>トヨタ/レクサス(Toyota/LEXUS)

レクサスはLF-ZCの「開発中止」当日に別モデルの「開発承認」を行っていた。「前に進むための勇気ある撤退」であったようだ

レクサスRZ600eのフロントとレクサスエンブレム
Life in the FAST LANE.

| レクサスはLF-ZCの開発で培った技術を「より広範に」活用することに重きを置いたもよう |

ただし具体的な「新しく開発するモデル」については言及がなされていない

レクサスが「未来を変える」と銘打って開発を進めていた次世代フラッグシップEVセダン「LF-ZC」。

その市販化プロジェクトが量産直前の段階で突如として中止されていますが、これはレクサスのEV撤退を意味するものではありません。

開発中止を決断したまさにその日、同社はすぐさま「後継モデル」の開発を正式承認するという自動車業界でも極めて異例の立ち回りを見せており、なぜレクサスは、発売間近だった近未来セダンを葬り、即座に次なる一手を打ったのか。

トヨタの副社長兼チーフ・テクニカル・オフィサー(CTO)である中嶋裕樹氏が語った舞台裏と、そこから見えてくるレクサスの新戦略に迫ってみたいと思います。

レクサスのコンセプトカー、LF-ZCのエクステリア
レクサスの次世代EVが開発中止に。「EVが売れない」現実を背景にトヨタが下した「論理的判断」と死なない最先端技術の行方とは

Image:TOYOTA | なぜセダンは消えたのか?トヨタを動かした2つの「EV市場の現実」 | 現代の経営において重要なのは「スピード」そして「現実」である 2023年の「ジャパンモビリティショー ...

続きを見る

この記事の要約

  • 異例の決断: レクサスは2023年に発表し、2026~2027年発売予定だった次世代EVセダンのコンセプトカー「LF-ZC」の市販化を直前で開発中止
  • 即座のバトンタッチ: 開発中止を決めた「その当日」に、全く新しい次世代「後継EVモデル」の開発をスピード承認するという異例の戦略をとった
  • 技術は死なず: 中止の理由は量産設備への莫大な初期投資リスクだが、LF-ZCのために開発された「ギガキャスト」や「全固体電池」などの革新技術は、そのまま後継機へ完全継承される
レクサスのEVに使用されるVR技術

Image:Lexus

レクサスLF-ZCとは?幻となった次世代EVセダンの特徴

一般的な自動車開発において、市販化目前のモデルをキャンセルする場合、プロジェクトそのものが失敗に終わるか、あるいは電動化戦略全体のトーンダウンを意味することがほとんどです。

しかし、今回のレクサスのロジックは異なっており、中嶋副社長がメディア(日本経済新聞など)に明かしたところによると、LF-ZCの市販化を断念したのは、金型の手配や量産用の生産設備へ巨額の投資を実行しなければならない最終決定のタイミングであったといい・・・。

「私たちは確かに開発を中止しました。それはLF-ZCの金型や量産設備の配置など、大規模な投資を行う必要がある段階での決断でした。しかし、LF-ZCの開発中止を決めたまさにその日、私たちは次世代となる後継モデルの開発を正式に決定したのです」

チームは(以前から)次なるモデルでの予想販売台数や市場環境を徹底的に議論し続けており、その結果、LF-ZCという特定の車型(セダン)に巨額の資金を投じるのではなく、そこで培った最先端技術をより市場性の高い「別のカタチ(後継モデル)」へと移植する方が合理的であるという、非常に冷静かつ戦略的な判断を下したというわけですね。

ここで、惜しくも市販化が幻となった「LF-ZC」がどのようなモデルだったのかをおさらいしておくと、これは2023年の「ジャパンモビリティショー」で世界初公開され、レクサスの次世代BEV(バッテリーEV)の試金石となるはずだった一台です。

レクサスのコンセプトカー、LF-ZCのエクステリア

Image:Lexus

レクサス LF-ZC(コンセプト仕様)主要スペック

項目スペック(目標値・推定値含む)
全長4,750 mm
全幅1,880 mm
全高1,390 mm
ホイールベース2,890 mm
空気抵抗係数(Cd値)0.2未満
航続距離従来比約2倍(1,000 kmクラスを目指す)
コックピットOSArene OS(次世代車載ソフトウェア)

低重心で極限まで引き締められたシャープなスタイリング、そして従来の2倍の航続距離を目指した高性能角型バッテリー、そしてAIを活用したインテリジェントコックピットなど、レクサスの未来がすべて詰め込まれていたのがこの1台。

しかし世界的なEV需要の伸び悩みや、北米をはじめとする主要市場でのセダンからSUVへのトレンド転換といった市場の逆風を受け、レクサスは高価格なセダンでの勝負を一度リセットする必要に迫られたとみられています。

レクサスが2026年に発売を予定する次世代EV、「LF-ZC」「LF-ZL」を公開。これまでのBEVコンセプトとは内外装一新、目標航続距離は1,000km

Image:Lexus

涙を呑んだエンジニアたち:完全継承される「ギガキャスト」と「新EV技術」の未来

この決定については現場では多くのドラマがあったといい、中嶋副社長、「LF-ZCの開発に心血を注いできた従業員の中には、悔しさのあまり涙を流すエンジニアも大勢いた」と振り返ります。

しかし同時に、彼らが成し遂げた技術的成果に対して「心から誇りに思う」とも語っていて、なぜならエンジニアたちが血のにじむような努力で完成させた革新技術は、何一つ無駄になっていないからであり、以下のコア技術はすべて次の後継モデル、あるいはトヨタ・レクサスグループ全体の次世代車へと引き継がれることとなるもよう。

  • ギガキャスト(GigaCast)技術数十個の板金部品を組み合わせる代わりに、巨大な一体成形鋳造によって車体構造を作り出す革新的製造プロセス。初期の金型投資は莫大ですが、部品点数の削減と生産ラインの効率化により、次世代モデルの量産フェーズでは劇的なコストダウンを実現可能
  • 超小型・高効率パワーユニット(eAxle)モーター、インバーター、ギヤトランスミッションを限界まで小型・軽量化。これにより、室内空間を最大限に広げつつ、車両の軽量化と電費向上に貢献する
  • 次世代バッテリーと全固体電池(Solid-State Batteries)期待されるトヨタの全固体電池技術などが組み合せることが可能となれば、1回の充電で600マイル(約1,000km)以上の航続距離と驚異的な急速充電時間を実現する可能性がある
  • 次世代ADAS(先進運転支援システム)と「Arene OS」高度な自動運転・運転支援システムと車載ソフトウェアプラットフォームの開発はすでに完了しており、こちらは新型RAV4のソフトウェア開発ツールなどに先行して応用され始めている

自動車市場での位置付けと競合の動向:なぜ「セダン」からシフトするのか

現在、世界のラグジュアリーEV(セダン)市場では、ポルシェ・タイカンやテスラ・モデルS、あるいは中国勢の先進的な電動セダン(HUAWEIのAITOやBYDのDenzaなど)がしのぎを削っているという状態。

レクサスがここでLF-ZCの市販化を急がなかった背景には、トヨタが掲げる「マルチパスウェイ(全方位)戦略」があるとされ、トヨタはBEV専業メーカーとは異なって、ハイブリッド(HEV)、プラグインハイブリッド(PHEV)、そして内燃機関(ICE)を同一の柔軟なプラットフォームで作り分けることが可能となる次世代1.5Lエンジンなどの開発を並行して進めています。

この観点から見てみると、レクサスは「過激なデザインの純EVセダン」という狭い市場でリスクを背負うよりも、より量産効果が見込める「次世代ラージSUV(コンセプトモデル『LF-ZL』ベースなど)」へとLF-ZCの超一級の技術をスライドさせた方が”2030年に向けて確実に勝てる”と踏んだ可能性が非常に高く、短期的にはSUVシフトで足場を固め、インフラが未成熟な地域にはマルチパスウェイで柔軟に対応する——これこそがレクサスらしい、極めて現実的で賢明なリスク管理ということになるのかもしれません。

レクサスRZ600eのリア
Life in the FAST LANE.

結論

レクサスが下した「発売直前のLF-ZCの開発中止」というニュースは、一見するとネガティブな挫折に見える可能性も。

しかしその本質は、激変する世界情勢を見据えた「超高速の戦略的撤退と勝つための再配置」とも受け取れるもので、中嶋副社長が「EV市場は間違いなく拡大していく。私たちは開発の手を絶対に止めない」と断言しているように、涙を流したエンジニアたちの情熱、そしてギガキャストをはじめとする次世代EV技術は、すでに水面下で進められる次の「本命モデル」へと宿ることになりそうです。

あの美しい近未来セダンの姿が見られないのは寂しい限りではありますが、それ以上のサプライズと完成度を引っ提げて登場するであろう「真の後継車」の姿を”期待して待つだけの価値はある”と考えていいのかもしれませんね。

合わせて読みたい、レクサス関連投稿

レクサスLC500に積まれるV8エンジン
30万キロ超えも余裕?レクサスのV8エンジンが「壊れない」理由とは?ヤマハと共同開発した究極の心臓部「2UR-GSE」について考察してみる

| レクサスの5リッターV8エンジンは今なお高い評価を誇っている | ある意味、トヨタは車両よりもエンジンのほうが「有名」な場合も少なくはない かつて、BMW M3やアウディ RS5が自然吸気(NA) ...

続きを見る

ニュートリノグレーのレクサスRZ 600e(フロント)
レクサスがこんなクルマを作っていいのか・・・。レクサスRZ 600e F SPORT Performanceの実車をチェック、そのトンガリ具合がハンパない【動画】

Life in the FAST LANE. | サードパーティーによる改造車でもここまでの尖ったクルマは出てこないだろう | とくにオーバーフェンダーとリアウイングの迫力が凄まじい 新型レクサスRZ ...

続きを見る

レクサスTZのエクステリア〜リア
レクサスTZには「LFAのV10サウンド」を再現するアクティブサウンドシステムが内蔵されているようだ。いったいどんな音なのか聞いてみたい

Image:Lexus | レクサス新型「TZ」が3列シート電気SUVの常識を覆す | レクサスは北米向けには「北米用」プレスキットを別途用意していた つい先日、レクサスが放つ最新の3列シート電動SU ...

続きを見る

参照:Nikkei, etc.

->トヨタ/レクサス(Toyota/LEXUS)
-, , , , ,