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ポルシェ・タイカンには既存ポルシェ、他メーカー製EVとは全く異なるブレーキが搭載されている!「油圧ブレーキは10%しか作動しない」「ワンペダルは無駄」

2023/02/01

ポルシェ・タイカンには既存ポルシェ、他メーカー製EVとは全く異なるブレーキが搭載されている!「油圧ブレーキは10%しか作動しない」「ワンペダルは無駄」

| やはりポルシェはいい意味で常識にとらわれない |

目的を達成するためには何が最適かを常に考え、行動するようだ

さて、ポルシェのブレーキといえば「エンジンパワーの3倍のストッピングパワーを持つ」「宇宙一よく効く」と言われますが、今回「タイカンに採用されるブレーキシステムの特殊性」なる公式コンテンツが公開されており、ここでかいつまんで紹介してみたいと思います。

なお、このコンテンツでもっとも印象に残ったのは、タイカンのブレーキにつき、「ドライバーがブレーキペダルを踏む状況の90%において、従来の油圧ブレーキではなく、回生ブレーキが作動している」という事実。

何度かタイカンを運転した経験上、とくに違和感は感じなかったものの、実際には「ほとんどの場合において、油圧ブレーキは作動していなかった」わけですね。

回生ブレーキによってブレーキ重量を抑えることが可能に

タイカンの開発において、ポルシェのエンジニアが苦労したのは「快適性を損なうことなく、より良い回生を可能にする新しいコンセプトのブレーキ力配分」だったといいます。

まず、タイカンのようなBEV(バッテリー・エレクトリック・ビークル)は、より高い運動性能と航続可能距離を確保するために容量の大きなバッテリーを積む必要があり、そして容量が大きなバッテリーを積むと車体重量が重くなり、車体重量が重くなると強力なブレーキシステムが必要となり、この強力なブレーキシステムはまた車両の重量を増加させることに(そうなれば航続距離が犠牲になる)。

ただしタイカンにおいては、スマートな回生ブレーキの搭載によって、従来の油圧式ブレーキのサイズを拡大することなく確実に車両を停止させることが可能になったといい、そのロジックとしては、ドライバーがブレーキペダルを踏むとまずはエレクトリックモーターが発電モードに切り替わり、この発電によってバッテリーの充電を開始します。

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なお、ほとんど(すべて?)のハイブリッドやEVがこういった回生ブレーキを用いているものの、けっこう違和感があるクルマも多く、さらにこの回生ブレーキがうまくABSと連動してない場合があり、たとえば雨の日に回生ブレーキ作動中に鉄板の上に乗ったりすると車両が(ブレーキロック状態になって)意図しない動きをすることがあるのですが、タイカンでは「通常の油圧ブレーキと同じように回生ブレーキをコントロールする方法を開発し取り入れている」と考えていいのかもしれません。

実際のところ、油圧ブレーキが必要とされる場面は「モーターが制動力を発揮できない時速5キロ以下」の速度、そして「モーターでは十分に減速できないほどの超高速域からのブレーキング時」のみだといい、つまりほとんどの場面においては回生ブレーキだけで走ることになりそうです(多くのEVは完全停止までを回生ブレーキにて行うが、ここにおいてもタイカンはそれらと異なる手法を採用しているということになる)。

ちなみにタイカンの回生ブレーキは(ブレーキング時に)最大で290kWを発電できるといい、この出力レベルだと、2秒で約700メートル走行可能な電力を発生させることができ、この回生によって航続距離を最大で30%伸ばしているのだそう。

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回生ブレーキと油圧ブレーキとの「統合制御」が重要

とにかくタイカンではこの回生ブレーキが自然だったというか「普通の油圧ブレーキで制動している感覚しかない」という印象だったのですが、ポルシェは回生ブレーキと油圧ブレーキとをシームレスに作動させ切り替える「ブレンディング」においても細心の注意を払ったと述べていて、ポルシェエンジニアリングのシャシーテスト担当シニアマネージャー、マーティン・ライヒェンエッカー氏によれば「ドライバーが、システム間の移行を感じてるようなことがあってはならないと考えています」。

ただしこれを実現するのは言うほどかんたんではなく、回生ブレーキと油圧ブレーキとでは、ブレーキシステムの動作が異なるため、スムーズな移行を保証するためには技術的に大きな要求がなされ、エレクトリックモーターが常に同じ制動トルクを発揮するのに対し、油圧ブレーキは温度や湿度などの環境の影響によりその都度トルクが変化することになり、速度域や気温、ブレーキの温度によって、移行点次第では油圧制動力がエレクトリックモーターの制動力とは異なることがあり、スムーズに移行ができなければ、ドライバーはこれを”揺れ”として感じるわけですね。

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ポルシェはタイカンのために、このような現象を防ぐアルゴリズムを開発しており、油圧システムを継続的に監視しつつ、各充電プロセスにおいて、ブレーキのキャリブレーションを行い、ブレーキペダルの踏み込み量とブレーキペダルの力の比率の現状を把握しているそうですが、これにより、次にブレーキをかけたときに油圧システムがどれだけのパワーを発揮するかをアルゴリズムが推定し、それを正確に展開することで、回生モードへの移行がスムーズに行われるようにしているのだそう。

ちなみに前後車軸における制動力の配分は「3分の2と3分の1」だそうですが、ツインモーターとシングルモーターではまた異なる制御が必要となり(シングルモーターだとフロントの回生が発生しない)、エンジニアの苦労は絶えないのかもしれません。

回生ブレーキの概念は自動車のあり方を変える

これまで、(ガソリン車の)自動車工学におけるブレーキは、比較的独立したシステムとして扱われてきといい、しかし電気自動車では「エレクトリックモーター一つで減速も加速も行う」ことになり、ポルシェによれば「これによって、開発者は全く新しい自由度を手に入れることができるようになる」。

たとえばツインモーターであれば前車軸と後車軸の制動力の配分を自由に可変させることで安定性を確保することができ、これはシャシーとドライブコンポーネント技術が融合してゆくということを意味しますが、さらにポルシェは「将来のアーキテクチャでは、ほとんどのソフトウェア機能が単一の制御ユニットに統合される」と述べており、EVでは各コンポーネントの融合がなによりも重要だと考えているのかもしれません。

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ちなみにですが、電気自動車を製造するメーカーの中には「ワンペダルドライビング」と呼ばれるものに注力しているところもあり、これはドライバーがペダルから足を離すと、車両はすぐにエネルギーを回生し始め、極端な場合には車両がノーズダイブするほど強くブレーキをかけ、そのまま停止することさえ可能です。

一方、ポルシェではコースティングを採用しており、コースティングとは、動力を使わずにクルマを回転させ続けるというプロセスで、アクセルペダルを離すだけでは回生が始まらず、ブレーキペダルを踏んで初めて回生が始まるというロジックですが、ポルシェによれば「コースティングは運動エネルギーを車内に留めておけるので、より効率的な運転方法であり、しかしその一方、ワンペダルドライビングは、最初に減速し、減速したエネルギーを再び推進力に変換するため、その結果、損失が2倍になってしまうのです」とのことで、回生ブレーキひとつとっても、実に様々な考え方があるものだと納得させられます。

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最後に回生ブレーキを積極活用する別の利点としては「油圧ブレーキの摩耗が少なくなる」こと。

ブレーキングのうち10%しか使用しないので当然といえば当然ですが、ポルシェによれば「将来的には、ブレーキパッドは摩耗ではなく、(全然減らないので)経年劣化による交換が必要になると思われます」。※以前に乗っていたBMW i3はとんでもなくブレーキダストが出た

なお、ドライバーによっては油圧ブレーキをほとんど作動させない場合もあるかと思いますが、そういった「使用頻度が減ったブレーキディスクをきれいに保つための機能」がタイカンには備わるといい、回生ブレーキが作動する条件であったとしても、油圧システムのみで一定時間ごとにブレーキをかけ、ディスクの汚れを除去するもよう。

参考までに、EUでは今後、ブレーキから排出されるダストを減らす計画を立てているため、これは将来的に大きなアドバンテージになる可能性も(2025年に施行される予定の新しい排ガス規制、Euro7では、初めてブレーキの摩耗に制限が設けられる予定だとされる)。

いずれにせよ、タイカンのブレーキシステムはほかのポルシェとは全く異なり、そして他自動車メーカーのEVとも異なる考え方を持つということになりますが、それでも「完全にポルシェ」であることには間違いなく、このフィーリングを実現したポルシェのエンジニアたちには脱帽です。

参照:Porsche

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