
| いったんは進化が「行くところまで行った」感のあった内燃機関ではあるが |
電動化時代に「必要は発明の母」とばかりに様々な技術が”発明”される
エコや電動化が叫ばれる現代において、自動車メーカー、とりわけスポーツカーブランドの頂点に立つ「ポルシェ」は、常に難しい舵取りを迫られています。
「二酸化炭素(CO2)の排出量は減らさなければならない、しかしポルシェとしての刺激的な走りとエンジンの鼓動は絶対に失いたくない」――この相反する難題の間にて揺れ動いていたポルシェではありますが、ポルシェらしい狂気とも言える回答が特許出願の内容から明らかに。
カーメディア「CarBuzz」が発見したポルシェの最新特許によれば、その内容は現在の電動化車両の主流である「PHEV(プラグインハイブリッド)」と「EREV(レンジエクステンダー型EV)」の長所を併せ持つ「前代未聞の次世代ハイブリッド・システム」ともいうべきもので、その核となるのは、なんと「左右のバンクでピストンの構造や設計が全く異なる」という奇想天外な内燃機関。
今回はポルシェが描くこの近未来のパワートレインの仕組み、そしてその背景にある「ポルシェ乗りのための執念」をエンジニアリング的視点から考察してみましょう。

記事の要点
- 常識を覆すハイブリッド特許: ポルシェがレンジエクステンダー(発電専用EV=EREV)と、プラグインハイブリッド(直結走行可能=PHEV)の境界線を完全に消し去る画期的な特許を出願
- 左右で設計が異なる「変態気筒」: V型(または水平対向)エンジンの片側バンクを「走行時のパワー用」、もう片側を「コースティング(慣性走行)および発電時の超低摩擦用」として、ピストンリングの数やベアリングの設計まで左右で変える前代未聞の構造
- 状況に応じたマルチモード作動: バッテリー残量がある時は「ピュアEV」、街乗りでの発電時は「超低摩擦の片側バンクのみで作動(車輪とは非直結)」、フル加速時は「全気筒が点火して車輪を直接駆動」する万能システム
- ポルシェ乗りの魂を死守する執念: 環境規制をクリアして次世代EVへの移行を求められるなかで「ポルシェらしいガソリン車の加速とエモーション」を何としても残したい開発陣の執念が生んだ超複雑メカニズム
ポルシェの特許は「EREV」と「PHEV」の境界線を完全に破壊する
まず、現在の電動化ハイブリッド車の基本をおさらいしておくと・・・。
- EREV(レンジエクステンダー): エンジンは「発電」に特化し、車輪は100%エレクトリックモーターが駆動。電気自動車(EV)に近い乗り味。
- PHEV(プラグインハイブリッド): エレクトリックモーターでも走れるが、高速域などではエンジンが「直接車輪を回す(直結ドライブ)」。
ポルシェの新しい特許はコンピューターの判断によって、ある時は「EREV(発電専用)」として静かに走り、またある時は「PHEV(エンジン直結)」として猛烈に加速するという”1台のなかに複数のキャラクターを完璧に同居させるもの”。
そしてそのマルチな作動を最高効率で実現するため、ポルシェのエンジニアは「エンジンの半分(片側)を全く別の設計にする」という驚くべきアイデアを提案しているというわけですね。

誰もが驚く「左右非対称ピストン」のメカニズム
一般的な「気筒休止(シリンダー・ディアクティベーション)」は、パワーが不要な巡航時に一部のシリンダーへの燃料カットやバルブを閉じることで燃費を稼ぐというロジックを持ち、GMやアウディなど多くのメーカーが古くから採用している技術ではありますが、ポルシェの特許が異次元なのは「休止させる側のシリンダーそのものを、最初からフリクション(摩擦抵抗)低減専用に改造しておく」という点です。
特許によると、エンジンは主に2つのバンク(グループ)に分かれていて・・・。
① プライマリー・バンク(メインの気筒群)
従来のポルシェらしい高性能なガソリンエンジンと同じ設計。可変バルブタイミング機構や可変圧縮比テクノロジーを搭載し、ドライバーがパワーを求めたときに爆発的なトルクを生み出す役割を持つ
② セカンダリー・バンク(効率・コースティング専用の気筒群)
驚くべきことに、こちらは「ピストンリングの数を通常より1本減らす」、あるいは「超低摩擦のセラミック製ベアリングを採用する」といった、徹底的なフリクションロス対策が施されるという構造。ピストンリングを減らせばフリクションは劇的に減るものの、高負荷時の耐久性や気密性は落ちることとなり、つまり、「高負荷時では絶対に使わない(=負荷が低い発電時や、エンジンが止まって空走している時専用)」と割り切った前代未聞の設計がなされている(そしてこの設計はプライマリーバンクがあるからこそ可能となる)
ポルシェはこのエンジンをどの車種で、どう使うのか
この「変態エンジン」を搭載したポルシェのクルマが実際の路上でどのように機能するのか、3つの走行モードに分けてそのスペックと特徴を整理してみると・・・。
ポルシェ次世代ハイブリッド・システムの3つの作動モード
- ピュアEVモード(通常走行):大容量の拡張バッテリーから前後のアクスル(車軸)に配置された高出力モーターへ電力を送り、100%電気自動車として走行。この時、車内は静寂そのもので、ポルシェのタイカンのような洗練されたEVの走りを披露する
- ジェネレーターモード(EREV作動):バッテリー残量が減るとエンジンが始動。ただし、この時に目覚めるのは超低摩擦設計のセカンダリー・バンク(半分の気筒)だけであり、高効率・高負荷の最適領域だけで静かに回り、車輪とは繋がらずにジェネレーター(発電機)を回してバッテリーへ電力を供給
- エンジンモード(フルパワーPHEV作動):ドライバーがアクセルを深く踏み込んだ瞬間、あるいはスポーツモードを選択した瞬間、プライマリー・バンクを含むすべての気筒が点火。従来のガソリン車のように、トランスミッションを介してすべてのトルクがダイレクトに車輪へと叩きつけられ、あの官能的なポルシェ・サウンドと共に極上のスポーツドライビングを愉しむことができるように

想定されるシステムのメリットとトレードオフ(一目で見える比較)
以下はこのエンジン及びシステムのデメリットとメリットをまとめたもので、しかしいずれにせよ、「電動化」を前提にすることで、これまで内燃機関単体では見つからなかった解決策が「次々と見つかっている」のは特筆に値するところかと思います。
| 項目 | メリット / 期待される効果 | デメリット / 克服すべき課題 |
| エンジニアリング | 発電時とパワー時で理想の効率を使い分けられる 発電用エンジンを積むためにバッテリーを最小化(軽量化)できる。その分のコストも削減可能 | 片側のバンクだけ異なるピストンを製造するためコストが爆発的に高騰する 「セカンダリー」側は高回転に弱く、ポルシェらしい出力を発揮できるかは不明 |
| 環境性能 | 都市部では完全なゼロエミッション(EV)走行が可能 | 複雑なトランスミッションや多重システムにより車両重量が大幅に増加する |
| ユーザー体験 | 「静かなエコカー」と「激しいスポーツカー」を両立 | 重量が嵩むことで、純粋な回頭性や燃費(エンジンモード時)に悪影響を及ぼす懸念 |
なぜポルシェはここまでして内燃機関にこだわるのか?
この技術は非常に有用と思える反面、解決せねばならない技術的課題も少なくはなく、そこでこの技術の本質である「ポルシェの顧客心理と環境規制のジレンマ」について考えてみると・・・。
「EVは嫌だ」という熱狂的ファンを救うためのウルトラC
ポルシェというブランドには、他のメーカー以上に「ガソリンエンジンの音、振動、マニュアル感覚」を愛してやまない熱狂的なファン(ピュアリスト)が世界中に(多数)存在します。

同社が誇るピュアEV「タイカン」や電動化した「マカン」が技術的にどれほど優れていても、「エンジンがないポルシェには興味がない」という層を納得させることは容易ではなく、今回の特許はそうした顧客に対して、「普段は環境規制を100%クリアする未来のEVですが、あなたがひとたび鞭を入れれば、いつでもあの懐かしいガソリン車の野生味を解き放ちますよ」という、究極の免罪符(および解決策)を与えるために考案されたものだと考えられます。
そしてポルシェファンの一定の層は「ポルシェのエンジニアリング」に惚れ込んでいるため、「フルEV化を前代未聞の技術で回避した」となれば、そこに魅力を感じる可能性も非常に高く、この技術が「レンジエクステンダーEV」的な性質を持っているとしても、概ね肯定的な意見によって迎え入れられるのかもしれません(実際、T-ハイブリッドについてもポジティブな意見が多い)。
-
-
空冷・水冷ポルシェ論争に終止符?ポルシェが「新世代の”空水冷”ハイブリッドエンジン」特許を出願、これは様々な面でメリットがありそう
| ポルシェはこの特許をノスタルジーのために出願したわけではない | 内容を見ると「軽量化」「効率化」に繋がる画期的な特許であるといえるだろう 1998年、最後の空冷モデル993型がラインオフして以来 ...
続きを見る
他社の逆アプローチ:スバルは「ジェットタービン」を模索?
面白いことに、ポルシェと同じく「ボクサー(水平対向)エンジン」の伝統を持つスバル(Subaru)も最近ユニークなEREV向け特許を出願していて、スバルのアプローチはエンジンそのものではなく「超小型の電動ジェットタービン(ガスタービン)」を発電用ジェネレーターとして回すというもの。
ポルシェが「既存のレシプロエンジンの構造を極限まで複雑化して伝統の走りを守る」方向性だとすれば、スバルは「発電機を全く新しい効率的メカに置き換える」というアプローチであり、メーカーごとの哲学の違いが浮き彫りになっているという、非常に興味深い(EREV化によってガソリンエンジンを守ろうとする)トレンドでもありますね。
-
-
ポルシェとスバルの2社のみが守り続ける「ボクサーエンジン」は何が優れるのか?直列エンジンに対するアドバンテージ、他社が採用しない理由とは
Life in the FAST LANE. | なぜ世界で2社だけが「水平対向」を守り続けるのか? | いまや水平対向エンジンは「絶滅危惧種」に 大量生産と規模の経済(スケールメリット)はこだわりの ...
続きを見る
結論
ポルシェが今回出願した「左右非対称設計のマルチモード・ハイブリッド・システム」は、まさに自動車工学のロマンが詰まった「空前絶後のアイデア」ともいえるもの。
現実問題として、「半分だけ違うエンジンを作るコスト」「複雑な駆動切り替え機能を持つトランスミッション」「バッテリーとエレクトリックモーター」をすべて詰め込んだ市販車がどれほどの価格になり、どれほどの重量になってしまうのかという懸念(トレードオフ)が残るのも事実であり、さらには環境当局がこれを「ゼロエミッション車」として優遇してくれるかどうかも極めて不透明なのもまた事実。
しかし効率性や合理性だけで割り切れないのがプレミアム・スポーツカーの世界であり、「どんなに時代が変わっても、ポルシェを愛する人たちに最高のエンジン体験を届けたい」――そんなシュトゥットガルトのエンジニアたちの狂気とも言える情熱とプライドがこの特許からひしひしと伝わってくるかのようであり、この複雑怪奇なシステムが将来の「911」や次世代ハイパーカーに搭載されて目の前に現れる日が来るのかどうか、興味は尽きないところでもありますね。
合わせて読みたい、ポルシェ関連投稿
-
-
「空冷ポルシェのオイルが漏れる」のはお約束?オイル漏れが頻発する理由、そしてその対策、空冷ポルシェ乗りが「大丈夫、問題ない」と言う理由とは
| ただしその理由と対策がわかっていれが「怖くない」 | やはりポルシェは「乗ってナンボ」である 「空冷ポルシェ」。 その響きだけでクルマ好きの心が躍るキーワードではありますが、オーナーを悩ませる「お ...
続きを見る
-
-
ポルシェの水平対向エンジンの出力と耐久性を飛躍的に向上させることになった「キングシャフト」。70年以上前に誕生し「カレラ」の名の由来となったその偉大なパーツとは
| ポルシェの歴史上、その未来を形作ることとなった偉大なパーツや構造がいくつか存在する | こういった革新がポルシェと他の自動車メーカーとを隔てている さて、これまでにもポルシェは「ボルト」「キー」な ...
続きを見る
-
-
【不滅のアイコン】なぜ今「空冷ポルシェ911」が最強と言われるのか?水冷にはない“生”の快感と水冷化の代償とは
| 空冷ポルシェとそのオーナーとの関係は「永遠の相思相愛」 | 記事のポイント(3行まとめ) 唯一無二の鼓動: 水冷エンジンでは決して再現できない、乾いた独特のサウンドと滑らかな回転フィール ピュア ...
続きを見る
参照:CARBUZZ











