日本で唯一好調なアメ車、ジープ。
今回はその中でも「最もジープらしい」ラングラーに試乗。
5ドアの「アンリミテッド」、グレードは「サハラ」、4,276,800円となっています。
全長4705ミリ、全幅1880、全高1845ミリ、と実際の数字は見た目よりもコンパクト。
エンジンはV6/3600ccペンタスターで284馬力、トランスミッションは5AT、駆動方式はもちろん4WD、サスペンションは前後共コイルリジッドを採用するクラシカルなモデルで、特筆すべきはラダーフレームの上にボディが乗る「ボディオンフレーム」構造を持つ、ということ。
ルーツは1941年の軍用ジープとなりますが、その思想を現代にまで色濃く受け継ぐモデルでもあり、今となってはメルセデス・ベンツGクラス以外には例を見ないバックボーンを持っている、と言えます(Gクラスも元は軍用)。
そのためボディは応力を受けず、よってルーフと車体後半を(3ピース分割式の”フリーダムトップ”)取り外すことができる構造を持ち、これらを外するとルーフと後ろ半分が「オープンになる」というワイルドさも魅力ですが、なんとドアも簡単に取り外せるという特殊な構造も。
この辺り「修理するよりも交換」という軍用車ならではの考え方が反映されている部分ですね。
反面室内は現代的で、サブウーファー搭載アルパイン製オーディオシステムを搭載したり、と意外や快適志向。
シートも柔らかく快適で、インテリアは外観とのギャップに驚かされるところ。
内装だとウインドウにちょっとした「お遊び」があり、ルームミラーの付け根あたり、そして運転席下には「ジープ」をアイコン化したグラフィックが(外装だとホイールにもある)。
この辺り「実用一点張りではなく」ジープのある生活を楽しもう、という意図が伝わって来ますね。
実際のところ非常に実用的な車ではありますが、その実用性だけじゃなく、所有する楽しみや、なにより「ジープのある生活」が他の車にはない価値ですよ、ということだと思います。
サスペンションは昔ながらのコイルリジッド。
裏面を見るといかにも頑丈そうで、かつシンプルな作り。
各パネルはリベットで留めてあったりして、このあたりの直接的なつくりもまず他の車だと見られない部分ですね。
さて、早速試乗に移りましょう。
運転席は「ちょっと」高め。
しかし外観から想像するほどシート位置は高くはなく、レンジローバーと同じくらいのように感じます(メルセデス・ベンツGクラスよりは低く、レンジローバー・イヴォークよりは高い)。
ミラー類の見切りはまずまずで、四角いボディに起因して車両感覚も掴みやすいと思います。
フロントウインドウは「平面」となっており、これも現在だとメルセデス・ベンツGクラスくらいしか思い当たらない形状。
ウインドウがかなり近く、ダッシュボードが短いのもGクラス同様ですが、このあたり同じような構造を持っていることを考えると、軍用として何らかの理由(ウインドウが平面で、乗員に近いことに対する)があるのかもしれません。
ちょっと気になるのは足の置き場で、左足(右ハンドル)は前に投げ出すのが難しく、これはトランスミッションもしくは副変速機の位置に起因するものでしょうね。
ペダルを踏む右足ですが、これは「アクセルペダルとブレーキペダルとの落差がかなり大きく」ちょっと戸惑う部分。
ただしこれは「意図的」とのことで、軍用のゴツいブーツを履いて足先の感覚が掴みづらいときでも「ペダルを踏み間違わないように」あえて段差を設けている(アクセルがかなり深い)、とのこと。
ぼくはウンチク好きなので「なるほど」「さすが軍用ベース」と感心したのですが、これに馴染めない人もいるようで、この「ペダル高さ」を普通の車同様に合わせるキットもあるそうです。
エンジン始動はコンベンショナルな「キーを捻る」もので、ブレーキを踏みながらキーを回してエンジンスタート。
シフトレバーもちょっと前までよく見た「ゲート式」。これをDレンジに入れて車をスタートさせます(パーキングブレーキはもちろん手動)。
重量2トンというところから想像するより遥かに軽い感覚で車が動き出し、ノイズやバイブレーションもかなり小さいのにはちょっと驚き。
外観に似合わず、このあたりは「現代風」の水準を満たしていると言ってよく、トヨタFJクルーザーより静かで快適だと思います。
運転しはじめて気になったのが「最小回転半径」。
ロングボディで7メートル超、ショートボディでも6メートル超という最小回転半径の大きさを持っており(普通の車は5~5.5メートル)、カーブを曲がる時にインを突くようなスポーツカー的曲がり方をすると確実に(日本の車線の幅だと)曲がりきれず、イメージとしては一旦外側に車体を振り、そこから曲がってゆくような感じですね。
これももしかすると軍用由来で「急ハンドルで転倒しないよう」な配慮かもしれませんが、詳細は不明。
ただ、「そういった車だ」と慣れてしまうと問題はなく、試乗を終えた後の車庫入れ(けっこう狭い)も一発で入れることができたので、慣れで解決する部分だと思います。
ステアリングホイールについても意外と径が小さく、車庫入れ時でもそんなに「ぐるぐる回す」という印象はなく、かつ軽快に操作が可能。
おそらくはステアリングホイールの角度が乗用車に近く、トラックのように「寝て」いないのが扱いやすさを感じさせるのでしょうね。
しばらく走行してみても「かなり乗用車ライク」なのには驚かされ、見かけのようにハードではなく、むしろ「ソフト」。
ラダーフレームなので車体は頑強で、揺さぶられる感じもなく、車内もデタッチャブルハードトップだというのに非常に静か(ロードノイズもあまり入ってこない)。
ぼくは基本的にオフローダーが好きなので何度かこの手の車に試乗していますが、多くのオフローダーの乗り味は「ほとんどトラック」。
ただ、オフローダーで快適に走ろうというのがそもそもの間違いなのでトラック的乗り心地を責めるのはお門違いというものではあり、しかしこのジープ・ラングラーはかなり乗用車に近い印象です。
衝撃吸収についてはリジッドコイルならではの癖はありますが、普段トーションビームのミニバンに乗っている人であればたぶん気にはならないと思われ、これもすぐに慣れる部分。
ブレーキについては比較的効きがよく、そして低ミュー路でのコントロール性が重要となるオフローダーだからか「タッチによって細かい制御ができる」味付け。
よって「カックン」にはならず、停車時でもゆっくりと、狙ったところに止めることができます(ブレーキは秀逸と言っていい)。
一言で言うと「見た目はハード、乗り心地はマイルド」。
見た目も乗り心地もハードでロックな車がありますが、ジープ・ラングラーは国産のミニバンから乗り換えても使い勝手や運転、乗り心地に文句はなく、そして同乗者からも苦情が出ることはまず無いだろう、と考えています。
前述のように日本で唯一好調なのが「ジープ」ブランドだそうですが、それも納得の完成度の高さ、という印象ですね。
それでいて上で例に挙げたペダルのように「ジープ(ラングラー)ならでは」の部分があり、他の車と違うことについては「ちゃんと理由があって」、それに納得できたり、さらに好きになることができるようなところが盛りだくさん。
所有すると愛着がどんどん湧く車であることは間違いなく、車を「単なるモノや移動手段」だと考えない人、かつカスタムしてみたいと考えたりクリエイティブな人には「うってつけ」の一台と言えるでしょう(カスタム意欲が異常に湧いてくる)。
走破性が高いのでまず雪道でも問題はありませんし、内張りが室内スペースを圧迫していないので(簡素なので)けっこうモノも乗り、しかもレギュラーガソリン対応という経済性の高さも特徴(燃費は実際のところリッターあたり6~7キロなので良くはないが、ランクルやFJクルーザーよりはちょっといいかもしれない)。
さらには「リセール」の高さも利点として挙げられ、「人とモノが載る車で面白いものはないか」と考えている人は是非試乗をお勧めしたい一台。
見た目がハードなので乗り心地もそうだったら嫌だなあ(普段乗りとして検討しているので)、と試乗前には心配していたものの、実際に試乗してみると「全く普通に、普段乗りとして使える」ことがわかり、今回はいい意味で期待を裏切られた試乗と言えるでしょう。
なお「最大の問題」は「ラングラーの魅力」と表裏一体ではありますが、カスタムにお金がかかるであろうこと。
購入するのであればショートボディになりますが、ルーフをハーフマットのブラックにペイントし、グリルもブラック、ヘッドライトはユニットごとLEDに入れ替え、ルーフにはLEDバーを装着し、バンパー類はルビコン仕様に、テールランプにはガードを装着し、ホイールもちょっといかついブラックへと変更し、タイヤもゴツめのものへ。
そのほか各部に手を入れることになると思いますが、ちょっと試乗しただけでここまでカスタム計画が出てくるくらいなので、実際に所有するとこれは大変だろう、と考えたり。
そのため現在どんなパーツがあるのか、カスタムにはどれくらい費用がかかるのかを算出中ですが、世界中に愛好者やカスタムショップがあるので、パーツの調査に時間がかかっている最中。
ラングラーであれば「ツルシ」で乗ることはなく、購入の際には「カスタム含めた総額」で考えなくてはなりません。
なお今回試乗をお願いしたのは大阪・箕面の「クライスラー/ジープ箕面」さん。
何度か訪問したことがありますがスタッフの方々すべて対応が非常にフレンドリーで、かつ車への情熱が感じられるもの。
その上購入後はかなり幅広いカスタムに対応していただけるとのことで、心強いディーラーさんではありますね(たぶん日本で一番台数を売っている)。
改めてここでお礼申し上げたいと思います。