| やはりミドシップスポーツの開発は相当に難しいようだ |
さて、困難な状況が続くアストンマーティンですが、今回さらに追い打ちをかけるかのような報道が。
アストンマーティンは2016年にハイパーカー「ヴァルキリー」を発表し、その発売に向けて開発を進めてきたものの、どうやら現在暗礁に乗り上げている模様。
ヴァルキリーは「自動車史上最高出力を持つ自然吸気エンジン」を搭載し、かつ「市販車史上最大のダウンフォースとコーナリングG」を標榜し、さらにはF1で禁止されてきたテクノロジーを用いることで「サーキットではF1よりも速く走る」と言われてきたクルマ。
まさか発売できないということはないと思うが
そして今回の報道によれば、ヴァリキリーの発売を遠ざけている要因としては「信頼性の欠如と、運転の”極度の”難しさ」。
信頼性という点ではやはりコスワース製の6.5リッターV12エンジンが問題になっているのだと思われ、この「レーシングカーにも勝るレベルの」超高性能エンジンに日常性をもたせることが難しいのだと思われます。
そして運転の難しさについては、アストンマーティンにとって慣れない「ミドシップ」に起因するものだと考えていますが、アストンマーティンはこのヴァルキリーを頂点に「ヴァルハラ」「新ヴァンキッシュ」というミドシップシリーズのラインアップを構築しようとしており、つまりはこれらをもってフェラーリやマクラレーン、ランボルギーニに対抗しようということですね。
実際にフェラーリからはエンジニア、マクラーレンからはテストドライバーを引き抜いており、「ミドシップカー」ラインアップのためには相当なコストを支払っていますが、「すべてのはじまり」のヴァルキリーがポシャってしまうと、その後の計画がすべて潰えてしまうということにもなってしまいます。※レクサスLFA開発時には”ミドシップ案”が出たものの、ドライバビリティの面において問題があり、そのためFRを採用したという
思い切ってミドシップから手を引くのも経営判断のひとつ
つまりアストンマーティンは「もう後には引けない」ところまで来ているように思われ、しかしここで「ヴァルキリー計画、その後のミドシップカー計画を思い切ってキャンセルする」というのもまたひとつの判断。
現在、アストンマーティンCEOは、これまで成長を牽引してきたアンディ・パーマー氏から投資家のローレンス・ストロール氏へと交代していますが、ローレンス・ストロール氏はこれまで参戦を予定していた「ル・マン24時間レースのハイパーカークラス」への参戦を取りやめるなどいくつかのコストカットを実施しています。
よってヴァルキリー計画をキャンセルすることも「ないとは言えない」と考えているものの、そうなるとすでに顧客から受け取った保証金の返還、これまで行った受注処理の撤回など多大なコストと労力が発生することに。
ただ、このまま開発を継続したとしても利益を出せる見込みは薄く、その後にヴァルハラ、そして(ミドシップとなる)新ヴァンキッシュを発売できたと仮定して、しかしすでに目標であったフェラーリは「さらに先に行ってしまっている」、そして「EV時代へと移り、ガソリンエンジンのレイアウトはさほど重要ではない」という世の中になっている可能性もあり、ここでなんらかの判断を下す必要があるだろうとは考えています。
なお、アストンマーティンはDB11発売を契機に破竹の勢いで成長してきましたが、その後急激に業績が悪化し、今回のコロナ禍で「どん底」に。
運命の歯車が逆転しだすと、もとに戻すことがいかに困難であるかというひとつの例だと言えそうです。
参照:The Supercar Blog