ルノー・ルーテシアR.S.トロフィーに試乗。
正直言ってこれほどまでにパフォーマンスが高いとは思っておらず、ぼく自身、そして世間的にも不当に過小評価されているのでは、と思える車です。
エンジンは1.6リッターターボで200馬力を発生。
車重は1290キロと比較的軽量な部類ですね。
トランスミッションは6速デュアルクラッチ。
おなじルノー・スポールの車でもメガーヌR.S.は6MTですが、これはルーテシアのほうが登場が新しい、ということに起因するのかもしれません。
価格は329万5000円で426万円のメガーヌR.S.より100万円安く設定されていますが、パフォーマンスが100万円分劣るかというとそうではなく、絶対的なパワー以外はさほど差がないかもしれない、と感じます。
この価格差はメガーヌには装着されるレカロシートやブレンボ製のブレーキ、アクラポヴィッチ製マフラーがルーテシアR.S.には装備されていないとうところが主なところと思われ、公道走行には「過剰」と思われるそれら装備を省いた分、安価に購入できるのがルーテシアR.S.だとも言えます。
上述の通りトランスミッションもメガーヌR.S.とルーテシアR.S.には差がありますが、クラッチ操作に気を使わなくても良いぶん、やはりルーテシアR.S.のほうが気楽に乗れることは間違いありません。
ボディサイズは全長4105、全幅1750、全高1435ミリ。
大きすぎず小さすぎないサイズですね。
ホイールは18インチが標準となり、けっこう見栄えのするスタイルです。
なお直接のライバルはミニクーパーS、ゴルフGTIになるかと思われますが、ミニクーパーSは184馬力、6ATで339万円。
ゴルフGTIは220馬力、DSGで399万円。
そう考えると18インチホイールを装備し、F1を手掛けるルノー・スポールによるルーテシアR.S.が329万円、というのは非常に安いように思えます。
ただしミニクーパーSはリセールに優れるので、「買って売って」を考えるとミニクーパーSがもっともコストパフォーマンスが良いかもしれない、とは思います。
ルノーは一般的な知名度が低いこと、その良さが知られていないことがちょっと不利な点で、そこが冒頭に記載した「不当に過小評価されている」ところだとぼくは考えるのですね。
さて、さらに外観を見てゆきますが、ヘッドライト内部のウイング状加飾はメガーヌR.S.同様で、ルノー・スポールのひとつの特徴。
ちょっと驚いたのはブレーキローターで、1ピースですがフローティングローター状の構造となっていること。
小さなところですが、走りに関しては「大きな」部分です。
ボディパネルのチリはけっこう狭く、最近のルノーは非常につくりが良いようですね。
続いてドアを開けて乗り込みますが、サイドシルが非常に低く狭いのには驚かされ、「こんなサイドシルで大丈夫か」と思いますが、実際に走ってみるとこれは完全に杞憂に終わったと言えます。
シートに腰をおろすとその柔らかさにもちょっと驚かされますが(メガーヌR.S.のレカロシートの硬さが記憶にあるだけに)、けっこう沈み込みが大きいので、ポジションを決めるとしっかり体をホールドしてくれるタイプ。
なおルノー・スポールは「サスペンションとシート」を同時設計することで知られ、つまりこのシートの軟らかさも「意図的」なわけです。
メーター類はシンプルですがチープさはなく、このあたりは最近の欧州車の美点でもありますね。
日本車の場合はシンプルにするとどうしても安っぽくなるのですが、欧州ブランド、とくにフランス勢はこのあたりの処理がうまくなっています。
ステアリングホイールはコンパクトで握りが太く、しかしパッドが薄い仕様(パッドが皆無ではない)。
このパッドの厚さは非常に重要で、パッドが薄いとステアリングに不快な振動がダイレクトに伝わることになります。
よって一部のメーカーはパッドを分厚くして(ごまかして)いるわけですが、逆に「パッドが薄い」ステアリングホイール(かつ不快な振動を感じさせない)を持つメーカーは、優れた技術を持っている、とぼくは考えています。
ポルシェやフェラーリ、ランボルギーニなどはほぼパッドが無く、しかし不快な振動もなく、しかしダイレクトさと正確さを感じさせるものですね。
振動をパッドの厚さでごまかすメーカーがあるのと同様に、パッドを薄くしながらもシャフトの何処かで振動を吸収しているメーカーもあり、その場合はステアリングフィールをが犠牲になったりするのでこれまた要注意。
もちろんコストの兼ね合いや車の性格もあるので、どの車においても「パッドが薄く正確なフィーリングを持つ方が良い」とは言えませんが、傾向として「ステアリングホイールのパッドが薄くて振動がなく、ハンドリングが正確」な車を作るメーカーは技術力が高い、とぼくは考えているわけです。
その点、ルノー・ルーテシアR.S.トロフィーはステアリングのパッドの厚さは絶妙で、センターコンソールにあるスタートボタンを押してエンジンをスタートさせた後も不快な振動は一切なし。
かつ、駐車場から車を動かすだけでも正確さやソリッドさを感じさせ、これはボディ剛性、各部の取り付け剛性が非常に高いということを示していると言えます。
走りだしてみるとやはりボディ剛性が非常に高いことがわかり、ちょっとした車線変更においても機敏に車が動くのが気持ち良いですね。
エンジンは不足があろうはずもなく、きっちり上まで回ります。
どういった速度域からも必要なトルクが得られるので非常に運転しやすいのが特徴。
最近の車では標準的となったドライブモード(ルーテシアR.S.では”R.S.ドライブスイッチ”)が備わり、これは「ノーマル」「スポーツ」「レース」を選ぶことが可能。
他のメーカー同様にモードが上に行くとアイドリングの回転数があがったりシフトチェンジのスピードがあがったりというところは同じですが、「レース」を選ぶと電子制御が解除され、「腕一本」のみで勝負するようになるのはルノー・スポールらしいところ。
試乗した際は気温4度の峠だったので「レース」はさすがに試すことはしませんでしたが、「スポーツ」でも十分に刺激的。
メガーヌR.S.と比較すると絶対的なコーナリングスピードはやや低いかもしれませんが、デュアルクラッチを採用しているおかげでステアリング操作とブレーキに集中でき、よりイージーに走れるのは大きなメリットと言えるかもしれません。
コーナリング性能は特筆すべきものがあり、電制デフの採用もあってすさまじいトラクションをもってコーナーを駆け抜けます。
これはちょっと曲がれないかもというような速度であっても余裕をもって曲がるので、ぼくが思うよりもずっと限界は高いところにあり、ぼくの腕ではその限界を引き出せないだろうな、というレベル。
タイヤは205サイズと意外と細く、これはつまり「タイヤに依存しない、メカニカルグリップで勝負している」ということを意味し、基本性能が相当に高いことを示しています。
足回りは硬いですがゴツゴツした感じはなく、きっちり伸びるので撥ねたり飛んだりもなく、どんな状況でもしっかりと四輪が設置しているという安心感があります。
とにかく抜群の安定感と安心感のある車であり、同等の性能を持つ車を集めて同等のタイムで走ったとするならば、おそらくはルーテシアR.S.がどの車よりも安全に、安心して、かつ快適で楽しいだろうと確信できます。
この価格でこの性能をもつ車を購入できるのはやはり驚きとしかいいようがなく、間違いなく「買って損しない」車ですね。
走っていて唯一気になったのは「アクセルペダルとブレーキペダルの段差」で、かなりブレーキペダルが高くなっています。
椎間板ヘルニアの後遺症が右足に残るぼくにとってはちょっと気になりましたが、健常者であれば気にならない寝レベルなのかもしれません(仮に気になってもアクセルペダル二枚重ねで解決できる)。
そのほか現実問題として気になるのはリセール。
メガーヌR.S.より低いであろうことは容易に想像でき、そうなるとメガーヌR.S.との新車価格が100万円開いていようとも、将来の乗り換えを考えると「メガーヌR.S.のほうが有利かもしれない」と思わせる部分はありますね。
上述のとおりトランスミッション、シートはメガーヌR.S.と大きく異るところで、これは「非日常」と「日常」という表現に置き換えることもでき(もちろんメガーヌR.S.が非日常ですが)、同じルノー・スポールながらもこれほど異なる印象を持つ車を作ることができるんだなあ、と感心します。
これは「ボクスター」と「ボクスターGTS」のような差異でもあり、よほどセッティング(どこをどう触ればどう変わるのか)を理解していないとこういった差異を意図的に演出できないだろう、ということが容易にわかります。
その意味ではメガーヌR.S.と方向性の異なる車でありながら、ルノー・スポールの計り知れない技術とセッティング能力をまたしても思い知らされた車と言って良いでしょう。
これまでの試乗レポートは下記のとおり。
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