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ポルシェ・ボクスターは「なぜ911と同じ顔」で登場し、そもそもどういった経緯で企画され、ポルシェに何をもたらしたのか?

ポルシェ・ボクスターは「なぜ911と同じ顔」で登場し、そもそもどういった経緯で企画され、ポルシェに何をもたらしたのか?

| ポルシェは「安価で求めやすいポルシェを作る」というリスクの高い戦略を採用し、そしてそれに勝利した |

さらにボクスターの開発で得た手法はのちのカイエンにも生かされる

さて、ポルシェは今でこそ高い利益率を誇るプレミアムカーメーカーへと成長を遂げているものの、1990年代初頭には岐路に立たされており、911や959 といった伝説的なスポーツカーにより尊敬を集めていたにもかかわらず財政破綻の危機に瀕していたのはよく知られるところ。

1980年代後半から1990年代初頭にかけての経済不況に加え、社内の経営不振や変化する市場の需要への適応力の欠如によって、一時は「トヨタやホンダが買収に名乗りをあげるほど」にまでその輝きを失ってしまいますが、ポルシェはこの状況を他社に頼らず自ら解決することとし、最終的に多くのスポーツカーメーカーが陥る運命から自らを救い出すこととなっています。

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ボクスター、カイエンはポルシェの「救世主」である

ボクスター、そして後にカイエンが誕生したのは、この混乱からですが、結果としてこれらのモデルは、ポルシェを世界で最も収益性の高いメーカーの1つに変革する上で重要な役割を果たすこととなっていて、しかしボクスターは発売後に成功を収めたにもかかわらず、その後もしばらくの間は「本物のポルシェではない」と蔑まれ、カイエンにおいてもポルシェのスポーツカーイメージを希薄にしてしまったと大きな批判を浴びていたのは記憶に新しいところ(今ではそういったことを言う人もいないと思われる)。

そしてポルシェファンがそう思うのであればポルシェ社内にも同様の批判があったはずで、今回紹介するのは「いかにしてボクスターやカイエンが誕生したのか」というその「舞台裏」。※カイエンについては別途解説の予定

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まず、ボクスターとカイエンがいかに(ポルシェの業績回復に)重要な役割を果たしたかを完全に理解するには、1990年代のポルシェの状況がいかに悪かったかを知る必要があり、上述のようにポルシェは外部の経済的要因と内部の戦略上の失敗の両方から生じた様々な方面からの向かい風にさらされます。

外部的には、世界経済が不況に陥り、さらには80年代後半から90年代前半にかけてヨーロッパや日本から素晴らしいクルマがいくつか登場したというのが大きなそして直接の要因です(マツダ・ロードスター、ホンダNSX、日産 R32 GT-Rなど)。

90年代前半に日本をはじめ世界各地においてバブルがはじけると、多くの消費者が我先にと高級品を手放し、また購入を見送るようになり、こういった外部環境からポルシェは現金準備金の減少と老朽化したラインナップに悩まされることとなるわけですね。

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さらに自動車業界では、より経済的、かつ実用的なクルマへの移行が望まれており、消費者はますますマツダ・ロードスターのような”より手頃な”スポーツカー、そして現在のメインストリームとなるSUVを好むようになり、この変化は(1980年代の好景気の波に乗って一気に販売を拡大した)ポルシェにとって不意を突くものであったといい、当時のラインナップにあったモデル、つまり911と964(どちらも高価なスポーツカー)はもはや人々が好むものではなくなったことに気付かされます。

ポルシェは内部的にも問題を抱えていた

さらに、ポルシェは数十年にわたる「手作り」に起因する非効率的な生産プロセスに悩まされており、この方法は年間数千台しか生産されていなかったときにはうまく機能したものの、それ以上の生産規模へと移行しつつあったポルシェにとっては「コスト高体質」を招く直接の原因となってしまい、これがポルシェの価格を高く押し上げ、また利益を奪ってしまう理由としてもポルシェを苦しめます。

ポルシェは1986年、こうやって911や928を作っていた。この生産効率の悪さ故にポルシェは経営危機に陥り、後にトヨタ出身者を招いて「カイゼン」を行うことに【動画】
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そして世界的な不況によって多くの人がポルシェを購入するに十分な可処分所得を得る事ができず、この状況においてシボレー・コルベット(C4)、アキュラ(ホンダ)NSX、日産300ZX(フェアレディZ)といった競合相手に販売を奪われてしまうという「負のスパイラル」に陥ったのがこの時期でもありますね。。

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これらすべての要因により、80年代半ばには年間50,000台以上を誇った販売台数は1993年にわずか14,000台強にまで落ち込んでしまい、ポルシェの重役たちは「生産プロセスを近代化し、製品ラインナップを刷新する必要がある」とよやく認識し、状況を打開するための目標は「911 のような人気モデルと部品や生産ラインを共有することで、より効率的に生産できる新しいモデルを作り、若い世代の顧客を引き付けること」。

そして1991年に「2人乗りのミッドエンジンロードスターコンセプト」として取締役会に提案されたクルマがボクスターです。

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このプロジェクトを率先したのはホルスト・マルカート、ヴィンデリン・ヴィーデキング、ディーター・ラクシーらで、より安価なモデルのアイデアが取締役会に提案されていますが、この市販バージョンとして1996年に導入されたボクスターは、同社の従来の製品から大きく逸脱したモデルで、価格が安く、少なくとも正面から見た外観は996世代の911と「ほとんど同じ」。

広範囲に渡って911と共通の部品が使用されていたため、フロントフェンダー、ドア、ヘッドライトなど、すべてがまったく同じであり、これによって同社は製造に集中してコストを削減することができ、以前よりも優れた製造品質にて、かつより安価な価格帯で車両を生産できるようになっています。

なお、「ボクスター(Boxster)」の名はフラット6エンジンすなわち「ボクサー」とオープンスポーツモデル「スピードスター」とをかけあわせたもので、デザインを担当したのはグラント・ラーソン、そしてデザイン面における制約はなにひとつ課せられなかったといいます。

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「より手頃なポルシェ」を生産するという決定は、うまくいかなければ会社が窮地に陥るというリスクをはらんでおり、つまりブランドイメージを下げてしまい、加えて利益率をさらに下げてしまう可能性すらも否定できず、しかし当時窮地に陥ったポルシェにとっては「背に腹を代えることができない」選択でもあり、計算済みのリスクであったそうですが、結果的にボクスターによってポルシェは顧客基盤を広げ、これまでポルシェを検討していなかったかもしれない新しい購入者を引き付け、さらには911のような、より高価なモデルを購入できるファンを創出することに成功しています。

ボクスターの成功は非常に大きなもので、1996年に登場してすぐにポルシェのベストセラーモデルになったものの、当時の(ボクスター単体の)正確な販売数はわかっておらず、しかし1993年時点での北米におけるポルシェの販売台数が3,713台であったのに対し、2000年には46,110台にまで増加しているので、これはボクスターの貢献、そしてボクスターを購入した顧客がその後も(ぼくのように)ポルシェを買い続けているということを意味しているのかもしれません。

結果として、ボクスターはポルシェに対して切望されていた資金の注入をもたらしただけでなく、ポルシェがより手頃なスポーツカー市場でも競争に勝てることを証明し、さらに、ボクスターの導入は、ポルシェの製品開発への取り組みの転換点となっています。

ボクスターの成功は、ポルシェがニッチなスポーツカー モデルだけに頼ることなく、魅力的で収益性の高い車を生産できることを示しということにほかならず、この事実は後にポルシェが「他社に先駆け」急成長中であったSUV市場に進出するという決定につながったわけですね。

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