>トヨタ/レクサス(Toyota/LEXUS)

トヨタ新社長「あまりにも車種多すぎ」。多様化したモデルと複雑化した仕様が開発コストを圧迫していると判断し”ラインアップ最適化”へ

ランドクルーザーFJ(ブルー)のフロントグリル
Life in the FAST LANE.

| 近健太氏が挑む聖域なき「車種削減」。世界王者が直面する肥大化の罠とマルチパスウェイの未来とは |

ただしトヨタは「利益だけ」を考慮した車種削減は避けるもよう

年間世界販売台数「1,053万6,807台(レクサス含む)」、2025年は前年比3.7%増という驚異的な需要に支えられ、6年連続で世界販売王者の座に君臨するトヨタ自動車。

一般的に販売台数の拡大はポジティブなニュースとして捉えられますが、自動車メーカーの究極のゴールは「ボリューム(量)」の最大化だけではありません。

たとえ販売台数が少なくても、1台あたりの利益率(マージン)が高ければ、企業はより健全に多くの利益を生み出すことができるからで、これが「利益率」が重視される理由です。

こうした中、2026年4月1日付で佐藤恒治氏の後任としてトヨタの第13代社長兼最高経営責任者(CEO)に就任した近健太(こん けんた)氏が、早くも同社の「アキレス腱」にメスを入れようとしているとの報道。

財務畑出身である近新CEOが、就任からわずか2ヶ月強で開発現場の視察を経て導き出した問題意識――それは「増えすぎたモデルと複雑すぎる仕様のトリミング(削減)」。

世界一の自動車巨人が見据える、次世代の効率化と走りの歓びを両立する戦略について考えてみましょう。

トヨタ・クラウンセダンのテールランプ
Life in the FAST LANE.
【衝撃】トヨタが社長「わずか3年で」交代。緊急記者会見にて新社長に近健太氏が就任すると発表、何があったトヨタ・・・。
【衝撃】トヨタが社長「わずか3年で」交代。緊急記者会見にて新社長に近健太氏が就任すると発表、何があったトヨタ・・・。

| 前社長、佐藤氏は「副会長」へ。2026年4月新体制の全貌 | 2026年4月、トヨタが「二頭流」の新時代へ 世界最大の自動車メーカー、トヨタ自動車が大きな決断を下すことに。 2026年2月6日に「 ...

続きを見る

この記事の要点

  • 新CEO近健太氏がラインナップ削減を示唆: 2026年4月に就任した近新CEOは、多岐にわたるモデルや複雑化した仕様が開発コストを押し上げ、エンジニアの負担になっていると指摘
  • レクサスの次世代EV「LF-ZC」が開発中止に: 市場需要の変動と開発・製造負荷のバランスを考慮し、フラッグシップEVセダン「LF-ZC」の市販化計画の凍結を決定
  • 伝統の「ランクル70」は継続、ハイブリッドを強化: 1984年誕生の超ロングセラー「ランドクルーザー70」など価値ある既存モデルを守りつつ、主力であるハイブリッド車の生産能力増強へ
  • 「マルチパスウェイ戦略」の維持を明言: EV一辺倒にならず、ガソリン、ハイブリッド、PHEV、ディーゼルなど、多様なパワートレインを地域ニーズに合わせて最適に提供する方針を堅持
レクサスのコンセプトカー、LF-ZCのエクステリア
レクサスの次世代EVが開発中止に。「EVが売れない」現実を背景にトヨタが下した「論理的判断」と死なない最先端技術の行方とは

Image:TOYOTA | なぜセダンは消えたのか?トヨタを動かした2つの「EV市場の現実」 | 現代の経営において重要なのは「スピード」そして「現実」である 2023年の「ジャパンモビリティショー ...

続きを見る

開発現場を回って見えた「エンジニアの限界」とコストの壁

6月に開催された定時株主総会後、メディアの取材に応じた近健太CEOは、自身が研究開発(R&D)センターを精力的に回る中で「ある深刻な課題を認識した」と明かしたといい、それは、あまりにも広大に広がりすぎたトヨタ・レクサスの製品ポートフォリオが、現場のエンジニアたちを疲弊させているという現実です。

そして同じ場で近CEOは次のように語り、膨れ上がったラインナップの適正化が必要であると示唆したのだそう。

「開発部門へ足を運ぶと、作成される異なる仕様やバリエーションの数がどんどん増加しており、それが結果としてコストを押し上げているという課題が見えてきます。もしそれらの活動の中に、真に価値を生み出していない領域や、効率的に業務が行われていない部分があるのであれば、私たちはそこをより綿密に精査していく必要があります」

日本でのこの10年、カローラはなんと40%もの価格上昇、一方で賃金上昇は10%にとどまり「国民車」が高嶺の花になったという事実
Life in the FAST LANE.

これまでトヨタは、世界中のあらゆる顧客のニーズに応える「フルラインナップメーカー」としての基盤を強固なものにしてきましたが、しかし、同じモデルの中でも国や地域ごとに異なる無数のグレード、顔つき、インテリア仕様、エンジンバリエーションを開発することは、莫大なR&D資金とマンパワーを消費します。

近CEOは、数値上の利益を追うだけでなく、現場の「付加価値を生まない非効率な作業」を徹底的に排除するという構えを見せているわけですね。

象徴的な「引き算」と「維持」:レクサスLF-ZCの中止と42年目のランクル70

具体的にどの既存モデルが削減の対象(ディスコン)になるかは現時点で明言されていませんが、トヨタはこの合理化戦略の象徴とも言える大きな決断をすでに下していて、それがレクサスの次世代BEV(電気自動車)セダン「LF-ZC」の市販化開発中止です。

レクサス「LF-ZC」開発中止の背景

2023年のジャパンモビリティショーで世界初公開され、ギガキャスト(大型一体成形技術)や先進のArene OSなどを投入した「次世代EVの旗手」となるはずだったLF-ZC。

しかしトヨタは、EVを巡る市場需要の急激な変動や、車両の企画・製造に要する現場の過度な負荷を総合的に勘案し、このプロジェクトの凍結を決断することに。

ただしこれはEVレースからの撤退を意味するものではなく、「器(車両そのもの)の開発は止めるが、中身(ギガキャスト、次世代バッテリー、SDVソフトウェア)の技術開発は継続し、別の確実な需要が見込めるモデルへ転用する」という、きわめて合理的かつ現実的なリソースの再配分であると報じられています。

レクサスのコンセプトカー、LF-ZCのエクステリア

Image:Lexus

42年目の名車「ランドクルーザー70」は守り抜く複雑さ

一方で、トヨタのラインナップの奥深さを象徴するのが1984年の誕生から数えて42年目を迎える「ランドクルーザー70シリーズ」で、日本やオーストラリアをはじめ、世界中で今なおアップデートを重ねながら現役で販売されています。

骨格は40年以上前のヘビーデューティーSUVではありますが、その堅牢性と信頼性は「地球上のあらゆる場所から生きて帰ってこられる」唯一無二の価値を持つという「他に代えることができないクルマ」。

近CEOが目指す効率化は、こうした「真に価値のある多様性」を切り捨てることではなく、ユーザーに選ばれていない無駄なバリエーションを整理することにあり、これはぼくら消費者側に立った判断であるともいえそうですね。

パワートレイン別アプローチと生産・販売スペック

トヨタはEV一辺倒にブレーキを踏む世界的な市場の波をいち早く予見していた数少ない会社ではありますが、近CEO体制でも、その現実路線はさらに強化されるといい、大きく分けると今後のパワートレイン戦略は以下の通り。

パワートレイン・戦略項目今後の方向性と具体的なアプローチ
ハイブリッド(HEV)最優先課題として生産能力の大幅な増強を計画。世界的な需要爆発に対応。
マルチパスウェイ戦略ガソリン、HEV、PHEV、ディーゼルを適材適所で維持。「急にブレーキを踏むことはない」と明言。
EV(BEV)戦略需要の波を見極めつつ慎重に投資。会長の豊田章男氏が予測した「EVシェア最大30%説」の現実味が増す。
Gazoo Racing(GR)「GR GT」主導で別ブランド化されたスポーツ部門。ファン向けの高性能車は維持される見込み。
「GR」ナンバープレート
Life in the FAST LANE.
トヨタ
【EV一辺倒の誤算】トヨタとBMWが自動車業界全体を“出し抜いた”理由:マルチパス戦略が示した現実的な未来

| EVシフトに警鐘を鳴らした2社:トヨタとBMW | 将来に対する「柔軟性」が明暗を開ける 2020年代初頭、自動車業界はこぞって“電動化の大号令”を掲げることとなり、内燃機関の終焉を宣言するととも ...

続きを見る

「フルラインナップの巨人」が今、モデルを減らす理由

単に「利益の増減」だけでなく、「メーカーが何を基準に車種を絞り込んでいるのか」という背景知識を知ることは、これからのクルマ選びにおいて大きな気付きを与えてくれます。

そしてこの「何を選んで何を残すか」という判断が今後の生き残りを大きく左右すると考えてよく、「利益だけ」を考えて効率化しすぎると、ちょっと前の日産のように「消費者に選ばれないブランド」となってしまう可能性があるため、なにごとも「バランス」が重要というわけですね。

日産GT-R 50 バイ イタルデザインのテールランプ
いま日産に何が起きているのか?「不健全な経営」から「ファンが待ち望んでいた自動車メーカー」へ。「合理性」から「非合理性」へのシフトとは

| 日産はイヴァン・エスピノーザCEOのもと、新しい計画とともに新次元へと向かう | 何よりも「心躍る」クルマの開発にシフトしたことは高く評価したい さて、日産が2026年4月に長期ビジョンを発表して ...

続きを見る

1. 「選べる楽しさ」と「製造の非効率」のトレードオフ

ぼくらはクルマのカタログを見て、選択肢が豊富であればあるほど「こんなにたくさんのグレードやオプションから選べる」と喜びがちですが、実はそれが新車価格の高騰や納期の長期化を招く一因になっています。

例えば北米仕様のカローラセダンには外観が微妙に異なるだけのグレードが6つも存在し、これらを統合し、シンプルな選択肢にすることは、メーカーのコスト削減だけでなく、ユーザーにとっても「本当に欲しい仕様が分かりやすく、手に入りやすくなる」というメリットをもたらすというわけですね(ただ、トヨタはほかメーカーにはない多様な選択を用意することで消費者の支持を集めてきたため、やはりバランスが重要である)。

2. 「技術の共通化」がもたらすスポーツカーの生存戦略

クルマ好きにとって最大の懸念は、車種削減によって「GRスープラ」や「GR86」「GRカローラ」といった走りの楽しいクルマ(低ボリューム・高付加価値モデル)が消えてしまうのではないか、という点かと思います。

しかし、近CEOが財務の知見を活かしてベースモデルの仕様(不要なトリムやニッチな派生車)を徹底的に整理・共通化すれば、そこで浮いた開発リソースや資金を、むしろブランドの象徴である「GR」のようなエモーショナルなスポーツカー開発へ持続的に投資できるようになり、つまり、「無駄を削ることは、クルマ文化を守るための防衛策」でもあるわけですね。

トヨタ GRスープラのエクステリア~テールランプ
Life in the FAST LANE.

そしてここしばらくのトヨタが身をもって体験したのは「(豊田章男氏の舵取りのもとで)面白いクルマを作れば売れる、売れればファンが増える」ということで、(効率のみを重視して)ここから昔の「壊れないが、何も面白くはないクルマを作る自動車ブランド」と言われるトヨタに逆行することは「まず」ないであろうとも考えられます。

トヨタ・プリウス(イエロー)のフロント
豊田章男「私は14年かけトヨタとレクサスを退屈なブランドから楽しい車を作るブランドへと変革したが、今それが一瞬にして元の姿に戻るのではという悪夢を恐れている」

| 現在のトヨタの強さが「本物」なのか、「砂上の楼閣」であったのかはこれからはっきりするだろう | 豊田章男氏はトヨタを変革するのに相当な苦労を積み、しかしその成果を自分以外でも維持できるのかどうかに ...

続きを見る

結論

世界王者であるトヨタ自動車のトップに立った近健太CEOの挑戦は、「ただ売るためのクルマ」を量産する時代から、「本当に価値のあるクルマ」を厳選して届ける時代へのシフトを告げています。

次世代EV「レクサスLF-ZC」の開発中止に代表されるような、市場の現実を見据えた迅速な方向修正は、一見すると守りの姿勢に映るかもしれません。

しかしその本質は肥大化した組織と開発現場の負荷をリセットし、トヨタの本分である「もっといいクルマづくり」に集中するための極めて攻めのインテリジェントな経営判断ともいえるもの。

数あるパワートレインの選択肢を残す「マルチパスウェイ」を崩さず、無駄な枝葉を間引いて幹を太くする。近新CEOが舵を切るこの新しいトヨタのカタチは、単なるコストカットの退屈な車社会ではなく、ぼくらが未来の愛車に出会うための、より洗練された洗練のプロセスとなるであろうと信じています。

合わせて読みたい、トヨタ関連投稿

トヨタ「ザ・クラウン」にてマットブラックのクラウンとクラウンスポーツ
【今日からトヨタは新社長】佐藤恒治社長が任期最終日の3月31日、交代前夜に「このままでは生き残れない」「現状維持では死」と悲痛な叫びをあげたとして話題に

| トヨタ自動車「社長交代劇」の真相はいまだにナゾである | ここからトヨタは「どう動く」のか 世界最大の自動車メーカー、トヨタ自動車に激震が走っているというニュース。 2026年4月1日の社長交代を ...

続きを見る

トヨタ
トヨタがモデルチェンジ周期を「9年」に延長すると決定—ソフトウェア定義車両の導入、そして「ソフト更新でクルマを成長させる」戦略とは

| かつてトヨタは「4年ごと」にモデルチェンジを行っていたが | 好調なトヨタが仕掛ける「常識破り」の戦略転換 トヨタ自動車は5年連続で世界最大の自動車メーカーの地位を維持し、さらには注文の積み残しが ...

続きを見る

トヨタ FT-Seコンセプト(オレンジ)〜フロント
豊田章男会長が激白。「EVだけの未来が私が感じる最大の恐怖です」。独りエンジンを守り続ける“孤高のトップ”が語った本音とトヨタ内燃機関の逆襲とは

Image:TOYOTA | 世界がEVに突き進む中、なぜトヨタのトップは「孤独」を恐れないのか | 今ようやく豊田章男氏の考えが理解されつつある 世界中の自動車メーカーが環境規制の波に押され、巨額の ...

続きを見る

参照:Automotive News

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

->トヨタ/レクサス(Toyota/LEXUS)
-, , , ,