| 現時点ではマカンEVの受注は好調ではあるが、タイカンの失速と同じ経路をたどる可能性も |
リスクヘッジを考慮するならば、ガソリン版マカンを廃止することは「得策」ではないだろう
さて、他社同様にうまく進んでいないのがポルシェの電動化戦略。
実際のところ、当初ポルシェは「マカンEVと、従来の内燃機関搭載マカンとを入れ替える」つまり電動版マカンをガソリン版マカンの完全な後継として置き換え、ガソリン版マカンを即座に廃止する計画を持っていたものの、その後に「電動版マカンの発売後も、ガソリン版マカンを継続販売する」という方向性へとシフトしており、さらに今回は「再三の計画変更を行ってガソリン版マカンを将来的にも廃止せず、次世代モデルを登場させる」という話が出ています。
なぜポルシェは度重なる計画変更を行うのか
つまりは方向性が二転三転していて不安定なようにも見え、これは今までに確固たる計画に基づき業績を伸ばしてきたポルシェらしからぬ動きのようにも感じられるのですが、その理由としてはやはり「先行きの不透明さ」にあるものと思われます。
マカンに関して言うならば、10年前に発売されたのち、つねにポルシェの主力商品であり続け、後にも先にもマカンよりも「売れた」のはカイエンのみ(しかも僅差であり、マカンとは抜きつ抜かれつである)。
要はポルシェにとって必要不可欠なモデルで、文字通り屋台骨を支えるモデルなのですが、欧州ではサイバーセキュリティ法に対応できず2024年に販売が終了し、その他の地域においても2026年には販売が終了するというのが現時点の計画です。
そしてポルシェは「ガソリン版のマカンの販売が終了しても、その市場を失わなくても済むよう」電動版マカンを2024年広範から市場へと投入していて、たしかにこの電動版マカンはわずか数ヶ月しか販売に貢献できなかったにもかかわらず、タイカンに近い販売台数を記録し、ガソリン版マカンに取って代わることができるかもしれないというポテンシャルを見せているわけですね。
ポルシェはガソリン版マカンの廃止に確信を持てない
そこで今回報じられているのがポルシェの上級関係者が内密に語ったという内容で、それによれば「新型の電動マカン(マカンEV)がガソリンモデルを完全に代替できるかについて、会社(ポルシェ)が完全には自信を持っていない」「新型マカン(EV)の評価は好意的ではあるが、市場環境が不確実な中、その長期的なパフォーマンスをまだ見極めている段階」。
上述のとおり、たしかにマカンEVのスタートは好調ではあるものの、その勢いが二年三年と続くかどうかはわからず、それは2024年に(フェイスリフトによる販売空白期間があったといえど)49%という記録的な販売減少を見せたタイカンの状況を見ると誰もが不安になるかと思います(経営者であればなおさら)。
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現実的に、この内部関係者は「タイカンの販売減少は新たな市場ダイナミクスを浮き彫りにしており、従来の消費者行動に関する前提だけに頼ることはできない(これまでのように消費者が安定した行動を見せるとは限らない)」とコメントし、2024年11月にはポルシェの最高財務責任者(CFO)であるルッツ・メシュケ氏も以下のように述べています。
「当初予定していた完全電動車両にハイブリッドドライブや内燃エンジンを導入する可能性を検討中です。現在、コンセプトの決定を進めている段階です。それでも、内燃エンジンを長期間維持することは確実です。」
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さらにポルシェはカイエンの寿命を延ばすための措置をすでに講じており、(当初は代替だとされていた)完全電動版カイエンがこの数年以内に登場する予定ではあるものの、V8エンジンを搭載した内燃エンジン搭載カイエンが2030年代まで存続することにも言及していて、カイエン同様に「重要な柱」であるマカンもまた、2026年の販売終了という現在の決定を覆し、その後も継続されるという可能性も見えてきます。
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ただしマカンの存続には課題も
しかしながらマカンをガソリンエンジン搭載モデルとして継続するにはいくつかの課題があり、「最大」の問題は「マカンのプラットフォームが老朽化していること」。
すでに現時点でも「どうやってもサイバーセキュリティ法に対応できないほど」時代に取り残されていしまっているプラットフォームをそのまま使用して「ここから何年も」継続させることには無理があり、仮になんとか寿命を引き伸ばしたとしても欧州では(サイバーセキュリティ法に対応できないので)販売できず、そうなると「片手落ち」。
であればもう残されるのはプラットフォームを一新してのモデルチェンジしかなく、しかしポルシェはガソリンエンジン搭載版マカンをフルモデルチェンジさせる計画を持っていなかったためにプラットフォームの開発を行っておらず、しかしここで生きてくるのが「グループ間での資産共有」という強みだと考えられ、現行のガソリン版マカンがそうであるように、新しく登場するかもしれないガソリン版マカンはアウディQ5とプラットフォームを共有することになるのかもしれません。
参考までに、アウディはQ5のモデルチェンジを行ったところであり、この新型Q5はサイバーセキュリティ法にも対応できる「プレミアムプラットフォームコンバッション(PPC)」を採用しているため、これを使用すれば「すべての問題が解決する」ものと思われます
ただ、実際マカンが今後どうなるのかについては正式に言及がなされたわけではなく、今後のポルシェの動きには要注目といったところだと思います(このほか、3列シートのミニバン”K1”、電動版718ボクスターやケイマンについてもなんらかの変化があるかもしれない)。
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参照:Autocar