能性もあり、中国市場における一つの懸念なのかもしれません。
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たしかに中国市場は非常に大きく「魅力的」で、一定の法則に乗りさえすれば「儲かる」のかもしれませんが、それは真綿のように「ゆっくりと、しかし確実に」自身の首を締めることとなり、気がついた時には「どうにもならない」事態に陥っている可能性も。
そう考えるならば、目先の利益を捨ててでも、長期的なリスクを排除し「中国市場からの撤退を考える」自動車メーカーが出ていることにも理解が及びますね。
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参照:Cangan-Mazda