| テスラの言い分も「もっとも」ではあるが、結果的には消費者にとってメリットのある話ではないかも知れない |
ただし政府としても他国との兼ね合いもあり、環境に関する規制を厳しくせざるを得ないものと思われる
さて、「増産には慎重な姿勢を取る」と発言したイーロン・マスクCEOですが、今回は「バイデン政権に対し、すでに提案されているよりも、さらに積極的な企業平均燃費(CAFE)基準を導入するようにという申し入れを行った」との報道。※CAFE=Corporate Average Fuel Economy
これには様々な意図があるものだと思われ、ひとつは急速に進行する気候変動に対する懸念、そしてもうひとつは未だ根強いガソリン車志向を覆したい(結果的にEVの販売を有利に進めたい)という意向によるものだと思われます。
テスラはCAFE規制についてこう考える
このCAFE規制につき、ざっくり説明すると「自動車メーカーの規模によって温室効果ガスの排出量が決められており、これを超えると罰金を支払わないといけない」というもの。
ちなみにこの罰金額を圧縮するため、CAFE規制を下回っている自動車メーカーから「下回っているマイナス分」を購入し、それを自社の「CAFE規制を上回っている分」と相殺することも可能であり、テスラはもちろんEVメーカーなので「マイナス分」をたんまり保有しており、そのマイナス分を販売することで一定の収入を得ていると言われています。
そんなテスラですが、報道によれば、テスラは「2027年から2032年までの毎年、自動車は2%、トラックは4%というCAFE基準の引き上げ案では不十分であり、乗用車だと6%、トラックだと8%に引き上げるべき」と主張している、とのこと。
現在のNHTSAの提案では、2032年までに全車両の平均燃費を1ガロンあたり58マイルにすることが義務付けられていて、GM、トヨタ、フォルクスワーゲン、その他多くの自動車メーカーで構成されるグループはこの数値につき、不合理であまりに強引だという極端な反対意見を示しています(実際のところ、この数値はガソリン車では非常に達成が難しく、内燃機関を積む場合だとハイブリッドもしくはPHEVでないとクリアが難しいようだ)。
それぞれの言い分が違う立場から衝突することに
つまり(ガソリンなど内燃機関搭載車を製造する)既存自動車メーカーはCAFE規制の目標数値が「高すぎ」とし、一方内燃機関車を製造しないテスラは「低すぎ」としているわけですが、つまりはそれぞれの異なる立場から異なる意見を出しているということに。
テスラは自身が考える数値を追求することが「エネルギーを節約し、気候変動に対処する」ためのより良い取り組みになると主張しており、たしかにそれは間違いないものの、競合他社つまり既存自動車メーカーにとっては大きな不利として働くことは間違いなく、よって今回のテスラの主張については「販売を有利に進めるためのプロパガンダである」とも受け取られているわけですね。
Alliance for Automotive Innovation(自動車メーカーと自動車部品会社で構成される団体)の試算によると、テスラの主張する数値をNHTSAが採用した場合、業界全体では140億ドル以上の罰金に直面することになると見積もっており、たとえばGMは65億ドル、ステランティスには31億ドル、フォードだけでも10億ドルという想定です(そしてこれら企業はテスラからマイナス分の”クレジット”を購入することになるのかもしれない)。
一方、NHTSAはテスラの提案する数値を導入した場合、(燃費が改善されるので)アメリカ人のガソリン代節約に役立つと述べ、2032年までにすべての面で180億ドルの節約になるとしており、これもまた「正論」である一方、自動車メーカーは燃費に優れる自動車を開発しなくてはならなくなることで多額の出費を強いられ、そしてそのコストは新車価格に跳ね返るため、結果的に消費者にとっては「利益のある話」ではないのかもしれません。
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参照:Reuters