| ときに憎しみは災いしか産まず、人が前に進むことを阻もうとする |
この一件については、残念なことに不幸や悲しみしか感じられない
さて、テスラを大きな災害から救ったヒーローが解雇され、その憎しみからテスラ最大の敵になってしまったという報道。
これはまさにアメリカンコミックのようなストーリーであり「ヴィラン誕生の瞬間」のようだとして話題になっています。
この「テスラ最大の敵」はルカシュ・クラプスキーなる人物だといい、テスラ在籍中は自らの生命を危険にさらしてまで事故を防いだという”技術者、工場作業員、管理職の一人ひとりに見習ってほしいと願うような、模範的な従業員”。
しかし彼は今、テスラの抱える安全上の問題、サイバートラックの市場投入が遅れた真の理由などの機密情報や人事データを大量にリークしており、テスラから逆に「標的」とされる立場となっています。
いったいルカシュ・クラプスキーに何が起こったのか
この経緯について順に説明してゆくと、まずルカシュ・クラプスキーは2019年3月に、ノルウェーの顧客にテスラ車を配送する準備チームの一員として働いており、しかしオスロにて車両を受け取った際、別の従業員が(規定に則っていない)改造を施した充電装置が発火してしまい、その際にルカシュ・クラプスキーは自らの危険をかえりみず、熱で溶けた充電ケーブルを引き抜くことで大惨事を防いだのだそう。
もちろんこの際にルカシュ・クラプスキーは大火傷を負ってしまい、これを知ったイーロン・マスクCEOは「危機を救ってくれてありがとう」という感謝のメールを送ったそうですが、ルカシュ・クラプスキーはそのメールに返信する形で「テスラのノルウェー事業所の安全性確保に対する甘さ」を報告し、たとえば事故当日は消火器を近くに置いていなかったこと、おまけに段ボール箱や、その他の燃えやすいものが周囲に散乱して危険な環境にあったことを報告しています。
この報告に対してイーロン・マスクCEOは謝辞をのべたものの、ルカシュ・クラプスキーの直属の上司や同僚はこれについて「告げ口」だと受け取ってしまい、ルカシュ・クラプスキーは上司から「お前にテスラでの未来はない」と宣告され、別の従業員からは「ドライバーで背中から刺してやる」という脅しを受けることに(おそらくはイーロン・マスクCEOが現場の改善指示を即座に行い、責任者になんらかの処罰を下したのだと思われ、その逆恨みだと思われる)。
かくしてルカシュ・クラプスキーは2022年に解雇されることになるのですが、その理由としては「業務を遅らせ、他のスタッフに悪影響を与えただけでなく、ポリシーに反する現場での写真撮影を行ったから」。
ちなみにこの写真撮影については、いかに危険な状況であるかを(おそらくイーロン・マスクCEOに)報告するためのものであったようで、具体的には「バッテリーを取り外す際にEVの下に敷くローリングテーブル」に関してだとされ、その耐荷重がバッテリーパックの重量よりも小さな500kgであったために従業員の安全が脅かされているという告発を行うために撮影されたもよう。
隠して「ヒーロー」は「ヴィラン」に
かくして解雇されたルカシュ・クラプスキーはテスラの安全に対する稚拙な態度に腹を立て、ドイツのメディア「ハンデルスブラット」に大量の社内データをリークすることになったのですが、そのデータの中には、テスラのオートパイロットソフトウェアの問題や、サイバートラックの品質的問題に関する社内文書だけでなく、社会保障番号を含む機密人事情報も含まれていた、とのこと。
当然ではあるものの、この事件は世界中で複数の訴訟や法的調査を引き起こしており、アメリカだとNHTSAが(オートパイロットの事故に関し)ルカシュ・クラプスキーに複数回の事情徴収を行っており、逆にオランダの弁護士は従業員データ流出をめぐってルカシュ・クラプスキー氏を訴える準備を行っているとも報じられています。
加えて(欧州テスラの本社がある)オランダのデータ保護局は、このデータ流出がプライバシー法に違反しているかどうかを検討していること、先週になってその身分を公にしたルカシュ・クラプスキーは「不当な扱いを受けた」としてテスラを訴え賠償金を得る意向であることも伝えられていますが、自身の過ちを認めることができなかった狭量なオスロの現場責任者や同僚たち、そしてそれを許せなかったルカシュ・クラプスキーの憎しみが引き起こした不幸な一件だと言えるかもしれません。
結果として多くの無関係な人が巻き込まれてしまい、「憎しみからは何も生まれない」という例のような事件でもありますね。
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参照:CARSCOOPS