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まだ日本に2台しかないAMG E63 S 4MATIC+に試乗。物理の法則すら捻じ曲げる驚愕体験

2017/06/19

まだ日本に2台しか入っていない、メルセデスAMG E63 S 4MATIC+に試乗。
4リッターV8ツインターボエンジン、9速AMGスピードシフトMCT、4MATIC+(4WD)、AMGライドコントロール・スポーツサスペンションを装備し「史上最強のEクラス」とメルセデス・ベンツが満を持して放つ車です。
結論から言うと、完全に今までの自動車の概念を覆してしまう車であり、「史上最強の"Eクラス"」どころか「史上最強のセダン」。

何と言ってもウリは612馬力という途方も無い出力と0-100キロ加速3.4秒、というサルーンらしからぬ俊足ぶり。
これがどのくらいというと、出力においてはランボルギーニ・ウラカンが610馬力、マクラーレン570Sは570馬力、ポルシェ911ターボSで580馬力、ホンダMSXも580馬力。
これらスーパースポーツよりも出力が大きいということになりますが、加速においてもE63 S 4MATIC+はスーパーカーなみ。

ざっと近い数値の車をあげてみるとこんな感じになります。
なんとフェラーリ458スパイダー、ランボルギーニ・ウラカンRWDと同じタイムというのにはただただ驚かされるばかりですね。

ランボルギーニ・ウラカンLP610-4・・・3.2秒(2015)
ケーニグセグ・アゲーラ4.7・・・3.2秒(2010)
ポルシェ911 GT3 RS・・・3.2秒(2015)
マクラーレン650Sスパイダー・・・3.2秒(2014)
ポルシェ911ターボS 991・・・3.2秒(2013)
ポルシェ911GT3RS・・・3.3秒(2016)
シボレー・コルベットZ06・・・3.3秒(2014)
マクラーレン570S・・・3.3秒(2015)
パガーニ・ウアイラ・・・3.3秒(2015)
ランボルギーニ・ガヤルドLP570-4・・・3.4秒(2008)
ポルシェ911GT3・・・3.4秒(2017)
アウディR8 LMX・・・3.4秒(2014)
フェラーリ458イタリア/スパイダー・・・3.4秒(2011)
ランボルギーニ・ウラカンLP610-4スパイダー・・・3.4秒(2015)
ランボルギーニ・ウラカンLP580-2・・・3.4秒(2015)
ランボルギーニ・レヴェントン・ロードスター・・・3.4秒(2009)
パガーニ・ゾンダ・チンクエ・・・3.4秒(2008)

さて、ざっと実車を見てみましょう。
基本的にはEクラスのデザインを踏襲するもののボンネットにはパワードームが設けられ、前後フェンダーはより太いタイヤを収てトラックを拡大するためワイドに。
前後バンパー、トランクスポイラーも専用デザインとなり、その雰囲気は獰猛そのもの。

アンロックするとウエルカム・シークエンスによってヘッドライトが特殊な動作をしますが、これはマクラーレン720Sでも採用されるもので(もちろん光り方は違う)、今後ハイパフォーマンスカーにおいて標準化されてゆくのかもしれません。
これがあるからどう、というわけでは無いものの、気分を盛り上げてくれることには違いない装備ですね。

こちらはテールランプ「スターダスト・エフェクト」。

エンジン始動時の描くランプの点灯状況についてはこちらの動画がわかりやすいと思います(Eクラスクーペですが)。

こちらは実際にメルセデスAMG E63 S 4MATIC+のライトの動作を撮影した動画。

こちらはAMG自慢のエンジン。
AMGのエンジンは一人の職人が責任をもって一基のエンジンを組み立てる「ワン・マン、ワン・エンジン」が特徴ですが、エンジンを製造した人のサインを記したプレートが与えられています。

エンジン型式はV8ですが、タービンがエンジンの内側にある「ホットインサイドV」。
重量物となるタービンほか補記類をVバンク内側に収めてロールセンターを中心に集めたというメルセデスAMG独特の構造ですね。
AMGのエンジン、トランスミッションについては下記の試乗記において詳細を記しています。

室内については最新のメルセデス・ベンツらしくアンビエントライトと大型液晶ディスブレイ(ワイドスクリーンコックピット)を装備。
メーターの表示はいくつかのパターンへと切り替え可能ですが、メルセデスAMG E63 S 4MATIC+専用の表示(タコメーターが中央に表示される)もあります。
なおセンターコンソールのクロックはアナログ式、そして「IWC」と文字盤に記載が。

シート位置は思ったより低く、スポーツカー的な着座位置で、かなり囲まれ感が強い印象を受けます。
ただしメルセデス・ベンツらしくシートやステアリングホイールの調整幅が広く、まず思ったようなドライビングポジションを出せずに困ることはなさそう(ただしステアリングホイールとウインカーレバーとの距離が遠いのはメルセデス・ベンツの常)。

早速エンジンをスタートさせ、「D」レンジに入れて車を発進(シフトレバーはコラム右から生えるレバー)。
まずはAMGダイナミックセレクト(ドライブモード)をコンフォートに入れて走り出しますが、このモードだと排気音がかなり小さく、乗り心地も快適そのもの。
まさに「サルーン」と言った感じですね。



AMGダイナミックセレクトは「スポーツ」「スポーツ+」「レース」「インディビデュアル」があり、「レース」はサーキット専用モードなので公道では使用不可。
100%後輪駆動となる話題の「ドリフトモード」も同様で、こちらも公道での使用は推奨されておらず、したがって試乗では試すことはできません。

普通に走っていると612馬力もあるとは思えないほど静かで快適であり、トルクは感じさせるものの過剰な動きを見せず、非常に躾の良い車、という印象。

ちょっと慣れたところで「スポーツ」を飛び越えて「スポーツ+」にモードを入れてみますが、こうなると性格激変。
ギアシフトプログラム、サスペンション、ステアリング特性が一気にスポーツ寄りとなり、エキゾーストのバルブも開いて爆音仕様へと変化します。

サスペンションにおいてもかなり引き締まった印象で(”硬い”と言うよりは”締まった”と言う表現が適している)、各モード間の「特性差」はかなり大きいようですね。

ちなみにサウンドは最近のAMGの例に漏れず「アメリカン」で、野太いV8サウンド。
スポーツ+では周囲の人が思わず振り返るほどの爆音ではあるものの、以前に試乗したAMG C63の方がかなり音が大きいように感じられ、そこは車格に合わせて幾分マイルドになっているのかもしれません。
バブリングも盛大に発生しますが、ジャガーのような「雷鳴」っぽい音でもランボルギーニのような高音でもなく、「ボボボ」といった感じのやはり太い音。

ただ面白いのはその「爆音・ハードサス仕様」でも快適性が一切損なわれていないこと。
排気音は大きくなりながらも不快な振動は一切感じさせず(というか皆無)、ロールは抑えられながらも衝撃はしっかり吸収しており、安心感が非常に高い、と感じます。
それはどんなに速度を上げても同じで、速度感を「全く感じさせない」のはシミュレーターやゲームを連想させるところ。

ポルシェの場合は「車との対話」をしながら車を操るという走り方になりますが、メルセデスAMG E63 S 4MATIC+の場合だと対話は基本的に不要で、「ドライバーがどういった操作をしても、車が絶対にそれに応える」だけの懐の深さを感じさせ、あえてドライバーに「ロードインフォーメーションなどの情報を伝えない」と言った印象も受けます。

アクセルを踏んでもそのままスルスルと加速し、よくある「ノーズリフト」を起こして姿勢が変化するようなことはなく、またコーナリング時にもロールは見られず、ブレーキを踏んでもノーズダイブをすることもなくピタリと止まる、という不思議な車。

例えばトヨタ86はステアリング、アクセル、ブレーキに対する反応が素直で、これらをきちんと操作しないと思ったように走らせることはできない、と考えています。
コーナリング時にはしっかり減速させてフロントに荷重を乗せてステリングホイールを切り、アクセルを踏んで車体を内側に向けてゆくといったコントロールが必要になるわけですが、このメルセデスAMG E63 S 4MATIC+はそのようなことを考える必要はなく、アクセルを踏めば思ったように加速し、ブレーキを踏めば思ったように減速し、ステアリングを切れば思ったように曲がるわけですね。

そういった意味では完全に自動車(スポーツカー)の常識を覆した車と言ってよく、「なんなんだこの車」というのが正直な印象。
それは悪い意味ではなくて単純な驚きでしかなく、上記の86のような「速く走ろうとした時に手練れのドライバーが行う操作」を車がドライバーにかわって行ってくれている、とも考えられます(似た印象を受ける車としては日産R35GT-R)。

こういった異次元の感覚を実現するためのデバイスは実際に多数盛り込まれていて、たとえばポルシェも採用している「ダイナミックエンジンマウント(可変エンジンマウント)」。
これはスポーツ走行時にエンジンマウントを固めることでエンジンのロールモーションを抑えてより俊敏なハンドリングを可能とするもの。
AMGライドコントロールはコーナリング時や減速時に瞬間的にスプリングレートを「硬く」することでロール、ピッチングを抑制。
3ステージESPはマツダのGベクタリングコントロールにも似たものですが、姿勢が不安定になると4輪それぞれのブレーキに介入したりエンジンのトルクをコントロールして車体を安定させる、というデバイスですね。

そのほかにも挙げればキリのないほどの先進的な制御システムを持ち、そう言ったシステムの連携が「熟練ドライバー同様もしくはそれ以上の」制御を行い、イージーに、そして安全かつ快適に車を走らせることを可能にしていると言えそうです(というかそれが目的に投入されたデバイスなので間違いない)。

室内においてもそれは同様で、例えば右にカーブを曲がると体は慣性によって左へと移動しますが、メルセデスAMG E63 S 4MATIC+のシートはそんな時、「左側のサポート力を強めてドライバーの体を右に押しもどす」装置をシートに内蔵しています。
さらには、(体験したくはないですが)万一事故を起こしそうになった場合、PRE-SAFEサウンドなるシステムが起動し、これによってスピーカーから一定周波数のノイズを発生させ、人体に「あぶみ骨筋の反射収縮反応を起こさせて」内耳への事故時の衝撃音伝達軽減を図る(ノイズキャンセリングヘッドホンみたいな感じ)」という対応を行います。

つまりは「物理的に予期される反応」をあらかじめ想定し、「その反対の介入を行う」ことで物理の法則をも捻じ曲げてしまうデバイスを持っていると言え、これが走行性能にも反映されているというまさにとんでもない車。※コーナリングに関してはホンダNSXに採用されるスポーツSH-AWDがこんな感じなのかもしれない
加速したらフロントが浮くのを意図的に抑え、ブレーキを踏んだらノーズダイブするのをこれも意図的に抑え、カーブを曲がっている時にロールしたり外側に慣性で持ってゆかれそうになるのも電子的に制御してしまうという車であり、これによって「誰がどう扱っても、どんな路面状況でも」完全なラインでの走行が可能で、しかも姿勢一つ乱さない、という車ですね(そう考えると、「姿勢を完璧に制御できるのであれば」ロードインフォーメーションをドライバーに伝える必要はない、と考えるのも理解できる)。

そのほかはあえて触れる必要もなさそうですが、ディスタンスパイロット、マルチビームLEDヘッドライト、アクティブレーンチェンジアシスト、360度アラウンドビューモニターなどの最先端安全デバイスも装備(シートにマッサージ機能まである)。
これらはサルーンということを考慮し、ドライバーに「余計な気を使わせない」という考え方なのだと思われ、これが安全性、そして走行性にも渡って貫かれている、と言えますね。

自動車に関する技術のうち、実用化されているものであって「このMG E63 S 4MATIC+に取り入れられていないものは一つもない」とすら思わせる車で、この車が1774万円で購入できる、というのは驚き以外の何ものでもありません。

唯一欠点があるとすれば、それは「燃費」。
カタログ上は「リッター9キロ」ですが、試乗中の燃費はなんと「リッター2.5キロ」。
実際のところ燃費は「かなり悪い」とのことで、毎日乗ろうと思うとこれは相当にキツい、と言えそうですね。

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