
| ボクらにとってポルシェは「唯一無二、孤高の」スポーツカーブランドであるが、中国市場では「そうではない」 |
中国市場にポルシェが正式に参入したのは「カイエンの発売」とほぼ同時である
さて、中国が「世界最大の自動車市場」となる過程において、ドイツの自動車ブランドはその恩恵を長年にわたり受け続けてきたわけですが、直近の1−2年になって事情が大きく変わってしまい、BMW、メルセデス・ベンツ、そしてポルシェは2024年に販売台数を大きく落とすなど厳しい状況に直面し、2025年のスタートはさらに厳しいものとなっています。
そしてこれらプレミアムカーメーカーはいずれも2025年第1四半期に二桁台の販売減を記録し、とりわけポルシェが最も大きな打撃を受けたのは既報の通り。
いったい誰がポルシェの苦難を想像し得たであろうか
ポルシェといえば「スポーツカーのメートル原器」たる911を生産する「代替性のない高級ブランド」でもあり、そのブランド価値は揺るぎないものと思われていましたが、2024年の中国では販売台数が前年に比べて28%減の56,887台に落ち込んでおり、2025年第1四半期に至っては、2024年1〜3月期と比べて42%もの大幅な減少へ。
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結果として中国での販売台数はわずか9,471台にとどまってしまい、その理由についてポルシェは「中国市場における経済状況の緊張が続いていることと、需要と供給のバランスを取ることを目的としたバリュー志向の販売戦略に注力しているため」と説明しています。
ただ、ぼくがここで思うのは欧米や日本にとって、ポルシェは代替性のないブランドではあったものの、中国では「替えがきく」ブランドであったのではないかということ。
どういうことかというと、日米欧のではポルシェは「モータースポーツにて圧倒的な強さを誇るスポーツカーブランド」であり、たとえカイエンやマカンといったSUVが販売の過半数を占めようともそのスポーツイメージは「揺るがない」ものだと考えられます。
中国では「ポルシェ=スポーツカーメーカー」ではない
一方、中国におけるポルシェの認識はというと、日米欧とは異なって「スポーツカー」という捉えられ方をされることが少ないんじゃないかという印象も。
というのも、中国にポルシェが「正式に輸入」されはじめたのはカイエンの発売とほぼ同時期であり、よって中国の人々にとってポルシェとは「スポーツカーメーカーではなくSUVメーカー」という認識があるのでは、とも考えているわけですね。
実際のところ中国では911や718ケイマン・ボクスターの数が非常に少なく、カイエンやマカン、そしてパナメーラの姿が数多く見られます。
ちなみにですが、パナメーラはポルシェがはじめて欧州以外でワールドプレミアを行ったモデルであり、そのアンヴェールは上海に行われていて(中国では相当な話題になった)、こういった事情もまた「ポルシェがスポーツカーメーカーとして認識されること」を妨げてしまったのかもしれません。
とにもかくにも、中国におけるポルシェとは「SUVとサルーンを作るメーカー」であり、そして一時的に中国市場において大きな人気を獲得したため、多くの中国の自動車メーカーがポルシェのクルマをコピーすることになってしまったわけですが、そのコピー対象もまた「911ではなくカイエンやマカン、タイカン」。
そしてこれらコピーの意図は「ポルシェがカッコいいから」あるいは「ポルシェがカッコいいと思われているから」であり、たとえばメルセデスAMGがポルシェ911をターゲットとし、「911の”パフォーマンス”を凌駕すべくAMG GTを作った」のとは全く異なる理由であって、つまりポルシェの”表層だけ”を真似たものだということに。
そしてこういった「ポルシェっぽいクルマ」が中国に溢れ、それらが受け入れられているということは、中国市場そのものにおいて「ポルシェとは、歴史的に価値のある、他の自動車メーカーでは作り得ないスポーツカーを、独自の思想を持って作る自動車メーカー」ではなく、「たんにカッコいいクルマを作るだけのメーカー」だと捉えられていたからなのかもしれません。
つまるところ中国市場において「ポルシェはその表層しか見られておらず、その思想が理解されていなかった」ということになりそうですが、ここには2つの問題があるとも考えていて、ひとつは中国市場の「クルマに対する理解の浅さ」。
これは自動車の普及がつい最近までなされていなかったという事情を考慮すると「やむなし」だとも考えており、しかし問題はもう一つの「ポルシェの中国市場に対する対応」。
おそらくポルシェは「中国ではカイエンやマカン、パナメーラがホイホイ売れる」ことからそこに注力してしまい、ブランドのコアである「スポーツ」イメージの浸透をおろそかにしてしまった可能性があって、これが中国におけるポルシェを「スポーツカーメーカーではなくSUVやサルーンメーカー」という普遍的な認識にとどめてしまったのかもしれません。
ただ、いかにポルシェが「中国において、ポルシェがスポーツカーブランドであることを」アピールしたとしても、中国におけるモータースポーツ人気が高くなければそれは徒労に終わってしまい、よって現在の状況は単に「ポルシェの旬が過ぎ、そして中国市場のクルマに対する要求と考え方が、ポルシェとは合わなくなってしまった」だけなのかもしれませんね。
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