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アストンマーティン、業績悪化のため全従業員の20%を削減へ。トランプ関税と中国不況が「ボンドカー」を追い詰める

アストンマーティン

| せっかく「ブランド再生」の軌道に乗り始めたところではあったが |

「独立系」ブランドの弱点が地政学的リスクによって表面化

名門アストンマーティンの経営危機が深刻化。

同社は2025年度の大幅な赤字拡大を受け、従業員の5分の1を削減するという苦渋の決断を下しており、その背景には国際的な貿易摩擦、そしてトランプ政権による関税の影響が色濃く反映されています。

アストンマーティン
アストンマーティンの赤字拡大、「F1命名権」を105億円で売却。ただしその内容は「関連当事者取引」であり「身内での資金移動」ということに

| これまで幾度となく危機にさらされてきたアストンマーティンではあるが | ただし売却先は「身内といえば身内」 ジェームズ・ボンドの愛車として世界中にファンを持つアストンマーティンが”かつてない”財政 ...

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記事の要約

  • 異例の人員削減: 全従業員の約20%にあたる大規模なリストラを敢行。経営再建に向けた「残酷なリセット」へ
  • 赤字が激増: 営業損失が前年の約200億円から約520億円へ急拡大。売上高も21%減少
  • トランプ関税の直撃: CEOは「トランプ氏が問題の大きな要因」と明言。米中との貿易摩擦が高級車販売の足を引っ張る
  • EV開発の延期: 資金確保のためEV開発計画を先送り。ハイブリッドスーパーカー「ヴァルハラ」へリソースを集中
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華やかなスクリーンの裏でアストンマーティンを襲う残酷な「現実」

ジェームズ・ボンドの愛車として知られるアストンマーティンが「かつてない荒波に揉まれている」との報道。

2025年度の決算報告はファンにとっても市場にとっても衝撃的な内容で、そこには「売上の21%減、そして赤字の161%拡大」という数字が並び、この危機を乗り越えるため、同社のエイドリアン・ホールマークCEOは、「全従業員の5分の1を削減し、将来のEV開発予算を削る」という”止血策”を打ち出しています。

ベントレーCEOが突如辞任→アストンマーティンのCEOへ。ベントレーを大きく成長させた手腕をいかんなく発揮してのアストン建て直しが期待される
ベントレーCEOが突如辞任→2020年以降4人目となるアストンマーティンのCEOへ。ベントレーを大きく成長させた手腕発揮が期待される

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新体制となった後、未来へと向けて歩みをはじめたかのように見えたアストンマーティンではありますが、「関税」「国際情勢」という自社ではどうにもできない要素に足を引っ張られしまい、かつての栄光を取り戻すための崖っぷちの戦いがいままさに始まろうとしているわけですね。

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「関税」という目に見えない障壁

今回の不振について、ホールマークCEOはブルームバーグのインタビューに対し、「すべてをドナルド・トランプ氏のせいにはしたくないが、彼が我々の直面した問題の大部分を占めていたのは確かだ」と率直にコメント。

トランプ政権誕生後の対米関税の引き上げにより主要市場である米国への輸出が一時停止に追い込まれるなど、サプライチェーンと販売戦略が根底から崩されることとなり、さらに中国市場においても高級車への課税強化と景気後退が重なってしまい、結果的にアジア太平洋地域での販売は21%も沈み込んでしまっています。

ただ、こういった現状はある意味で「自らが招いた結果」といえなくもなく、というのもランボルギーニやロールス・ロイス、フェラーリといったラグジュアリーブランドはしっかりとリスクヘッジを行っていたから。

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中国市場は非常に「波」がはげしく、とんでもなく売れたかと思えば一瞬で市場規模が縮小することがあり、上記の3社はかつてそれを身を以て経験していたため、「戦略的に」中国での販売を抑え、世界を3つから5つの地域に分けて「販売を分散させ」、いかなるリスクにも耐えうる体質を構築しているわけですね。※フェラーリを「Tシャツ屋」「サングラス屋」になったと揶揄する向きもあるが、今の時代、こういった周辺ビジネスは「本業」を守るためにも必要である

近年は欧州での(ロシアとウクライナとの)紛争、世界規模にわたるトランプ関税の影響、米中との関係悪化による消費マインドの冷え込み、そして様々な法規制による特定市場の縮小といった不確定要素が存在していますが、そういった不確定要素を「経営に織り込む」ことが強靭な企業体質を作り上げるのだとも考えられ、しかしアストンマーティンやロータスといった一部の自動車メーカーは「それが十分ではなかった」のかもしれません。※このほか、電動化戦略の判断ミスで巨額の損失を出したメーカーも少なくはなく、現代ほど自動車メーカーの運営がむずかしい時代はない

フェラーリ
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かつて、自動車業界では「いいクルマを作れば売れる」という時期があったものの、現在はそうではなく、いかにいいクルマを作っても「品質に劣るライバルメーカーのプロモーションが上手ければ」消費者はそちらに流れ、そして国策や税制によって市場から排除されるということも考えられます。

こういった(ある意味ではフェアでもあり、またある意味ではアンフェアな)事情を鑑みるならば、自動車メーカーのCEOはこれまでのように「自動車業界叩き上げ」というモノづくりのエキスパートより、「マーケティングや政治に長けた」グローバルな人材のほうがマッチしているのかもしれません。

アストンマーティン
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アストンマーティン:苦境の財務状況

話をアストンマーティンに戻すと、ブランドの象徴であるスポーツカーやSUVの販売が世界情勢の波に飲まれた形が明確になっており、「かなり厳しい状況」であることがわかります。

2025年度 財務・販売実績データ

項目2024年度実績2025年度実績増減率
売上高約16億ドル約17億ドル-21% (英ポンドベース)
営業損失約1.34億ドル約3.5億ドル+161% (赤字拡大)
販売台数約6,600台5,448台-10%
人員削減規模全従業員の20%約4,000万ポンド削減
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特徴と今後の戦略:EVを捨て「ハイブリッド」で生き残る

こういった現場を受け、アストンマーティンは、生き残りをかけて投資の優先順位を大胆に変更しており・・・。

  • EV開発の遅延: 5カ年開発予算を20億ポンドから17億ポンドへ削減し、完全電気自動車(EV)へのシフトを先送り
  • ヴァルハラへの期待: 待望のハイブリッドスーパーカー「ヴァルハラ」がついに生産開始。2026年には500台の納車を予定しており、一台あたりの利益率(マージン)改善の切り札とされる
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結論:2026年は「反撃」か「終焉」か

「2026年度には財務パフォーマンスが大幅に改善することを期待している」と語るホールマークCEO。

しかし、米中との貿易関係が不安定なまま、巨大資本の後ろ盾を持たない独立系高級ブランドがどこまで踏ん張れるかは予断を許さない状況です。

アストンマーティンが次に描くドラマは、V12エンジンの咆哮か、それともさらなる縮小か。

ボンドカーの未来は、今まさに正念場を迎えています。

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参考:独立系メーカーの宿命

ポルシェやランボルギーニがフォルクスワーゲングループに属し、フェラーリが高利益率を確立して基盤を盤石にしているのに対し、アストンマーティンは財務体制が強くないうえ、「独立系」に近い立場にあります(メルセデスやローレンス・ストロール氏の出資はあるものの)。

今回のような地政学的リスクに対し、盾となる「母体」が小さいことが関税の影響をダイレクトに受けてしまう最大の弱点となっており、その脆弱性が一気に表面化したというのがここ数年の状況ということになりそうです。

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参照:Astonmartin, Bloomberg

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