
| 限界を迎えた独自開発。日本の自動車産業が「ライバル同士の握手」を選んだ理由 |
まさに「昨日の敵は今日の友」である
自動車を1台製造するためには約3万点もの部品が必要だとされ、そこには数百ものサプライヤー(部品メーカー)が関わり、熾烈なコスト削減の圧力や、パンデミック以降に顕在化したサプライチェーンの分断リスクと戦い続けているというのが現在の状況です。
これまで日本の自動車メーカー各社はネジ1本、ステー1つにいたるまで、自社専用の独自スペック(仕様)にこだわり、それが「品質の高さ」や「ブランドの個性」を生み出す源泉であると信じてきたという歴史が存在し、しかし、その常識が180度覆ろうとしているというのが今回のニュース。
国内の主要自動車メーカー7社がユーザーの目に見えない部品を共通化(標準化)するという、これまでにない協調路線を検討していることが明らかになっており、その背景にあるのは圧倒的なスピードと破壊的な低価格を武器にグローバル市場を侵食する「中国製EV・自動車」への強烈な危機感です。
JAMA(日本自動車工業会)の会長に就任したトヨタ自動車の佐藤恒治社長は、「日本の自動車産業は大きな過渡期にあり、強い危機感を持っている。業界全体が直面する課題や変革の取り組みとともに、今こそさらに発展・進化させる時だ」とこの新しい取り組みの大義を語っており、ここでこの挑戦の詳細を見てみましょう。

【この記事の要約(3つのポイント)】
- 日本のライバル7社が異例の「標準化」へ:長年しのぎを削ってきた国内自動車メーカーが、ユーザーの目に見えない非競争領域の部品(ワイパーモーターやパワーウィンドウのアクチュエーターなど)を共通化する検討を開始。
- 背景にある「中国スピード&コスト」への強い危機感:世界生産の約3割を占め、圧倒的なコスト競争力と驚異的な開発スピードで席巻する中国車に対抗するため、日本自動車工業会(JAMA)の佐藤恒治会長(トヨタ社長)主導のもと、産業全体の変革を急ぐ。
- 供給網の効率化と価格引き下げへの期待:部品の規格統一により、サプライヤーは少品種大量生産が可能となり生産性が向上。開発リソースを次世代技術へ集中させることで車両価格の抑制と業界全体の収益性改善を目指す。
なぜ今「見えない部品」の共通化なのか?米国アナリストが語る無駄の歴史と中国の合理性
この協調路線の最大の狙いは、サプライチェーンの複雑さを排除し、製造コストを限界まで引き下げることにあります。
長年自動車のサプライチェーンを研究してきたベテランアナリストのデーブ・アンドレア氏は、メーカー各社が新型車を出すたびに「すべての部品を独自の仕様でゼロから設計し直す」というこれまでの悪癖を捨てるべきだと指摘しており、同氏がかつて経験した、ある日本の大手メーカーのサスペンション技術者との(以下の)エピソードは、これまでの業界の「無駄」を象徴しています。
ハイブリッド車を開発中だったその技術者は、大して重量配分も変わらないにもかかわらず、フロントサスペンションをわざわざ新設計していました。私が”操縦性を上げるための新設計なのか”と尋ねると、技術者は”いや、今回のプロジェクトで新設計するための予算が(上層部から)降りたから、使い切るために作っているだけだ”と答えたのです。
中国車の「ティアダウン(分解調査)」が暴いた強さの秘密
しかしかつてのような”無駄な開発予算”が許されなくなった現代、中国メーカーは全く異なるアプローチで急成長しており、自動車調査会社のMunro & Associatesなどの「中国車の分解調査」によって、中国ブランドがいかに早く、安く車を作っているかの裏側が白日の下に晒されることになり・・・。
彼らは、ワイパーモーターやウィンドウのアクチュエーターなど、ユーザーが直接触れない、ブランドの個性を左右しない部品については、すでに市場に存在する既存の汎用部品(コモディティ)をそのまま採用しています。これにより、検証の手間と時間を大幅に省き、”チャイナスピード””チャイナコスト”を実現しているのです。

MEMA(米国自動車部品工業会)のコーポレート副社長メーガン・マクドナルド氏も日本のこの動きを支持しているといい・・・。
車両の性能、フィーリング、外観を差別化しないコンポーネントを共通化することは、設備投資を削減し、車両開発を加速させ、部品コストを下げる鍵となります。重要なのは、知的財産権(IP)に配慮しつつ、どの部品が非差別化要素であるかを見極めることなのです。
市場での位置付けと今後の課題:米国デトロイトが真似できない「日本独自の強み」となるか
日本がこの「共同戦線」を成功させた場合、米国のGM、フォード、ステランティスといったデトロイトのビッグ3も追従することになるのかという疑問も出てきますが、実は米国でも自動車技術者協会(SAE)などが「中国スピードとコストに対抗するため、すでに設計・検証済みの業界標準を受け入れ、それを使うべきだ」という白書を出しているのだそう。
しかし、米国市場には根深い「組織の慣習(慣性)」があるため実現は極めて難しいと見られているのが現状で、米国市場はすでに海外メーカーの現地工場が乱立する完全なグローバル市場となっていることから「米国メーカーだけで足並みを揃えても」競合する海外メーカーを利するだけではないかという懸念があるようですね。
日本の自動車メーカー7社による協調領域の可能性
| 共通化(標準化)が検討される主な部品エリア | メリットと効果 |
| ワイパーモーター、ガラス昇降アクチュエーター | ユーザーの目に触れず、乗り味に影響しないため、共通化によるコスト削減効果が最も高い。 |
| ECU(電子制御ユニット)の基礎基板 | ソフトウェア(中身)で差別化し、ハードウェア(基板)を共通化することで半導体不足などのリスクを低減。 |
| 各種センサー類の取付ブラケット・コネクター | 規格を統一することで、サプライヤー側での金型投資や在庫リスクを劇的に削減。 |

日本にはJAMA(日本自動車工業会)という強力な組織基盤があり、トヨタを中心とした強固なサプライヤーネットワークが存在していますが、各社が長年のライバル関係を維持しつつ、「日本の自動車産業を守る」という大号令のもとで足並みを揃えられるかどうかが”今後のグローバル競争における最大の武器”になると見られています。
ただ、パーツを「共通化」するとなると、それは今まで各車が独自に採用していたサプライヤーの「統廃合」をも意味することになり、もしこの協議が「合意」に至ったとして、その実現は困難を極め、そしてこれが効果を発揮するまでには長い時間を要するものと思われます。
そしてもちろん、その間に中国勢は「どんどん先に」進んでしまい、その過程で「耐えられなくなった」自動車メーカーが出現するのかもしれません(これはいかにも日本的な流れである)。
結論:プライドを捨てて「協調」を選んだ日本車が、次世代の覇権を握る
リーマンショックや、パンデミックによる世界的なサプライチェーンの混乱、そしてインフレによる車両価格の高騰など、この数十年において自動車業界は数々の試練を経験しています。
それでもなお「自社専用設計」という過去のプライドから脱却できなかったのが「これまでの先進国メーカーの姿」であり、しかし今回の日本の7社によるアプローチは自動車製造のあり方を根本から変える可能性を秘める「最後の砦」ともいえるもの(あるいは新しい時代への扉)。
競い合うべきは、「ワイパーがどう動くか」ではなく、「自動運転の精度」や「電動化の効率」、そして「エモーショナルなデザイン」といった、ユーザーが直接価値を感じる領域(競争領域)で、それ以外の基礎的な部分(協調領域)を大胆に割り切って共通化するという柔軟性こそが、これからの激動の時代を生き抜くための唯一の道なのかもしれません。
日本の自動車産業がこの高いハードルを乗り越え、真の「日本の製造業」として中国の巨人に立ち向かえるかどうか、今後の動向には注目したいところでもありますね。
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