
| アストンマーティンはすでに7度の倒産を経験済み、しかしいずれからも不死鳥のように復活している |
すでに吉利汽車はアストンマーティン「第三位の」株主でもある
英国を代表するスポーツカーブランド、アストンマーティンがいま深刻な経営危機に直面しているとの報道。
2018年の株式公開(IPO)以来、企業価値は10分の1にまで急落し、今回で8度目となる緊急の資金調達を余儀なくされたとレポートされています。
ボンドカーとしても知られる華やかなイメージの裏側で、なぜアストンマーティンはなかなか苦境から抜け出せないのか。その深層を探ってみましょう。
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この記事の要約
- 株価暴落: IPO当時の企業価値58億ドルから現在は約5.8億ドルまで激減
- 資金繰り: ローレンス・ストロール氏率いる連合から5,000万ポンドの追加出資
- 中国の影: 第3位の株主である中国「吉利汽車(Geely)」が、買収や生産拠点移転へ動くとの予測
- 今後の課題: EV技術とソフトウェアで先行する中国企業との提携が生き残りの鍵

深刻な財務状況:8度目の「救済」と10分の1になった企業価値
2020年にはカナダの大富豪ローレンス・ストロール氏が多額の投資を行い、再建への期待が高まったアストンマーティン。
しかし、それから数年が経過しても赤字体質からの脱却は果たせていないのが現状で、直近の報告によると、同社の税引前損失は前年比25%増の3億6,400万ポンド(約4.9億ドル)に拡大しており、株式市場からの評価は厳しく、2018年に約43億ポンド(58億ドル)とされた企業価値は、現在のところ約4.3億ポンド(5.8億ドル)にまで縮小しています。
直近2週間前に行われた(ローレンス・ストロール氏らによる)5,000万ポンドの資金注入は、まさに「止血」のための応急処置に過ぎないと捉えられており、投資家の間では「現在の経営体制でいつまで持ち堪えられるのか」という懐疑的な見方が強まっているのだそう。

吉利(Geely)が虎視眈々と狙う「英国の魂」
こうした状況下で注目を集めているのが、第3位の株主である中国の自動車大手「吉利汽車(Geely / ジーリー)」の動向です。
Geelyはすでに英国ブランドのロータス、スウェーデンのボルボを傘下に収め、ロンドン・タクシー(LEVC)を再生させた実績を持っています。
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参考までに、中国の自動車メーカーには大きく分けていくつかの方向性があり、ひとつはジーリーやSAICのように、有名な欧州ブランドを傘下に収めてその地盤を引き継いでスピーディーな展開を行う手法。
そしてもうひとつはBYDのように買収を行わず、そしてBAIC(北京汽車)やGAC(広州汽車)のように既存日米欧の自動車メーカーと提携を行うでもなく、自力で技術を磨く方向。
3つ目は、上でちょっとだけ触れた「提携」で、この提携によって合弁企業を設立し、既存自動車メーカーからの技術移転を図ることで自身の経験値と技術力をアップさせるという方法です。
そして創業者である李書福会長は英国車への強い関心を持っていることで知られており、そのためにロンドンタクシーやロータスの買収に動いたということになりますが、欧州車全般に対しても非常に高い興味をいだいていて、過去にはメルセデス・ベンツに対して提携を持ちかけたことも。
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ただしこの際、まだ中国は市場としても技術力としても「魅力的ではなかった」ためにメルセデス・ベンツはこれを無下に断ってしまい(今のメルセデス・ベンツは中国市場を最重要視している)、よって李書福氏は自身でメルセデス・ベンツの株式を買い集めて「筆頭個人株主(9.7%を保有)」にまで躍り出ているわけですね。
ちょっと脱線しましたが、この「メルセデス・ベンツと吉利」との関係が今回非常に重要なカギを握っており、というのも「アストンマーティンの主要株主の一つがメルセデス・ベンツだから」。

アストンマーティンの株価が下がるということは、メルセデス・ベンツの持つ株式の時価総額も減少し、もしアストンマーティンが倒産でもすれば、それは「紙くず(実際は電子化されているので紙の証券ではない)」になってしまい、もちろんメルセデス・ベンツはこれを防ぎたいと考えているはず。
よって、資金力が豊富なジーリーに「アストンマーティン買収」を持ちかけ、なんとか株価の維持、あわよくば復活とともにもたらされるであろう株価上昇を期待しているのでは、とも推測することが可能です。
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そこでアストンマーティンの主要株主を整理してみると以下の通り。
アストンマーティンの主要株主構成(推定)
| 株主 | 出資比率 | 備考 |
| Yew Tree(L.ストロール氏連合) | 約31% | 筆頭株主 |
| サウジアラビア公的投資基金(PIF) | 約17% | 第2位株主 |
| 吉利汽車(Geely) | 約14〜17% | 第3位株主 |
| メルセデス・ベンツ | 8%未満 | 比率を縮小中 |
もしGeelyが支配権を強めた場合、コスト削減のために「生産拠点の中国移転」が行われるのではないかという懸念が、サプライヤーや関係者の間で囁かれており、そして実際にアストンマーティンはすでに中国依存度を高めていて、さらにロータスやボルボを見てもわかるとおり、「中国へと集約」する傾向にあるため、アストンマーティンがジーリーによって買収されたならば、その「中国化」はさけられないのかもしれません。
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中国との提携は「屈辱」か「賢明な選択」か
こういった状況につき、アストンマーティンの前CEOであるアンディ・パーマー氏は、中国企業とのより深い連携が必要だと主張しており・・・。
「中国はバッテリー技術で我々より10年、ソフトウェアでは少なくとも5年先を行っている。彼らは欧州や日本の企業から学び、それを追い越した。今度は我々が逆の方向に進み、合弁事業や共同投資を行うべきだ」
ロータスがGeely傘下で苦戦している現状(ロータスは2025年上半期に大きな損失を計上)を見ると、中国資本が必ずしも万能薬ではないことも事実です。
しかし、次世代のEVシフトを乗り切るための「技術」と「資金」を同時に提供できる相手は世界を見渡しても数少ないのが現実で、つまるところアストンマーティンが生き残る道はもう「ジーリーによる買収」以外に道はないのかもしれません。
そしてジーリーはといえば、名だたる欧州の自動車ブランドを揃えることができるため(いまやスマートもジーリーが株式を50%保有)、そしてロータスと「ハイパフォーマンスカー関連テクノロジー」をシェアできるため、そしてメルセデス・ベンツ恩を売ることができるためにも「悪い話ではない」ともぼくは考えているわけですね。

結論
アストンマーティンは今、ブランド存続を懸けた分岐点に立っていまることは間違いなく、1,000馬力級のハイブリッドスーパーカー「ヴァルハラ」のような魅力的な製品はあるものの、ビジネスとしての継続性は依然として不透明です。
「メイド・イン・イングランド」の誇りを守り抜くのか、それとも生き残るために中国の最新技術と資金に身を委ねるのか。英国の名門が下す決断は、今後のスポーツカー業界全体の勢力図を塗り替える可能性を秘めています。
【+αで知っておきたい知識】自動車業界の「中国化」とブランドの価値
近年、欧州ブランドが中国企業の軍門に降るケースは珍しくはなく・・・。
- ボルボ: Geely傘下で大復活を遂げ、プレミアムEVブランドとしての地位を確立。ジーリー傘下のポールスターやZeeker等とコストをシェアすることで体質が大きく改善している
- MG: かつての英国スポーツカーブランドが中国の上海汽車(SAIC)傘下でリーズナブルなEVブランドとして世界を席巻
アストンマーティンがボルボのような「成功」を収めるのか、それともブランドの伝統が薄まってしまうのか。ファンにとっては非常に複雑な心境ではありますが、これからのアストンには、資金調達だけでなく決定的な「ゲームチェンジャー」となる戦略が求められている、というのもまた事実です。

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参照:CARSCOOPS












