ポルシェが製造した最後の公道レーシングカー、906カレラ6が競売に。生産わずか57台のみ、この個体は入賞記録多数、予想落札価格は3.3億円

｜　ヴィンテージレーシングカーはコンディションよりも「レース参戦記録」「入賞記録」が高く評価される　｜

加えてこのポルシェ906カレラ6はコンディションも非常に良好

さて、ポルシェが製造した「最後の公道レースを走行可能なレーシングカー、906カレラ6がRMサザビーズの開催するオークションへと登場予定。

このポルシェ906カレラ6は大成功を収めた競技用車である「904GTS」の後継という位置づけではあるものの、簡単に言うならば904GTSは4気筒エンジンを積む356のレーシングバージョン、906カレラ6は（当時の）新しい911をベースにした車両という相違があります。

906カレラ6の構造としては軽量な多管式スペースフレーム シャーシに210馬力を発生する6気筒エンジンを積み、そこへグラスファイバー製のボディを架装したというもので、その車体重量は驚くべきことになんと「わずか560kg」。

ポルシェ906カレラ6の生産台数はわずか65台

この906カレラ6は合計で 65台が生産されており、そのうち52台には2リッターエンジンが搭載されていますが、この2リッターモデルはプライベータードライバーの手によって2 シーズンにわたり世界中の2リッタークラス耐久レースを完全に制覇し、その時代で最も記憶に残る”強力で美しい”レーシングカーとして記憶されています。

1966年だけでもタルガフローリオとパリ・グランプリでの勝利、ル・マン24時間レースでの4位から7位の独占、さらにはデイトナ、セブリング、スパ・フランコルシャン、モンツァでのクラス優勝等が含まれますが、ここからプライベーターの勝利は1968年まで続き、906カレラ6はヨーロッパ大陸のスポーツカー レース、さらに北米のSCCAイベントにおいても圧倒的な強さを誇ります。

このポルシェ906カレラ6は、その独特なボディ形状に起因して認識率が非常に高く、ポルシェの愛好家にとっては911と同じくらい「特別」であるかもしれません。

当然ながらポルシェがこれまでに製造した中でも「最も重要なモデルのひとつ」としても評価され、かつ「ポルシェが製造した、最後の”公道レースを走るためのレーシングカー”」という事実もその価値を大きく押し上げているわけですね。

今回出品される「シャシーナンバー906−127」は、1966年3月にミュンヘンを本拠地とするフォルクスワーゲン・ポルシェのディーラー経営者、ジョゼフ・“ゼップ”・グレーガーへと納車され、当時のボディカラーはシグナル・レッド、そしてダンロップ製タイヤを装着していたという記録が残ります。

このポルシェ906カレラ6はモータースポーツにて輝かしい戦績を残す

ジョゼフ・“ゼップ”・グレーガーはこのポルシェ906カレラ6にて1966年から1968年後半にかけ、当時最も有名なヨーロッパのヒルクライムや耐久イベントに参加し、1966年のヨーロッパ ヒルクライム チャンピオンシップ（2リッタークラス）で優勝したほか、そのシーズンに行われたほかの競技においても、14レース中10勝（さらにひとつは2位でのフィニッシュ）を記録することに。

1968年シーズンの終了後、この906-127は、同じくミュンヘン出身のクルト・ヒルトに売却され、1969年と1970年のシーズン期間中いくつかのレースに出場し、その後このマシンはデュッセルドルフのマンフレッド・パーデに譲渡され、1971年から1972年にかけて各種競技へと参加したほか、この途中では”スパイダー”に改造され、ヴンストルフやメルツィガーでのクラス優勝を記録したこともあるのだそう。

1973年になると、この906-127 はヘルベルト・アダムチックが購入したのちマカオに持ち込まれ、1973年のマカオグランプリの週末にレースに出場したほか、マカオ内で「公道走行を行っていた」そうですが、1978年にはボブ・ギャレットソンへと売却し、このボブ・ギャレットソンがその車を南カリフォルニアへと運び、さらにマイケル・ヘイガーなる人物に売却。

マイケル・ヘイガーの所有下ではレストアのために解体されたものの、本格的に修復作業が始まることはなく、1986年になるとポルシェ愛好家として著名なジェリー・サッターフィールドによって買い取られ、その後すぐにジェフ・ヘイズへと売却。

しかしながらいずれの所有においても20年近く修復されずに放置されており、レストアが開始されたのはその後3人のオーナーの手を経た2003年のことで、レストアを担当したのはポルシェ レースカーのスペシャリスト、「グンナー レーシング」。

このレストアの過程ではマッチングナンバーを持つ 906マグネシウムケースエンジン (番号 906-133) と正しいマグネシウム ギアボックス (番号 906-157) が取り付けられ、長年の放置によって朽ち果てたニュルブルクリンクの車検ステッカーなど当時のディテールを再現するこことなっています。

なお、このレストア過程において、最初の所有者であるジョゼフ・“ゼップ”・グレーガーがファクトリーを訪れ、たとえば1966年に軽量化のためにペダルに穴を開けたことなどを伝えており、非常に高い精度にて「当時の姿へと」戻されることとなったようですね。

レストアが完了した後、この906カレラ6は、2007年にデイトナで開催されたレンシュポート リユニオンにて展示され、ファースト イン クラスを受賞したほか、2009年のアメリア アイランド コンクール デレガンスではポルシェ賞とアメリア賞を受賞し、2010年には高名なビンテージ レーシング ドライバーであるイギリスのジェームス リンゼーによって購入され、2011年のスパ6時間レースで走行したという実績も。

この後906カレラ6はニューヨーク州アルバニーのコレクターに売却され、その後手に入れたのが現在の所有者だそうですが、現在はオリジナルのエンジンを取り外して別のエンジンを積んでおり、これによって「（別途保管されている）本物の906カレラ6用エンジンの破損を気にすることなく」思う存分エンジンを回すことができるようになったといい、実際にロード アトランタやラグナ セカなど様々なサーキットを走らせているのだそう。

さらにはBluetooth接続によるオーディオ、エアコンも追加されるなど快適性も向上していて、オーナーによると「非常に高い信頼性を誇り、走行に問題はない」。

上述の通りこのポルシェ906カレラ6については詳細な記録が残り、かつ80以上のレースにて優れた成績を収め、さらには美しくレストアされ「実際に機能する」ことも立証されています。

加えてこれまでの多数の写真や修復中の記録、様々な付属品も出品物に含まれ、現存する906カレラ6のうちでは「もっともコレクション価値が高い」一台もしれません。

なお、予想落札価格はそういった事情を反映し、最高で220万ドル（現在の為替レートにて約3億3000万円）に達すると見られています。

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参照：RM Sotheby's