| ポルシェはもともと「小型で効率性の高いスポーツカー」を標榜していた。その精神は今も新型911に受け継がれる |
さて、待望の新型ポルシェ911(992)カレラSに試乗。
ぼくは「もう911を購入することはないだろう」と考えていましたが、それはRRならではの不安定な挙動のため。
ただ、ぼくがそう判断したのは997世代の911に乗っていた頃で、それ以降の919、991.2を運転してみると徐々にそういった(不安定な)印象が薄れてきていることにも気付かされます。
最新の992世代ではその傾向がさらに強くなっているはずで、「乗ったらたぶん欲しくなるんだろうな」という、今回はやや警戒と恐れを抱いての試乗といわけですね(ある意味では、買いたくならないよう、その理由を探すための試乗だとも言える)。
ポルシェ911カレラS ボディサイズ:全長4,519 全幅1,852 全高1,300ミリ エンジン:3リッターフラットシックス・ツインターボ 出力:450PS/6500rpm トルク:54.0kgm/2300-2500rpm トランスミッション:8速PDK(デュアルクラッチ) 0−100km/h加速:3.7秒 車体重量:1515kg 価格:16,660,000円 |
新型ポルシェ911の外観は?
新型ポルシェ911のエクステリアは、明らかに「911」ではあるものの、991世代に比べて明確なプレスラインが減り、よりなめらかになった印象。
さらにリアフェンダーがワイド化され、イメージとしては993世代のワイドボディに近い、と感じます。
そのほか、フロントバンパーの表面と開口部とのつなぎ目がスムーズになったり、テールランプが左右連結してさらに「薄く」なったり、ドアハンドルがフラッシュマウントされたり、フロントフード先端が「初代911、930、964、993」つまり空冷世代のポルシェっぽく変更されていることもトピック。
外観の詳細については以前にショールームにてチェックしてきているので、こちらを参考にしてもらえればと思います。
新型ポルシェ911のインテリアは?
992世代の911では、やはり「先祖返り」傾向がより強くなり、ダッシュボードとセンターコンソールが分割されたり(水冷世代では連続していた)、メーターが初代911風のデザインへと変更されたりといった部分で旧世代へのオマージュが見えますが、そこへ非接触式のスイッチ、液晶パネルなど現代の装備を融合させていることも見逃せないポイント(単なる懐古趣味ではない)。
そして「シフトレバー」がなくなって走行レンジの選択が「スイッチ」によって行われるという劇的な変化があった一方、キー(のかわりのデコイ)を捻ってエンジンをスタートさせるという「儀式」を残してくれたのはありがたいところ。
インテリアについても、下記に詳細をまとめています。
新型ポルシェ911に乗ってみよう
早速ここで新型911に試乗してみましょう。
まず試乗車がパーキングロットから回されて来ることになり、その際のエンジン音はかなり大きく、もしかするとランボルギーニ・ウラカンよりも大きいかも(比較しやすいよう、ウラカンに乗ってポルシェセンターに行った)。
着座位置はちょっと低くなった
そしてフラッシュマウントとなったドアハンドルを引いて車内に乗り込み、ここで気づくのは「着座位置がかなり低い」ということ。
実際に991世代よりも低くなっていると報道資料にあって、そのおかげでダッシュボード、サイドのドアパネルの位置がかなり高く見えます。
ポルシェはもともと(剛性確保のためか)グラスエリアが狭いクルマで、そのためにこういった「囲まれ感」の強いインテリアを持っているものの、992ではそれがさらに加速しているようですね。
その後にはいざエンジンをスタートと相成りますが、この試乗車には「ポルシェ・エントリー&ドライブシステム」が装着されているので、エンジンスタートはステアリングコラム右横のスイッチを「捻って」スタートさせることに(これがついていない場合、どうやってスタートさせるのかは不明)。
この捻るという操作は、近年のほとんどのクルマが採用する「プッシュボタン」とは全く異なるもので、しかしポルシェは安易に「プッシュボタン化」せず、この古(いにしえ)の手法を最新モデルでも採用してきたことに喝采をおくらずにはいられません。
ただ、タッチは991までとは大きく異なり、やはり「スイッチ」っぽい印象がありますね。
そしてその後はミラーやシートを調整しますが、それらスイッチの位置はこれまでとおおよそ同じ。
ただし一部スイッチの表面はつるりとしたピアノブラック仕上げへと変更されています。
新型911は何もかもが「軽い」
そして各部の調整が終われば、センターコンソールにある「スイッチ」を手前に倒してDレンジに入れ、クルマをスタート。
このスイッチのタッチ然り、ブレーキペダルやステアリングホイールの操作に要する力はかなり軽減され、相当に「軽い」印象です。
ただ、軽くなったといえどもその操作に対する反応、フィードバックは「ポルシェならでは」。
そこには曖昧さが微塵も介在せず、特にブレーキペダルのタッチはかなり軽くなったのに「しっかり反応」。
効きはじめ、そして停車直前のフィールも申し分なく、安心して踏めるブレーキですね。
なお、これまでのポルシェで指摘されていた「チープな操作感」を持つウインカーレバーのタッチも改善され、しっとりとした操作フィールに生まれ変わっています。
新型ポルシェ911のドライブモードは4種類
試乗したポルシェ911は「スポーツクロノ・パッケージ」と「スポーツエギゾースト」が装着されており、ステアリングホイールのスポークに装着されるロータリーコマンダーにてドライブモードの変更が可能。
これを変更するとアクセル操作に対するレスポンス、シフトチェンジのタイミング、エキゾーストサウンドが変化します。
このドライブモードは「ノーマル」「スポーツ」「スポーツプラス」そして「インディビデュアル」の4種類(992の目玉、”ウェットモード”を入れると5種類)。
実際に運転した感じだと、それぞれのモード変更時における体感上の差は991よりも大きく、「ノーマル」だとかなり早めにシフトアップする設定を持ち、時速70キロくらいで走っていると「8速1000回転」といった状態に(7速と8速はオーバードライブの設定)。
そして「スポーツ」に入れるとサウンドが大きく太くなり、より高い回転数まで引っ張って変速を行います。
そして「スポーツ+」だともうひとつ音が大きく、そしてさらに回転数を高めに維持。
なお、このモードだと「アクセルオフ」でもエンジン回転数がほぼ下がらず、つまりは「いつでも加給ができ、再加速できる」状態を作っているようですね(空冷ポルシェの、一気に回転数が落ちるエンジンを知る人にとってはかなり驚く部分でもある)。
なおエンジンは991世代と同じ3リッターツインターボを採用し、基本構造は変わらないものの過給圧は1.1から1.2Barへ(出力は30馬力向上している)。
中間加速以降重視へと変更されているようで、出力とトルクカーブが「若干右へ」スライドしているということも公表されています。
さらにはレッドゾーンも「7400回転」に設定され、これは(GT系以外の)ポルシェ、そしてターボエンジンとしてはかなり高め。
つまり992世代の911は「比較的高回転寄り」の設定を持っているということになりますね。
エンジンサウンドについては、一言でいうと「重低音」。
ノーマルだと室内に侵入する音は最小限(992は遮音性もかなり高い!)で、しかしモードを上げてゆくとけっこうな重低音が入ってきます。
▼こちらは一般道をゆっくり走っている状態。ロードノイズが聞こえないので、意外とエンジン(エキゾースト)サウンドがよく聞こえる
ただ、不快なノイズそして振動はなく、「心地よい」たぐいのサウンドを発していて、できれば「スポーツモード以上」で走りたいものだ、と思わせるほど。
▼こちらはトンネル内を4−3−2速で走ってみた動画。制限速度を守っているのであまり速度を出せず、エンジンサウンドよりもロードノイズのほうが大きく聞こえるのはちょっと残念
992の乗り心地は大きく改善された
そして各メディアが口を揃えて述べているのが「乗り心地の改善」。
たしかにこれは走り出してすぐにわかるもので、いわゆるNVH(ノイズ、ヴァイブレーション、ハーシュネス」がかなり小さく、これは「スポーツカーにしては」というレベルを超えていて、サルーンとも比較しうるレベル。
ポルシェは第2世代のパナメーラで驚くほど乗り心地を向上させていますが、ポルシェはもともと「乗り心地」には非常にこだわるメーカー。
実際に初代セルシオ(レクサスLS)が登場し、ポルシェのエンジニアが試乗したときに「これこそが我々の求める乗り心地だ」と発言したといわれる程です。
なお、ぼくは水冷世代のポルシェだと986ボクスターS、997カレラ、981ボクスター、718ケイマンを乗り継いでいて、「986/996」「987/997」「981/991」と世代を重ねるごとにポルシェはその乗り心地を改善していることもその身をもって理解しています。
たとえば986/996世代だと、段差を超えるときには体をこわばらせて「身構えた」ものですが、987/997世代ではそれが大きく和らぎ、981/991世代ではさらにマイルドに。
これはサスペンションのセッティングも関係しているものの、タイヤサイズ(直径)も大きく影響しているようですね。
そして最新の992だと、もう歩道と道路との段差を超える際には「(誇張抜きで)ほぼわからないレベル」にまで到達しており、このあたりはパナメーラで培った技術が生きているのかもしれません。
ちなみにポルシェがサルーンを作るということに肯定的な意見を持たない人も多いようですが、パナメーラから(911への)技術的フィードバックも多分にあると思われ、ぼくは「ポルシェがパナメーラを作ることによって991は更に良くなった」とも考えているのですね。
その意味では、パナメーラにまだ乗ったことがない人はぜひ一度パナメーラを試乗し、できればメルセデス・ベンツSクラス、BMW 7シリーズ、アウディA8も運転してみて、「パナメーラがいかに優れているか」を体感して欲しい、とも思います。
なお、992の乗り心地改善については、フロント20インチ、リア21インチとタイヤサイズを前後異径化したことでタイヤ内部の容量が大きくなり、そのぶん空気圧を下げることが可能になったからだというのは発表済み。
新型911ではエンジンの搭載位置が「ミドシップに近くなった」と言われますが、それによってトラクションがさらにかかりやすく、かつ挙動もマイルドに。
加速時に「フロントが浮く」印象、そして段差超え時にリアが「ドッスン」と落ちる印象もほぼなくなり(ミドシップのケイマンに比較するとRRを感じる部分はあるけれど)、かなり安定性の高いクルマに仕上がっている、と思います。
ちなみにポルシェ911は「速度感が希薄なクルマ」で、つまり体感速度が非常に低いクルマ。
これは「囲まれ感の強いコクピット」に加え、徹底的に抑えられたNVH、岩のようなボディ剛性、優秀な足回りに担保された高い安定性がそう感じさせるということですが、(911に限らず)ポルシェに人を乗せて走っていると、「(スピードメーターを見て)え?もうそんなにスピード出てるの?」と驚かれることが多いということもその証左かも。
結局どうなの新型ポルシェ911?
ポルシェは自身によって、その期待値と製品づくりのハードルを上げてきた会社ではありますが、今回の992は「期待以上、予想以上」。
992発表以降メディアがその運動性能や快適性、先進性をベタ褒めしており、その良さを十分に予想できる一方、「またメディアの911礼賛か・・・」という”やれやれ”といった思いが試乗前にあったのもまた事実。
ただ、実際に自分で新型911のステアリングホイールを握ると「すごいなこのクルマ」としかいいようがありません。
ぼくが高く評価したいのは「乗り心地がよく、安心して運転できる」こと、「室内の静粛性が高く、運転していて疲れない」こと、「先進的なインテリア」、「魅力的なサウンド」。
一方で気になるのは「あまりに高価になってしまった」こと、さらに「オプションを装着するとさらに高価になる」こと(乗り出し2000万円!)、そしてその割に見かけが「スーパーカー的ではない」ということ。
よって、現在スーパーカーセグメントに置いて「比較的」安価なラインナップを持つマクラーレンに”ポルシェの顧客が流れている”のもわかるような気がしますが、911の真価はもちろんその外観ではなく、その「中身にある」ということを改めて知ることになった試乗でもあったと思います(この部分は言葉ではなかなか表現できない)。
ぼくは「(自分には乗りこなせなかったので)991はもう買わない」という”911不買の誓い”をたてていますが、その誓いをうっかり忘れそうになるほど新型911は扱いやすく、「911カレラSは高価すぎるので、ベースグレードの911カレラが出たら買うか・・・」と思ってしまったほど。
おそらくはこれほど扱いやすく、どこにでも乗って行けて(そんなに大きくない)、信頼性も高く、かつユーティリティも高いスポーツカーは他になく、スーパーカー的ルックスを求めないのであれば(スーパーカーはそのサイズや形状の問題もあり気軽には乗れない)、まさにベストバイだと言えそうです。
なお、ポルシェ創業の理由は「自分がほしいと思うクルマ、つまり小型で効率の良いスポーツカーがどこにもなかった。だから自分で作ることにした」というもので、かつポルシェの考えるスポーツカーは「日常性を持つクルマ」。
よって、「エキゾチックであること」「エクスクルーシブであること」を目的としているスーパーカーとは根本が異なるクルマでもあり、その意味で「ルックスがスーパーカー的ではない」のは当然なのかもしれませんね(その意味で、ポルシェは実用性を犠牲にしてまでスーパーカールックスを目指すべきではない)。