| このまま値下げ合戦が激化すれば多くの新興自動車メーカーは倒産の憂き目に、そして既存自動車メーカーも大打撃を受けるのは間違いない |
世界最大の自動車市場である中国での競争は想像以上にずっと厳しい
さて、つい数日前には中国市場にておいて「不毛な値下げを行わない」という中国の自動車メーカー間による紳士協定が結ばれたばかりですが、今回はその舌の根も乾かぬうちにその合意を撤回した、との報道。
ただしこれはどこかの自動車メーカーカーが約束を破ったというわけではなく、この合意が「中国の独占禁止法に違反する」、つまり談合に該当するという可能性が指摘されたためなのだそう。
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いったいなぜ「不毛な値下げを行わない」合意が行われたのか
そこでこの「値下げしない合意」についてですが、これを行おうとしたきっかけは昨年12月にはじまったテスラの「値下げ」。
それまでのテスラ含むEVは資材高騰含むインフレのために「値上げに次ぐ値上げ」という状況だったものの、テスラが12月に突如として大幅値下げに踏み切ったわけですね。
そしてこの値下げによってテスラは大きく販売を伸ばし、そしてそのあおりを食らう形で多くの新興EVメーカーが販売を失ってしまい、そこでテスラに対抗すべく続々値下げに踏み切ったのですが、テスラと他社とでは利益構造が大きく異なり、テスラほど利益率が厚くないライバルは大きく利益を失う形となってしまいます。
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結果的にテスラの値下げは「販売を伸ばす」という効果のみではなく、結果的に「他社の他社の息の根を止める」武器としても機能することになり、こういった状況に対して中国自動車業界(CAMM)が「値下げ競争は在庫増加を招くために長期的な解決策になりえず、健全な業界に発展にならない」とコメントしたことから値下げに歯止めをかけるべく今回の「合意」が結ばれたものと考えられます(およそ20社程度がこの合意に参加したと言われている)。
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なお、値下げを行ったのはテスラのライバルと目される小鵬汽車(Xpeng)や蔚来汽車(NIO)、そして当初は「値下げを行わない」とコメントしていたメルセデス・ベンツ、フォルクスワーゲン、フォードにまでも及んでおり、現地ではとんでもないカオスに陥っているであろうことも伺えます。
まだまだ中国市場での「カオス」は続く
ただ、ここで値下げが一段落するかといえばそうではなく、メルセデス・ベンツは中国にて「EQE」「EQS」を大幅値下げ。
これはもちろん”売れていない”からですが、この価格帯であればそもそもテスラと競合しておらず、しかしそれでも値下げしたのは「中国車との競争が厳しいから」だと思われます。
意外なことではありますが、中国車は「安いクルマだけではなく」1500万円前後のクルマもけっこう多く、そしてそれらは中国市場の嗜好にあわせて作られているため、非常に高い(中国国内での)競争力を持っています。
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さらに現在、中国では100社程度のEVメーカーが存在するといい、しかしこれらは「ピークには500社ほどあった」中の生き残りなのでツワモノ揃い。
これらEVメーカーも多種多様なEVを取り揃えているため、日米欧の自動車メーカーが発売するEVが相当に苦戦することになるのは間違いなく、実際のところGMはキャデラック・リリックを(7月10日に)14%下げて439,700元から379,700元へ、そしてフォルクスワーゲンも(7月7日に)IDシリーズを(モデルによって)8−27%ほど値下げしています。
こういった状況を見ると、各社とも相当に苦しいということがわかりますが、仮に「世界ナンバーワン市場」である中国のEV市場において、これまでのガソリン車のように大きなシェアを獲得できなかった場合、日米欧の自動車メーカーの売上は大きく減少することになり、今後中国市場が(政府の意向とともに)EVしか販売できなくなったりすると、最悪の場合(とくに普及価格帯のEVを販売し、中国車と直接競合するフォルクスワーゲンだと)全世界での売上の1/3〜半分くらいを失ってしまうのかもしれません。
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参照:Reuters