
| アストンマーティンは生き残りをかけて戦略を柔軟に変更 |
ちょっと前には「もうV12エンジンは継続できない」ともコメントしていたが
環境規制の強化に伴い大排気量マルチシリンダーエンジンが絶滅の危機に瀕しているというのは御存知の通りではありますが、フェラーリやランボルギーニが電動化やダウンサイジングへと舵を切る中、英国の至宝アストンマーティン(Aston Martin)が”V12エンジンを死守する”という、極めて大胆な戦略を発表することに。
同社は当初予定していた電気自動車(EV)へのシフトを大幅に延期し、内燃機関、特にブランドの魂であるV12エンジンを2035年まで存続させる道を確保したといい、この決定の背景には、超高級車ブランドだからこそ成立する「規制の盲点」を突いた緻密な計算、そして富裕層顧客のリアルな本音が見え隠れしています。
ここでは、アストンマーティンが描く次世代のラグジュアリースポーツカー戦略について考えてみましょう。
この記事の要約
- EV導入を2030年代へ大幅延期: アストンマーティンは当初2030年までに4車種のEVを投入する計画で、しかし顧客の強い「反EV」の声を受け、初のEV発売を2030年代へと先送りすることに
- 欧米の規制をクリアする「1000台の法則」: 新CEOエイドリアン・ホールマーク氏はV12モデルの年間販売台数を「1,000台未満」に抑えることで欧州や米国の厳しい排出ガス規制の適用から「少なくとも2035年まで免除される」という驚きのスキームを明かす
- PHEV(プラグインハイブリッド)も見送りへ: 重量増や複雑なシステムに見合うエミッション削減効果が薄いと判断し、PHEVではなく48Vマイルドハイブリッド(MHEV)技術の採用へ舵を切る
- 次世代プラットフォームで走りが激変: 接着アルミ構造による剛性アップ、後輪操舵(リアホイールステアリング)の採用など、次世代アーキテクチャによりSUVからスーパーカーまで、同社のV12の走りはさらなる深化を遂げる。

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顧客の「EV嫌い」とPHEVの否定から生まれた現実路線
アストンマーティンは2023年、米国の新興EVメーカーであるルシード(Lucid)と提携し、その高性能電動パワートレインの供給を受ける計画を発表していましたが、しかしそのタイムラインは今や大きく書き換えられています。
最大の理由はアストンマーティンのオーナーたちから寄せられた「EVは大嫌いだ」という強烈なフィードバックであったといい、日常の足ではなく、エモーショナルな体験やエキゾーストノート(排気音)を求める同社の顧客層にとって、静かで重いEVはブランドに求める価値とは真逆のものだったというわけですね。
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さらに、同社は昨今トレンドとなっているPHEV(プラグインハイブリッド)についても綿密なシミュレーションを行ったといい、その結果、多くのオーナーは実質的にガソリンだけで走行していて、PHEVがもたらす「複雑なシステムの構築」や「バッテリーによる重量増加」というデメリットは、エミッション(排出ガス)を減らす効果に対して見合わないと結論付けることに。

そこでアストンマーティンは、巡航時や信号待ちで賢くエンジンを停止させ、わずかな燃費向上をもたらす48Vマイルドハイブリッドシステム(MHEV)の採用へと方針を転換することを決めたというのが直近の流れでもあり、重量増を最小限に抑えつつ、内燃機関の魅力を最大限に引き出す現実的なルートを選択したというわけですね。
V12モデルの展開と次世代プラットフォームのスペック特徴
そしてアストンマーティンがV12を存続させることを可能とする最大の武器は新CEOのエイドリアン・ホールマーク氏が明かした「年間1,000台未満の特例免除」というスキームです。
欧州や米国の規制には小規模メーカー向けの免除規定が存在し、V12モデルの年間販売数を1,000台以下にコントロールすれば、少なくとも2035年までは(同社全体の生産台数を考慮すると)規制の対象外となり、これによって新型「ヴァンキッシュ(Vanquish)」や、かつての「One-77」のような超限定ハイパーカーの灯を消さずに済むということに(ただ、ちょっと前にはV12を廃止するとコメントし、その後はヴァラーのように”少量のみ”V12を継続するという方針へと切り替わり、今回は”1,000台”となったため、顧客としては方針の変更に振り回されているということになる)。
加えて同社は現在、SUV(DBX後継など)からフロントエンジンのスーパーカーまでを同一の生産ラインで製造できる「次世代車両プラットフォーム」を開発中だといい、これによって大幅なコスト削減を実現すると同時に、各モデル間での高精度なコンポーネントの共有が可能になるのだそう。

アストンマーティン 次世代プラットフォーム(アーキテクチャ)の主な特徴
| 項目 | テクノロジー・構造の特徴 | もたらされる効果・メリット |
| 骨格構造 | 接着アルミニウム(Bonded Aluminum)構造の進化 | 従来モデルを凌駕する圧倒的なボディ剛性の向上 |
| サスペンション | マウンティングポイント(取付部)の剛性強化 | 雑味のない乗り心地と、格段に向上した静粛性・洗練性 |
| 足回り技術 | 後輪操舵(リアホイールステアリング)の全車展開 | 低速域での回頭性(シャープな鼻先)と高速域での安定性 |
| パワートレイン | MHEV化されたV12ツインターボ & 48Vシステム | 規制への準拠、市街地でのスムーズなアイドリングストップ |
さらにホールマークCEOは「すべての将来モデルについて数学的な記述(セッティングの黄金比)を完成させており、車両パフォーマンスの面で『革命』が起きる」と自信をのぞかせていて、既存モデルをベンチマークとしつつ、走りの鋭さとラグジュアリーな快適性を高次元で両立させる構えを見せているというのが同社の現在地。
結論
自動車メーカーのEVシフトが踊り場を迎える2026年現在、アストンマーティンの「EV延期とV12死守」という決断は、市場のトレンドに逆行しているようでいて、実は極めてロジカルでラグジュアリーの本質を突いた戦略です。
ルシードの最先端EVテクノロジーとアストンマーティンの美しいデザインの融合は魅力的であり、将来的(2030年代)にはその姿を見ることができるのかもしれませんが(ぼくとしてはかつてのラゴンダ・コンセプトの復活を希望)、しかし、誰もがEVを作れる時代だからこそ、世界で数えるほどしか残っていない「芸術品としてのV12エンジン」を自らコントロールし、牙城を守り続けることがアストンマーティンのブランド価値をさらに高めることは間違いなく、今回の決定によってアストンマーティンは「生存スペースを確保した」と考えることも可能です。

「小規模メーカー(スモール・ボリューム・マニュファクチャラー)」免除がもたらす自動車文化の二極化
今回のニュースで最も注目すべきは、ホールマークCEOが明言した「年間1,000台未満に抑えれば2035年まで法規制を免除される」というルールであり、ここから今後の自動車市場における「プレミアムカーの二極化」という面白い構造が見えてきます。
1. 「量産ラグジュアリー」と「純粋な芸術品」の分離
ポルシェのように「年間数十万台」を売るメーカーは、カーボンニュートラル燃料(e-Fuel)等のロビー活動を行いつつ、基本的には全体の平均排出量(CAFE規制)を下げることを目的としてマカンや718などの最量販モデルを無理にでもEV化(あるいは生産終了)せざるを得ないという状況があり、これは販売台数が多すぎるため、特例措置を受けられないからです。
一方で、アストンマーティンのように全体の生産規模が小さく、さらにV12という特定のアイコンを「年間1,000台未満」という超希少枠に意図的に封じ込めることができるブランドは、デジタルや電動化の荒波から隔離された「内燃機関の聖域」を2035年まで合法的に維持できるというわけですね。
なお、正確に言うならば、この「小規模メーカーとしての特例措置」は1万台が基準となっており、よってアストンマーティンはそこから逆算して「V12エンジン搭載モデルを1,000台に抑える」という判断を下したということに(利益と希少性とのギリギリのバランスということなのかもしれない。そして特例措置を受けるということは、年産1万台を超えるつもりではないということに)。

2. コレクターズアイテムとしての価値の暴騰
この「年間1,000台」というプレミアムな制約は、アストンマーティンのV12モデルがディーラーに並んだ瞬間から、すでに将来の「コレクターズアイテム」としての価値が約束されることを意味します(ただ、それ以前のV12モデルについては、それらが最後だと言われていたため、多少なりとも価値を落としてしまうのかもしれない)。
エイドリアン・ホールマーク新CEOのもと、顧客の「EV嫌い」という感情論に寄り添うだけでなく、論理的な「数理的・法的な計算」に基づいてV12の咆哮を守り抜くアストンマーティン。
この引き算の美学と逆張りの戦略は、ラグジュアリービジネスにおける究極の生存戦略として今後数年間の自動車業界の勢力図を大きく塗り替える可能性を秘めており、「アストンマーティンにしかできない」環境をうまく利用した戦略の成否に注目が集まることとなりそうですね。
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参照:Motor1











