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ついぞ発売されることはなかったが・・・。「V8」911がポルシェ公式にて1台のみ製造され存在する。伝説の試作車「965ブラックボマー」の知られざる開発秘話

ポルシェ965プロトタイプのフロント

| ポルシェは「ハイパワー化する」スーパーカーに対抗するため、V8化を検討していた時期がある |

実際に「市販直前まで進められた」という話が聞かれたことも

ポルシェ911といえば、伝統の「水平対向6気筒(フラット6)エンジン」をリアに搭載するパッケージングがその代名詞。

実際のところ空冷時代から水冷化、そして現代のハイブリッド技術に至るまで、市販された911のパワーユニットは一貫してフラット6であり続けています。

しかしその歴史の裏側に「リアにV8エンジンを積み込んだ911」が1台だけ存在していたことも一部でよく知られる事実であり、「開発コード965」と呼ばれるそのプロトタイプは、ポルシェの危機的状況と技術者たちの狂気的とも言える工夫から生まれた、まさに「幻の911」ともいうべき存在です。

ここではポルシェ博物館の秘密の保管庫に眠る、たった1台の試作車「ブラックボマー(Black Bomber)」の知られざるストーリーに触れてみましょう。

ポルシェ965プロトタイプのリア
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この記事の要約

  • ポルシェは市販版の911に水平対向6気筒以外を採用したことはないが、リアにV8エンジンを搭載した「965」と呼ばれる幻のプロトタイプが存在する
  • 最高峰フラッグシップ「959」の技術を手頃な価格で提供する「ジュニア959」として開発され、コスト削減の観点からアウディ製の水冷V8エンジンが試作車に積み込まれた
  • 1987年の世界的な株価暴落による財務難で市販化は断念されたものの、唯一現存する試作車「ブラックボマー」は後の996世代における水冷化の礎となった

ポルシェ965(プロトタイプL7)の概要

「965」という名称は、ポルシェファンの間では964型ターボ3.6のパーツ刻印などで耳にしたことがあるかもしれず(よってこのパーツを組み込んだ964ターボを”965ターボ”と呼ぶこともある)、そのため1984年に開発がスタートし、1990年の発売を目指して進められていたこのプロジェクトにつき、市販時には「ポルシェ969」と命名される予定だったのだそう。

もともとの開発の狙いは、伝説のハイパーカー「959」と、当時“ウィドウメーカー(後家造り)”の異名をとった「930ターボ」の間に位置する最高峰スーパーカーを作ることであり、959の車高調整式サスペンションや高度な四輪駆動システムなどの最新技術を受け継ぎながら、価格を959の半額以下に抑えた「ジュニア959」を生み出すことが目指されていたわけですね。※利益創出機械の創造に加え、959の開発費用の吸収を狙ったものだと思われる

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アウディ製V8を積んだ「ブラックボマー」のスペックと特徴

最高出力365馬力という目標値を達成するため、エンジニアたちは当初959用のツインターボ・フラット6の流用を考えたものの、膨大なコストが壁となり、そこでV6ターボや自社開発V8の検討を経て、最終的に採用されたのが「アウディ製の水冷V8エンジン」。

開発テスト車両(プロトタイプL7)として作られた実車は、ボディ全体が艶消しブラック(マットブラック)に塗られていたことから「ブラックボマー」の愛称にて親しまれています。

ポルシェ965プロトタイプのエンジンルーム

ポルシェ965(プロトタイプL7):当時の想定スペック

項目内容
開発コードType 965(市販予定名:969 / 開発車両名:L7 "Black Bomber")
エンジン種類水冷 32バルブ V型8気筒(アウディ製ユニットをテスト使用)
駆動方式高度な電子制御四輪駆動(959技術ベース)
トランスミッションレースカー(956/962)譲りのデュアルクラッチ(PDKのルーツ)提案あり
サスペンションレベリング機能付きハイドロニューマチック(エアサス提案あり)
予定生産台数約2,500台
予定販売価格約180,000ドイツマルク(当時の959の半額以下)

ポルシェ965の外観デザインはまさに多様なポルシェのハイブリッド状態で、サイドプロファイルは959そのものでありながらフロントバンパーは928を彷彿とさせ、ドアミラーやキャビン中央部はGシリーズ、リアには959特有の大型インテグレーテッドスポイラーが備わっていることがわかります。※公道テスト時の秘匿性を保つため、ボディにはNACAダクトが巧妙に隠されている

競合比較・市場でのポジショニング

当時、965が目指していたポジションは超高価格帯のハイパーカー(フェラーリF40や自社の959)と、伝統的なスーパースポーツ(930ターボ)の間を埋める「スーパーターボ」という独自の市場。

180,000ドイツマルクという価格設定はプレミアムスポーツカー市場において絶妙なポジショニングであり、年間2,500台規模という量産計画は、超限定生産だった959(約300台)と量産車964の中間に位置するというフラッグシップ戦略によるものです。

もし市販化されていれば、フェラーリのV8モデルやアストンマーティンなどの競合に対する強力な対抗馬となっていたはずで、そう考えるならば「発売されなかったことが悔やまれる」1台でもありますね。

996世代へ受け継がれた水冷化のDNA

革新的なスペックを誇った965プロジェクトですが、1987年の世界的な株価暴落(ブラックマンデー)によるポルシェの深刻な経営難と販売低下が直撃し、計画は最終的にキャンセルされてしまいます。

しかしその後、ポルシェは既存のエンジンを改良した「964ターボ」を急遽仕立てる方向へとシフトすることになり、しかし965の試作車「ブラックボマー」が無駄になったわけではなく、このV8テストミュール(試験車両)はラジエーターや冷却系のテストベッドとして活用され、開発時に得られた「フラット6全体を水冷化する」というアイデアやデータは、多くの年月を経て1997年に登場する996世代の「911完全水冷化」へと直接つながることとになり、この965ブラックボマーの魂は「そこで絶えたわけではない」ということもわかります。

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参考までにですが、ポルシェは911を「V8化」しようとしたことはこの後にもあったようで、というのも997世代の後半にて「V8化される」という話があったから。

この頃ポルシェはインターミディエイト問題にて揺れていて”新しく”エンジンを開発せねばならないという状況にあり、そしてフェラーリなどのライバルがV8エンジンの出力を上げてゆくに際して「6気筒エンジンの限界」を感じており、いっそV8へとシフトしようと考えていたようで、当時ポルシェ911にてレースに参戦していたチームには「911の競技用車は今後V8モデルになる」というアナウンスがなされたと聞いています。

そして実際にアナウンスがあったということは「かなりのレベルまで」開発が進んでいたということになりそうですが、結果的にポルシェはこのV8を断念し、フラット6をターボ化する方向へと舵を切って現在に至り、しかしその理由はちょっとナゾ(当時締め付けが厳しくなった環境規制に対応するためだったのかもしれないし、フラット6というアイデンティティに固執したのかもしれない)。

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結論

ポルシェ911の歴史の中で、唯一リアにV8エンジンを搭載して公道を走ったプロトタイプ「965ブラックボマー」。

市販化という夢は叶いませんでしたが、極限のコスト制約の中で生まれたこの異色のアプローチと挑戦は、後のPDK(デュアルクラッチ)や4WD技術、そして996世代での水冷化というポルシェの未来を切り拓く重要なステップとなり、歴史に「もしも」はないものの、V8を轟かせて走った911の姿は今でもポルシェファンのロマンとして語り継がれています。

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