
Image:Michelin
| 自動車に関する技術にはまだまだ余地が残されているようだ |
早ければ2026年からこの技術を実装した市販車が登場予定
さて、昨年に「ブレンボとミシュラン」は未来のブレーキ分野についてのパートナーシップ契約を発表していますが、その研究が順調に進んでおり、この技術が未来の車両制御の中核になりうる可能性が生じています。
この成果はブレーキ界の巨人であるブレンボとタイヤ界の王者たるミシュランが手を組んだ結果としてもたらされたもので、ここで新しい車両制動システム「Sensify(センシファイ)」最新の状況をチェックしてみましょう。
Image:Brembo
センシファイとは何か?──「ただのブレーキバイワイヤ」ではない
そこで両者がタッグを組んで開発している車両制御システム「センシファイ」ですが、一見するとよくあるブレーキバイワイヤ(電子制御ブレーキ)に見えるかもしれないものの、「実態はもっと深く」、というのも従来のバイワイヤは、ペダルから信号を電子ブースターに送り、最終的には油圧でキャリパーを作動させる「電子油圧式」。
ところがセンシファイは以下のような特徴を持っており、「必要な時に、必要なだけ、必要な場所に」ブレーキングパワーを自在に配分できるという制御を行います。
- 各車輪のブレーキ圧を個別制御可能
- 完全油圧式とモーター駆動式を組み合わせ可能
- リアに“乾式(ドライ)ブレーキ”=油圧レス構成も可能
ミシュランが加わって、さらに“賢く”なる
このセンシファイを“飛躍的に進化”させたのがミシュランが提供するリアルタイム・タイヤデータで、ミシュランのソフトウェアは、センシファイから得た車両データと組み合わせ、以下の4つのタイヤ情報をリアルタイム解析することに。
- タイヤ荷重
- 摩耗レベル
- 空気圧
- タイヤ温度
この4要素から**「タイヤのグリップ係数(adhesion coefficient)」を即座に計算し、これによってセンシファイは常に各タイヤの限界ギリギリまでブレーキ力を最適化でき、ミシュランによれば「「いつでも最大の制動力を、タイヤをロックさせずに発揮できる」。
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実験結果では最大約4mも制動距離を短縮
現在は2024年秋に発表を行って以降、ミシュランのテストコースで実地試験を継続しており、「夏タイヤ/冬タイヤ」「新品/摩耗タイヤ」「正常圧/空気圧不足」「ドライ/ウェット路面」など様々な環境にてテストを行っているといい、現段階だと「従来のABに比較して最大で約4mも短く停止可能という驚異の成果を達成しているそうですが、このシステムの真価は“ブレーキ性能”だけに留まらず、というのも「ソフトウェア定義車両(Software-Defined Vehicle)」の概念と完全に一致して設計されているから。
このソフトウエア定義車両というのは、テスラのように「ソフトウエアを先に開発し、その後にそのソフトをどうさせるための要件を持ったハードウエア(クルマ)を開発する」という、従来の自動車の逆の流れにて開発されたクルマを(主に)指しており、各自動車メーカーとも徐々にこの方向へとシフト中。
Image:Brembo
トヨタもこれを掲げ、BMWでは新しいEVシリーズ「ノイエクラッセ」からこの概念を取り入れることになりますが、このセンシファイでは以下のような車両制御システムと連携し、車両全体の挙動を最適化することが可能だと説明されています。
- アクティブサスペンション
- 電子制御デフ
アクティブエアロ - トルク配分システム
市販化は2026年、しかしこれは“序章”にすぎない
ブレンボはこのセンシファイにつき、2026年に市販車への搭載を行うとコメントしていますが、ブレンボ、ミシュランともに「これは始まりにすぎない」と述べており、「 未来のクルマに必要なのは、もはや“馬力”ではない」とも。
実際のところ、このセンシファイは「タイヤのグリップを最大限活かす」=物理の限界に挑戦するシステムでもあり、トルクスプリット4WDやアクティブサスペンション同様にハイパフォーマンスカーの常識を変えてしまうのかもしれません。
実際のところ、加速性能や馬力は(フェラーリが言及したように)人間の能力を超えつつあり、ほかのところでの価値観を追求せねばならない状況となっていますが、その意味でこの「止まる力」の新しい研究は「ブレーキの未来だけでなくクルマそのものの概念を変える」可能性を秘めているのだと考えられます。
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