
Image:Rolls-Royce
| 「高級車」と「腕時計」は相性がいい |
そして自己満足を完結させるにはこれほど効果的なオプションもないであろう
「クルマ好きは腕時計好き」。
北米ではそういった格言もあるそうですが、実際のところこの両分野において興味を持つ人も少なくはないようで、多くの自動車メーカーが様々な腕時計ブランドとのコラボレーションを行っているほか、ポルシェにおいては自社にて「オーナーのクルマにマッチした」腕時計を製作するというサービスを展開しています。
そしてポルシェはつい最近、「スポーツクロノクロックを取り外して腕時計にコンバートできる」特許を出願したほか、アルピーヌとTISSOTも「車内ストップウォッチと兼用の腕時計」を発売するなどいくつかの”動き”が見られるものの、やはり現時点で圧倒的な存在感を誇るのはオーデマピゲの腕時計をダッシュボードに組み込んだワンオフモデル、「ラ・ローズ・ノワール ドロップテール」。
ここでその存在について振り返ってみたいと思います。

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1分でわかる本記事の要点
- 極限のウッド工芸:1台のために選ばれた1人の職人が防音室に籠もり、1603個もの木片を手作業で配置。途方もない集中力を保つため「1回1時間・1日最大5時間」に制限され、完成までに9ヶ月を要する
- 150回以上の試作が生んだ漆黒の赤:ブラック・バカラ・ローズを模し、光の当たり方で黒から深いパールレッドへと表情を変える「True Love」塗装を開発
- 脱着して腕に巻ける高級時計:ダッシュボード中央には、専用設計されたオーデマ ピゲの高級超複雑時計(ロイヤル オーク コンセプト)が組み込まれ、取り外して装着することも可能
- 専用設計のカーボン&アルミシャシー:既存のプラットフォームを流用せず、4台のドロップテール専用に新規開発された構造を採用

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時空を超えた芸術品。職人が静寂の中で生み出した1,603個のウッドピースによるグラフィック
量産性やコストといった従来の自動車づくりの常識を完全に無視したとき、一体どのような製品が生まれるのか。
その究極の答えがロールス・ロイスが手がけたコーチビルドモデル「ラ・ローズ・ノワール ドロップテール(La Rose Noire Droptail)」で、世界でわずか4台のみが作られるドロップテール・シリーズの第1弾として披露されたこのモデルは、推定価格約3200万ドル(日本円で約52億円以上)とも報じられる、世界最高峰のハイパーラグジュアリーカーです。
職人を防音室に隔離して作られた「舞い散る薔薇の花びら」
オーナーファミリーの思い入れがあるフランス産の薔薇「ブラック・バカラ・ローズ」からインスピレーションを受けた本作。
その最大のハイライトが、室内からリアデッキへと優雅に広がるパーケットリー(木片象嵌細工)で・・・。
- ブラック・シカモア材(背景):自然な木目や色調のグラデーションを吟味した1,070個の対称形状のウッドピース
- 赤いペイントパーツ(花びら):空中に舞い散る花びらを表現した非対称の533個のパーツ。退色を防ぐ特殊ラッカーの開発に1年以上を費やす

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ロールス・ロイスはこの作業のために、見習いから叩き上げで育った1人のトップ職人を抜擢し、さらには極限の集中力を維持するため、完全に静音化された防音室が用意されたうえで作業時間は「1回1時間」「1日最大5時間まで」という厳格な制約が課されたのだそう(ミスを犯さないため)。
試作や準備段階を含めるとプロジェクト全体で約2年、実際の組み立てだけで9ヶ月間の月日が費やされることに。
【パーケットリー完成までのプロセス】
厳選された木材から木目を厳選(ブラックシカモア材)
│
手作業によるカット・研磨および退色防止塗装(赤パーツ)
│
防音室内で職人が1回1時間ずつ集中手配置(1,603個の木片)
│
9ヶ月の歳月を経て車内~リアデッキへ続くグラフィックが完成
薔薇の美しさを塗料で再現:150回の試行錯誤が生んだ「True Love」
木工細工だけでなくボディカラーにも妥協なき美学が貫かれ、日陰では黒く、直射日光の下では深みのある真珠のような赤に輝くブラック・バカラ・ローズの質感を再現するため、ロールス・ロイスのペイントスペシャリストは150回以上の試作を重ねたことにも触れられています。
塗膜とディレクションのこだわり
その結果として、ベースコートの上に、それぞれ微妙にトーンの異なる赤を含ませたクリアラッカーを5層重ねることで見る角度や光の加減によって表情を変える「True Love」カラーが誕生したというわけですね。
また、フロントのロアインテークには3Dプリントされた軽量コンポジット素材に加え、手作業で磨き上げられた202個のステンレススチール製インゴットが配置され、それぞれに手作業でTrue Loveカラーのアクセントが施されるといった「こだわり」も。

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独立した専用骨格とパワートレイン:最高出力593馬力のV12
「ラ・ローズ・ノワール ドロップテール」は既存モデルの装飾版ではなく、ロールス・ロイスの通常ラインアップが採用するアルミニウム・スペースフレーム(アーキテクチャ・オブ・ラグジュアリー)とは異なる、ドロップテール・プログラムのために専用のモノコック構造が新規開発されており・・・。
ドロップテール 主要スペック・特徴一覧
| 項目 | スペック・仕様 |
| 全長×全幅 | 約5,300 mm × 約2,000 mm |
| 乗車定員 | 2名(2シーター・ロードスター) |
| シャシー構造 | アルミニウム、スチール、カーボンファイバーを組み合わせた専用モノコック |
| エンジン | 6.75リットル V型12気筒 ツインターボガソリンエンジン |
| 最高出力 | 593 hp(標準より30 hpアップ) |
| 最大トルク | 840 Nm |
| ルーフ機構 | 脱着式カーボンファイバー・ハードトップ(エレクトロクロミックガラス搭載) |
| 推定価格 | 約3,200万ドル(約52億円以上 ※公式非公表) |
リヤセクションには同社史上最大級となるカーボンファイバー製クォーターパネルを採用したほか、ウイング(リアスポイラー)に頼らず高速度域でのダウンフォースを発生させるエアロダイナミクス設計が施され、このリアデッキの形状決定だけでも2年と20回の試作が重ねられた、とのこと。
つまるところ「わずか4台」のためにシャシーを新規開発し、各国の法規そして衝突安全基準をクリアさせるためのテストを行ってということになり、そう考えると「50億円超」というプライスにも納得ですね。

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腕にも着けられるオーデマ ピゲ製時計とシャンパンチェスト
そしてダッシュボード中央に鎮座するのは、オーナーの要望により特別製作されたオーデマ ピゲ(Audemars Piguet)のワンオフモデル「ロイヤル オーク コンセプト フライバック クロノグラフ GMT グランドデイト(43mm)」。

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この腕時計の「ケース」部分は電動ホルダーによりダッシュボードに強固に固定されていますが、ボタンひとつで取り外しが可能となっていて、取り外した後は専用のストラップを装着することでオーナーが高級腕時計として身に着けることができるという画期的なカラクリが仕込まれています。

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時計を取り外したあとのダッシュボードの開口部には、チタン製の透かし彫りプレートが収まるという抜かりのなさ。

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さらに車内には専用の「シャンパンチェスト」も備えられており、ボタン操作で開くリッドがサービングトレイに変身するほか、ハンドメイドのクリスタルグラスやカーボンファイバー製のクーラーボックスが格納されているそうですが、このあたりはロールス・ロイスの「定番」といったところかもしれません。
4台それぞれが異なる物語を持つ「ドロップテール」シリーズ
ロールス・ロイスの最高峰コーチビルド・プロジェクト「ドロップテール」は世界で限定4台のみが生産され、各車両にはオーナーの個性を反映したテーマと贅を尽くしたカスタムが施されています。
このうちひとつはヴァシュロン・コンスタンタン製の時計がダッシュボードに収めるものの、こちらは「腕時計」として使用することはできず、その意味でもこのラ・ローズ・ノワールがどれだけ特別なのかがわかろうというものですね。
- 1. ラ・ローズ・ノワール ドロップテール(La Rose Noire Droptail)今回紹介したモデル。ブラック・バカラ・ローズ、1,603個のウッド象嵌、オーデマ ピゲの脱着式時計がテーマ。
- 2. アメジスト ドロップテール(Amethyst Droptail)オーナーの息子の誕生石であるアメジスト(紫水晶)をモチーフとし、スピリット・オブ・エクスタシーの土台に本物のアメジストを使用。ヴァシュロン・コンスタンタン製の時計を搭載。
- 3. アルカディア ドロップテール(Arcadia Droptail)ギリシャ神話の桃源郷をイメージ。サントス・ストレート・グレインと呼ばれる高密度の木材を大量に使用し、最も複雑なクロックフェイスを備える。
- 4. 第4のモデル(※今後公開予定のワンオフモデル)
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【関連知識】自動車における「コーチビルド(Coachbuild)」の歴史と現代の意義
車好きなら知っておきたいのが、ロールス・ロイスが注力する「コーチビルド」という言葉の持つ歴史的意味であり・・・。

1920年代の黄金期から現代へ
自動車の黎明期から1930年代にかけ、富裕層は自動車メーカーから「エンジンとシャシー(骨格)」のみを購入し、自分好みの車体を「コーチビルダー(車体製造業者)」に特注するというのが一般的な流れです。
現代のロールス・ロイスにおけるコーチビルド部門(Rolls-Royce Coachbuild)はこの伝統を現代の安全基準や最新テクノロジーと融合させて復活させたもので、大量生産の制約から完全に解き放たれ、オーナーの思い描く「世界に1台だけの夢」をゼロから形にする、オートクチュール(高級仕立服)の自動車版と言える概念というわけですね。
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結論:時間と予算の概念を捨て去った、現代最高の自動車芸術
1人の職人が防音室の中で1時間ずつ、1,603個の木片を静寂とともに配置していく——。
効率とスピードが最優先される現代の自動車業界において、ロールス・ロイスの「ラ・ローズ・ノワール ドロップテール」が示したのは、究極の贅沢とは「職人の時間と情熱そのもの」であるという真実です。
単なる移動手段としてのクルマを超え、オーナーの哲学、伝統工芸、そして最新のエンジニアリングが融合したこの1台は、自動車史に刻まれる不朽の名作としてこれからも語り継がれていくこととなることは間違いなく、そしてこのクルマが示した「お気に入りの腕時計をダッシュボードに格納する」という手法はクルマ好きとしてのひとつの夢であるとも考えられ、このラ・ローズ・ノワール ドロップテールに触発されたオーナーあるいはメーカーが「新たなるコラボ」を提案してくる日が来るのかもしれませんね。
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参照:Rolls-Royce






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