ポルシェはもともと「自動車メーカー」としてではなく「設計事務所」としてスタートしている。その過程ではいくつかの自動車メーカーのために設計を行い、アメリカ向けに設計した4ドアの「ポルシェ542」も

2024/12/02

｜　ポルシェは他社からの設計請負によって自動車製造のノウハウを蓄えていったのだとも考えられる　｜

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過去には中国政府の依頼でコンパクトカーを設計したことも

さて、ポルシェと言えば「911」のようなスポーツカー、ル・マン24時間レースなどのモータースポーツでの活躍を思い浮かべますが、実際にポルシェが創業した際の形態は「自動車メーカー」としてではなく「設計事務所」としてであり、ここではいくつかの自動車メーカーの製品開発にも貢献しています。※よって、設立は1931年であるが、初めて自社の名を関した自動車を世に送り出したのはずっと後のになってからの「356（1949年）」である

参考までに、設立当初の名称は「Dr. Ing. h.c. F. Porsche Gesellschaft mit beschränkter Haftung, Konstruktion und Beratung für Motoren- und Fahrzeugbau（名誉工学博士F.ポルシェ有限会社、エンジンおよび自動車製造における設計およびコンサルティング）」というとんでもなく長いもの。

その歴史の中では様々な事情によって製品化がなされなかったクルマも存在し、そこで今回紹介するのが「ポルシェ542」。

ポルシェ542はこんなクルマだった

なお、ポルシェは自社が設計した製品あるいはプロトタイプには「型番」を振り分けており、よって「542」は「542番目の設計」ということに。※ただし、ポルシェは最初に設計を請け負った作品につき、「それまでに経験がない」ことをさとられないように大きな番号を与えていたので、厳密にはこの”542”はそれよりも若い設計順であると思われる

そしてこのポルシェ542はもともと（当時米国に存在した自動車メーカーである）スチュードベーカーのために設計された「Z-87」にルーツを持っています。

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このスチュードベーカーはもともと馬車を製造・販売していたメーカーですが、自動車の登場を背景に、19世紀の終わりごろになって「馬車メーカーから自動車メーカーに」転じたという「馬車から自動車への移行期を見届けた」数少ない自動車メーカーでもあったわけですね。

そして20世紀なかば、つまり1950年代まではある程度の好調な業績を記録するものの、この時期なると自動車産業が急速に成長し、そこで多数登場してきたライバルに対抗できなくなってしまい、ここでスチュードベーカー経営陣が考えたのが「ポルシェとの提携、小規模自動車メーカーであるパッカードとの合併、航空機メーカーのカーティス・ライトとの契約」。

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この流れの中、ポルシェとの協業によって誕生したのが「スチュードベーカーZ-87」であったのですが、このプロトタイプが完成した頃にはスチュードベーカーの状況がさらに悪化していて量産のための資金を準備できず、パッカードとの合併にて活路を見出すも、このパッカードは（スチュードベーカーのブランド名であっても）自社の既存プラットフォームのみを使用するという方針を持っていたために（新設計のプラットフォームを持つ）Z-87プロジェクトが潰えてしまい、数少ないプロトタイプは解体され、現在でその存在を示すものは「当時の写真だけ」といった状況です。

スチュードベーカーは時代の波に飲まれ消滅

なお、スチュードベーカーはパッカードとの合併にもかかわらず会社を維持できなくなって1956年には破産寸前に追い込まれてしまい、1963年にインディアナ州サウスベンドの主要工場が閉鎖され、3年後にはカナダのハミルトン工場も閉鎖されることとなり、これをもってスチュードベーカーは自動車業界から完全に撤退。

その後スタデベーカー・ワージントンという合併企業にて部品を製造し続けるものの、1979年にはスチュードベーカーの名が自動車史から完全に消え去ってしまいます。

もし、この設計がもう少し「後」であれば、自動車メーカーとしての地位を確固たるものとしつつあったポルシェが「スチュードベーカーZ-87の計画を引き取って」市販化した可能性があるかもしれませんが（ポルシェ924はフォルクスワーゲンのために設計し、しかしフォルクスワーゲンがボツにしたため、ポルシェがそれを受け継いで製品化したクルマである）、いろいろな意味でこのZ-87あるいは「ポルシェ542」は”タイミングが悪かった”のかもしれません。