| これまでのクラシカルから一転し、シンガーは「未来志向」のクルマを作ることに |
さらには豪華さや快適さも追求し、今までとは全く異なる作品をリリースするものと考えられる
さて、ポルシェ911のレストモッド第一人者でもあるシンガー・ヴィークル・デザイン。
これまでには964世代のポルシェ911をベースとして様々な仕様を持つレストモッド車両を世に送り出してきましたが、なんと同社の創業者、ロブ・ディッキンソン氏が「964ベースの、これまでのレストモッドについては受注を停止した」とコメントしてポルシェ911ファンを驚かせ、また一部のオーナー予備軍を絶望の淵へと突き落とすことに。
いったいなぜシンガー・ヴィークル・デザインは受注停止?
なお、近年は「受注停止」という言葉をよく聞くようになり、たとえばメルセデス・ベンツGクラス、トヨタ・ランドクルーザー、そして直近だとトヨタ・ハリアーが「受注停止」として話題となっています。
それらは「半導体不足とサプライチェーンの混乱」が主な理由だと説明されていますが、シンガー・ヴィークル・デザインの場合は全く異なる理由であり、それは「希少性を維持するため」。
シンガー・ヴィークル・デザインは964ベースのレストモッドのオーダーを現在にいたるまで「450台」受けているそうですが、これを上限として今後新規受注を受け付けないとしており、この「450」が正しい数字であるかどうかはわからないとしながらも、製造したクルマの価値を維持するため、そしてシンガーを注文してくれた顧客のためにもこの数字を定めた、とのこと。
964世代のポルシェ911を使用したシンガー製911は「億」を超える価格で取引されることが通例となっていて、しかし今後はさらにその価値を上げることになりそうですね。
シンガー・ヴィークル・デザインはこんな成り立ちを持っている
ちなみにシンガー・ヴィークル・デザインは一風変わった成り立ちを持っていて、まず創始者のロブ・ディッキンソン氏はもともとロータスのデザイナーとして自動車業界でのキャリアをスタートさせています。
ただ、自身の夢を捨てることができず、1990年にはいったん自動車業界を離れて「キャサリン・ホイール」というロックバンドを結成することに(ロブ・ディッキンソンは、アイアン・メイデンのボーカリスト、ブルース・ディッキンソンのいとこでもある)。
ここでいくつかアルバムを出したのち(けっこう成功した部類に入る)2000年に解散することとなり、その後新しくスタートさせたビジネスがポルシェ911のカスタム、レストアを行う「シンガー・ヴィークル・デザイン」。
もちろんこれは自身がポルシェ911マニアであったことが事業スタートの理由となっていて、参考までに、この「シンガー(Singer)というネーミングは、自身がバンドにてヴォーカルを担当していたこと、そしてポルシェのエンジニア(ジンガー)の名に由来します。
ちなみにこちらは創業間もない頃、ロブ・ディッキンソン氏が自身のためにカスタムした1969年製のポルシェ911E。
参考までに、ロブ・ディッキンソン氏は(ロックバンド時代)そのシャウトする様子がエクストリームだと言われていて、「スクリーミング・ロブ」としても知られますが、こちらの911のタコメーターにはその「叫ぶ顔」が描かれており、つまりはそれくらいファンの間では有名だということですね。
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参考までに、ロブ・ディッキンソン氏の興味の対象は「クルマと腕時計」だといい、シンガー・ヴィークル・デザインではこういった腕時計ラインアップも展開中です(こちらはまだそこまでの人気はないようだ)。
こういった流れを見ると、「自分のやりたいことをやっていたら多くの人に認められてここまで大きくなった」ということになりますが、このあたりはマグナス・ウォーカーとも共通する部分があるかもしれませんね。
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そしてここまで成長したことに一番驚いているのはどうやら自分自身でもあるようで、「12年前にシンガー・ヴィークル・デザインをスタートさせたときにはプランなんてなかった」といい、今現在でも「実際にはマスタープランなどない」のだそう。
ただ、このまま964をベースにしたレストアを無制限に続けるべきではなく、さらにブランドの認識とその価値には注意を払わなければならず、自分自身で「少しは大人にならなければならない」とも語っていて、次の段階へとステップアップする時期を迎えている、ということになりそうです。
次なるシンガー・ヴィークル・デザインの目標は?
ロブ・ディッキンソン氏は964ベース、そして空冷エンジンベースのレストモッドについては「行けるところまで行った」と述べており、そして次なる目標は「ターボ」。
先日発表されたポルシェ930ターボをベースとした「ターボスタディ」の顧客スペックを仕上げ、こちらの注文を受けてゆくということになりますが、同氏いわく「ターボにチャレンジする時が来た」。
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ターボはポルシェの代名詞でもあり、洗練されたクルマを作り、NVH(ノイズ・バイブレーション・ハーシュネス)を徹底的に解消し、ラグジュアリーで、速く洗練され、最高の気分にしてくれるクルマを作ることを考えていると述べていて(930ターボそのものが高級GTを標榜して発売されているので、この解釈はまったくもって正当)、今後はここに注力し、かつ今までのクラシカルな路線から一転することで新しい顧客を獲得し、同時にこれまでリリースしたモデルの価値も保持してゆくことになりそうです。
現在このターボスタディは試作段階にとどまり、しかしそのエンジンは「衝撃的なレベルのトルク」を持っており、そのエンジンを積んだターボスタディは「究極のモンスター」。
そして現状ではあまりにトルクが大きすぎるためか「少しトルクを下げなければならないだろう」ともコメントし、意図的にターボラグを設けることについても言及しています。
現在、このターボスタディに積まれるエンジンは「ターボラグが全くない」そうですが、930ターボは「ターボラグがそのキャラクターのひとつ」でもあったので、それを再現するために「ドッカンターボ」を人為的に作り出すことも考えているといい、どんな顧客スペックが出来上がるのか楽しみに待ちたいところですね。
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参照:Top Gear