| しかもスペルはメーカーによって「Spyder」と「Spider」とに分かれている |
ただし「スパイダー」がシンプルなオープンスポーツをあらわすという共通認識は変わらない
さて、クルマのボディ形状の多くは「かつての馬車」に由来しており、セダンやカブリオレというのはその典型。
そして「オープン」を示す呼称としてはその「カブリオレ」「コンバーチブル」「ロードスター」「バルケッタ」「スピードスター」「タルガ」などがあり、いずれもその定義や起源がおおよそ明確になっています(カブリオレとコンバーチブルはほぼ同義で、前者は欧州、後者は米国で用いられることが多く、ルーフを開けることができるボデイ形状。ロードスターやバルケッタはオープン状態が基本であり、ルーフを閉じることもできるクルマを指し、スピードスターは”スピード第一義”のため重心が高くなるウインドウすら排除し開閉式トップを持たないもの。タルガは一般に取り外し式ルーフを指すもので、ポルシェが起源である)。
しかしながらその起源が明らかではなく、その本来の語句の意味とボデイ形状とが一致しないのが「スパイダー」。
いったいなぜ「スパイダー」という呼称が誕生したのか
この「スパイダー」という名称は「フェラーリ・ローマ・スパイダー」「マクラーレン・アルトゥーラ・スパイダー」「ポルシェ718RS スパイダー」「ランボルギーニ・ウラカンEVO スパイダー」といったスポーツカーに使用されることが多く、しかし「スパイダー(Spider)」とはクモを意味しており、オープンカー、そしてオープンカーもたらす爽快感とは無縁の存在だと思います。
そしてこの「スパイダーがスポーティなオープンカーを指すようになった理由」についてはいくつかその起源があるようで、そのひとつは「不適切な翻訳」、もうひとつは「(ほかの多くのボディ形状同様に)馬車の時代に遡る」もの。
まずひとつは、イタリア人自動車ジャーナリストがモーターショーに参加し「そこで屋根のない公道走行可能なスポーツカーを発見」したのですが、そのクルマこそがジェームズ・ディーンを悲劇のヒーローにしてしまったポルシェ550 スピードスター。
ただし当時はインターネットはじめ情報を適切に伝える手段がなく、よって品質のすぐれない国際電話にてそのジャーナリストは本国の編集部へと概況を伝え、そこで「スピードスター」が「スパイダー」として間違って伝わり、これがそのまま自動車業界における定番になったと言われています。
そんなバカなと思うかも知れませんが、「タルガ」についてもポルシェが起源となっていて、これはポルシェが参加し成功を収めた自動車レース「タルガ・フローリオ」に由来しており、イタリア語では「盾」「プレード(ナンバープレート」を意味します(ポルシェはその意味を理解せず、タルガ・フローリオからそのまま拝借した)。
そしてこういった例を見るに、「スピードスターがスパイダーになった」というピンポイントな自動車メーカーに関する起源があってもおかしくはないのかもしれません。
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やはり「馬車」説も有力である
そしてもうひとつはやはり「馬車」に関連するもので、18世紀後半、ある客車製造業者が軽量で、かつ旅行を目的としていない馬車を製造したといい、これは速く走ることを目的に軽量化されたスポーツタイプの馬車だったとされ、そのため取外し可能な屋根と窓を持っており、さらに車輪は(おそらく軽量化のためだと思われるが)細いスポークを用いていたのだそう。
そしてその形状がクモに似ていたことから「スパイダー」と呼ばれるようになったとされ、これが自動車の時代を迎えるようになったとしても(ほかの馬車の形状同様に)車両のボディ形状を指すようになり、「つまり簡素で軽量、速く走るための、楽しみを目的にしたクルマ」を指すようになったと言われているわけですね。
この「スパイダー」につき、現在では主にヨーロッパやアジアの自動車メーカーによって使用されることが多く(米国ではオープンモデルにつき、広くコンパーチブルと呼称する傾向がある。コルベットやマスタングのオープンモデルもメーカー正式名は”コンバーチブル”である)、アルファ ロメオ、シボレー、フェラーリ、フィアット、ランボルギーニ、マセラティ、マクラーレン、マツダ、ポルシェ、トヨタは自社のクルマに対して「スパイダー」という呼称を与えています。
そしてもうひとつ注意を要するのが「Spyder」「Spider」という2種類の表記があること。
カンナム、ランボルギーニ、ポルシェは「Spyder」と綴りますが、この理由は定かではなく、「イタリア語にはYという文字がないから」とされるものの、メーター表示にまでイタリア語を用いてイタリアンをアピールするランボルギーニが「Y」を用いているところは注目に値し、とにかくナゾが深まるばかりです(クモ=Spiderで統一されていないところを見ると、最初の由来を推測する”音感を言葉にした”説が有力であるようにも思える)。
なお、自動車業界にはけっこう「明かされないままのナゾ」が多く、フェラーリやシボレーのエンブレムの起源(諸説あるがいずれも確信が持てない)もそういった例であり、しかしそういったナゾが魅力をより高いものとしているのかもしれませんね(様々な由来を考察するのは実に楽しいものである)。
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参照:Jalopnik