■そのほか自動車関連/ネタなど

内燃機関はもしかすると永遠に生き残るかもしれない。欧州議会最大グループが「合成燃料/代替燃料の使用による内燃機関存続を、暫定ではなく永久に」明記するよう提案

内燃機関はもしかすると永遠に生き残るかもしれない。欧州議会最大グループが「合成燃料/代替燃料の使用による内燃機関存続を、暫定ではなく永久に」明記するよう提案

| これが実現すれば、各自動車メーカーは明確なビジョンのもと、安定した投資を行うことが可能に |

結果的には内燃機関を存続させ、それをカーボンフリーにするための取り組みを国家挙げて進めるのがいいのかもしれない

さて、すでに形骸化しそうな欧州の「2035年の内燃機関禁止」ですが、現時点では例外として合成燃料/代替燃料の使用が認められているものの、実際にはこれについて明確な規定がないもよう。

そこで今回、ロイター通信が「欧州最大の議員団体の1つである欧州人民党 (EPP) が、EUが計画している2035年の新車排出ガス禁止を見直し、代替燃料と合成燃料の使用を訴え、2035年以降につき、代替燃料の使用を明確に反映するよう規則を改正することを望んでいる」と報じることに。

この草案の抜粋によると、EPPはEUに対し、「2035年以降も代替ゼロ排出燃料の使用を可能にするため、新車とバン(商用車)のCO2削減規則を改正することを望む。欧州連合は合成燃料の使用を認めているが、これは一時的な措置であり長期的な解決策ではないと明確に述べられている。よって我々は、内燃機関の禁止を見直して存続させ、最先端の内燃機関技術を開発することを望んでいる」と記されています。

つまり、少し前の報道では「合成燃料の使用によって2035年以降も内燃機関が生き残るかのように報じられたものの」実際には代替燃料の使用は一時的な解決策ではなく、長期的には内燃機関廃止の方向で動いており、しかし今回の草案では「内燃機関を永久的に存続させるための方法を考案すべきである」と主張しているわけですね。

合成燃料(Eフューエル)製造メーカー「合成燃料が一般向けの自動車用として提供されるのはずいぶん先です。まずは航空機や船舶など、内燃機関の代替がない業界からです」
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これまでの「内燃機関禁止」の流れはこうだった

当初、EUの政策では、CO2を排出するすべての車両は2035年までに新車販売が禁止されると規定されており、これは事実上「内燃機関の死刑宣告」。

よって、ヨーロッパのディーゼル車とガソリン車は永久に消滅するはずであったものの、昨年にドイツ政府 (および他のいくつかのヨーロッパ諸国) は、合成燃料の使用による内燃機関存続(免除措置)を追加することを以下の理由によって要求しています。

  • すべてのEU諸国が EV をサポートできるほど経済的に発展し、また国民が高価なEVを購入できる立場にあるわけではない
  • 自動車製造はイタリア、ドイツ、その他のヨーロッパ諸国の主要産業であり、内燃機関は特に多数の関連産業を支えている
  • 多くの高性能車は高級品であって通勤用ではなく、(大排気量内燃機関搭載車が存続したとしても)環境への影響は極めて限られている

これを受けてEUでは(上述の通り)合成燃料(あるいかカーボンフリーだと認められる燃料)の使用を前提に内燃機関の存続を”一時的に”認めたものの、これについても将来が担保されておらず、よって自動車メーカーとしては「合成燃料に対応する、環境性能の高い内燃機関」に投資して良いものかどうか、はたまた燃料メーカーやベンチャーも「合成燃料に投資すべきかどうか」判断できない状況にあるのかもしれません。

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よって今回、上述の欧州人民党 (EPP) が未来を切り開くべく立ち上がったということになりそうですが、このグループは大きな影響力を持っており、最近の欧州議会選挙で720議席のうち188席を占め(最大の派閥なのだそう)、よって今週ポルトガルで開催されるEU会議では期待できる結論が導き出される可能性もありそうです。

現実的に考えるならば、このまま「内燃機関の禁止」を進めてゆくと、欧州主要産業である自動車関連業界において(整備工場まで含め)多くの失業者が出るばかりか、(関税障壁が設けられたとしても)割安な中国車に市場を席巻されて欧州の自動車メーカーは存在感を失ってしまうことが考えられ、かつ高額な電動化関連投資を吸収できず、最悪の場合は大型倒産といった懸念も。

しかし内燃機関を存続させることができれば、この分野には中国の新興EVメーカーが参入しないと思われるので「非関税障壁」として欧州の自動車メーカーを保護でき、かつ代替燃料を使用したとしてもエンジンや車体の基本構造は変わらないためにサプライヤーや整備工場も売上を失わずにすみ、各自動車メーカーも「明確な、そして永続的な目標」に向けて安定した経営ができるようになるわけですね。

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よって、欧州人民党 (EPP) は、単にノスタルジーの観点から「内燃機関を残すべき」と発言しているわけではなく、欧州全体の未来、そして競争力や雇用の維持までをも含めて今回の提案を行っているのだと考えてよく、これに反対するのは単にヒステリーとして捉えられるのかもしれません。

合成燃料(代替燃料)に対する考え方は自動車メーカーによって異なる

なお、合成燃料(Eフューエル)/代替燃料に対する考え方は自動車メーカーによって異なっていて、そもそも「内燃機関登載車の販売禁止」のボーダーラインである年間1万台の生産に達していないパガーニ、ケーニグセグ、ブガッティといった少量生産メーカーにとっては「考える必要のない規制」。

ブガッティ
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一方で内燃機関をそのブランドのコアバリューとし、かつ1万台を超える(あるいはその見込がある)ポルシェ、ランボルギーニ、フェラーリなどは合成燃料に活路を見出し、とくにポルシェとフェラーリは自前で合成燃料を生産する意向を見せています(ポルシェはすでに実用化に成功)。

ただ、1万台を超える規模であっても、ロータスは合成燃料については否定的な見解を示しており、内燃機関の有無がブランディングに影響しないであろうフォルクスワーゲンも合成燃料をして「ナンセンス」とこれをバッサリ。

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ちなみにトヨタはまた異なるアプローチを取っていて、「水素」を代替燃料として用いるべく研究を進めており(ヒョンデ、フェラーリ、BMW、ポルシェも水素関連技術の研究を行っていることが判明している)、すでにモータースポーツ分野ではこの実証実験を開始ずみで、マツダ、スバルとともに「環境規制に対応した内燃機関を開発する」と発表するなど、各メーカーによって今後の方向性には大きな差異が見られます(それもこれも、各国や地域ごとに内燃機関に対する対応にバラツキがあるからだと思う。その意味でもEUがリーダーとなり、内燃機関を存続させてほしいものである)。

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