| 構想から実現までには4年を要し、ロールス・ロイスはまず「顧客を知ること」からスタート |
そしてオーナーの理想を実現するためにあらゆる手段を模索する
さて、ロールス・ロイスがビスポークコミッションによって仕上げられた「ドロップテール」シリーズ第三弾、”アルカディア”を公開。
古代ギリシャ神話で「地上の天国」として知られる場所、アルカディアにちなんだ命名を持ち、ロールス・ロイスの近代史上初のロードスターボディをまとうこと、ロールス・ロイス史上最も複雑なダッシュボードクロックの文字盤を持つこと、木製セクションの作成だけで8,000時間を要したこと等がダイジェストとして語られています。
なお、これまでに公開されたドロップテイル2台については「オーデマ ピゲ」「ヴァシュロン・コンスタンタン」とのパートナーシップによる専用クロックが装着されていたものの、今回のアルカディアについてはとくにウォッチパートナーが存在しないようですね(残る三大雲上ブランドのひとつ、パテック フィリップとのコラボレーションを期待していたが)。
ロールス・ロイス・アルカディアはこんなクルマ
そこでこのロールス・ロイス・アルカディアについてもう少し踏み込んでみると、まずこのクルマ、そしてロールス・ロイスのビスポーク(コーチビルド/オーダーメイド)について同社CEO、クリス・ブラウンリッジ氏は以下のように語っています。
ロールス・ロイスのコーチビルドは、この素晴らしいブランドの頂点であり、高級品分野では比類のないコンセプトです。 この部門では、世界で最も影響力のある人々が当社のデザイナー、エンジニア、職人と協力して、まったく新しいアイデアを実現します。 彼らは力を合わせて、依頼を受けたクライアントの個人的な物語の大切な一部となるだけでなく、ロールス・ロイス・モーター・カーの誇り高き歴史をさらに加える、精緻な自動車を作り上げます。 クライアントはこれらの傑作のあらゆる面を厳選し、私が信じている高級品業界で最も才能のある専門家チームによって生み出されます。
このアルカディア・ドロップテイルはこのアプローチのひとつの例です。 この自動車はクライアントの個性や好みと深く結びついており、クライアントの個性を捉えることで、私たちはインスピレーションを与えるデザイン、工芸、エンジニアリングのステートメントを作成し、私たちの野心と比類のない能力を世界に示すことができました。
そしてロールス・ロイスにてデザインディレクターを務めるアンダース・ウォーミング氏のコメントは以下の通り。
ロールス・ロイス・アルカディア・ドロップテールは、自動車の性格を完全に変えるというコーチビルドの提案の本質を見事に示しています。ドロップテイルの各コミッションには、基本的な設計に対する非常に個人的な理解と解釈が反映されています。アルカディア・ドロップテイルでは、英国の贅沢に対する独自の評価を持つ個人のライフスタイルに影響されたミニマリズムと繊細さの大胆さを表現しています。 この歴史的な自動車の製作において、私たちはビスポークデザインを最高レベルで統合し実行する比類のない能力を再び証明しました。
続いてロールス・ロイスのコーチビルド設計責任者、アレックス・イネス氏のコメントは以下の通り。
ロールス・ロイス・アルカディア・ドロップテールの重要性は、その繊細さにあります。 それは、高級料理への情熱、高度に厳選された個人的および専門的なスペース、現代デザインとの親和性など、生活のあらゆる分野で明晰さと正確さを重視する個人の投影です。 この自動車は、私たちがコーチビルド部門でこれまでに作成した個人のスタイルと感性を最も忠実に表現したものの1つです。 彼らの精神を捉えることで、私たちはシンプルさ、静けさ、そして美しく抑制されたエレガンスに対する独特の評価を明らかにしたのです。私にとってその一員になれたことを光栄に思います。
ロールス・ロイス・アルカディア・ドロップテールで表現したのは「静けさ」
ロールス・ロイスによると、このアルカディア・ドロップテールで表現したのは「類まれなる静けさ(オフィシャルフォトを見てもなんとなくわかる)」。
オーダーしたのはシンガポールの顧客だそうですが、その嗜好に従い純粋な形と天然素材の使用を突き詰めた、とのこと。
上述の通り、この「アルカディア」というネーミングは古代ギリシャ神話で「地上の天国」として描かれている場所、並外れた自然の美しさと完璧な調和で有名な土地に由来していますが、安息の地としても知られるアルカディアを象徴するかのように、”ビジネスの複雑さからの避難所として機能する、削減、物質的な深さ、触感を特徴とする穏やかな空間”として構想されています。
静けさのテーマを捉えるため、ロールス・ロイスのデザイナーは、クライアントのお気に入りの地域のデザイン、彫刻、建築の探求に着手することになり、これらにはシンガポールはもちろん、インドネシア、ベトナムで見られる熱帯天空庭園の豊かさだけでなく、有機的なフォルムで知られる英国の「バイオミメティック」建築も含まれているのだそう。
これらに加え、クライアントはドロップテールのデザインコンセプトが持つ純粋さにもインスピレーションを受け、「今回のコーチビルドは(2019 年に初めて提示された)最初の手描きのスケッチに絶対的に忠実であるべきだと」主張することに。
そしてそのスケッチに描かれていたのが「ロードスターボディ」をまとう大胆で低く構えたスタイリング、そしてヨットをイメージした「ドロップテイル」。
このドロップテイルのデザインにおいて重要な役割を果たすのが”セール カウル”と名付けられたリヤセクションで、これはドアの後ろで立ち上がり、緩やかに内側にカーブししつつリアエンドへと向かうという複雑な構造を持つデザイン。
このアルカディア・ドロップテールのボディカラーは(一見すると)ホワイトにブラックのフロントフードを持つだけのように見えますが、実際にはこのホワイト部分は「ダブルトーン」にて仕上げられており、一定の光を与えるとトーンが変化する部分がある、とのこと。
塗料自体にはアルミニウムとガラス粒子が混入され、これにより光が車体に当たると弾けるような輝きが生まれるだけでなく、ペイントに果てしない深みをあたえることになり、しかしより大きなサイズのアルミニウム粒子を使用することで「よりファセット感があり、印象的な」メタリックホワイトを生み出しています。
なお、この顧客は「ホワイト」「シルバー」に強いこだわりを持っていて、よって他のドロップテールでは「カーボンファイバーの織り目を生かした」仕上げがなされる部分であってもホワイトにペイントされ、グリルやホイールなどの表面には(ダーク仕上げではなく)ポリッシュ加工が用いられています。
ロールス・ロイス・アルカディア・ドロップテールはこんなインテリアを持っている
そして「ホワイト」へのこだわりはインテリアにも現れており、この顧客のために染色がなされたオーダーメイド。
メインカラーは、外装塗装のテーマを引き継いだホワイト、コントラストレザーは選択された木材を完璧に引き立たせるために開発されたのタンカラーです(両方ともそのカラーに顧客の名が付けられている)。
木目部分は「サントス ストレート グレイン」で、その豊かな質感と、独特の絡み合う木目パターンから得られる視覚的な魅力が最大の特徴であると紹介されていますが、このサントス ストレート グレインは、ロールス・ロイスで使用されているすべての木材種の中で最も細かい木目を持ち、かつ繊細な素材の1つなのだそう。
たとえば細心の注意を払って扱わないと、加工中に簡単に裂け、加工中に「チェック」(木目に平行に現れる亀裂)が発生するそうですが、にもかかわらずこのアルカディア・ドロップテールでは広範に渡ってこの素材が使用されることに。
これらの素材は正確に「55度」の角度をもって組み合わせられていて、さらには車体外側に使用されるということを考慮して耐久性の確保には1,000時間、そのための保護とコーティング剤の開発には8,000時間を要しています。
画像を見ても分かる通り、内装各部には複雑な曲面を持つパートが存在し、これらの上に木目を貼ってゆくことにはかなりの苦労があったそうですが、木目を確実に貼るためには「その下」の剛性確保が不可欠であり、ロールス・ロイスでは剛性確保のため「F1の車体に使用される積層カーボンファイバー」を採用しつつ、その上に木目を貼るという工程を採用した、とも説明しています(なんとも贅沢である)。
かくして完成したのがこのロールス・ロイス・アルカディア・ドロップテイルとなりますが、当初の企画から開発にまで要したのはなんと「4年」であり、その間で多くを占めたのは「クライアントの好みを知る」という調査プロセス。
つまりロールス・ロイスはクライアントの人となりを知ることから作業を始め、その顧客が好むものについても「なぜそれを好むのか」を考え、そこから顧客の想像を超えるような提案を(ロールス・ロイスならではの知識と経験をもって)行い、そういった相乗効果を発生させる協力関係を構築することによって今回のアルカディア・ドロップテールという並外れたコーチビルド車両が完成することになったのだと考えられます。
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参照:Rolls-Royce