| エンジンを持たないEVがどのようなサウンドを持たせるべきなのか、自動車メーカーは新たな課題に直面している |
ガソリンエンジンの真似事だけはやめてほしい
さて、現在様々なEVが登場することとなっていますが、今後重要になると思われるのがそのサウンド。
すでに多くの地域や国では、EVが歩行者に対してその存在を知らせるべく近接走行音の発生(走行音発生装置)を義務付けていますが、今後は歩行者に対してのみではなく、ドライバーに対してもどういった音を聞かせるのかが重要になってくると言われています。
そしてハイパフォーマンスカー、プレミアムカーであれば「なおさら」ということになりますが、たとえばポルシェ・タイカンだと「リニアモーターカーのような、新幹線のような、そしてそこにガソリンエンジンのノイズを混ぜたような」複雑な音を聞かせます。
そしてこういった「サウンド」はエンジン音が聞かれなくなったときに重要な意味を持ち、今後その自動車メーカーが発売するEVのイメージ、ひいてはその会社のイメージをもある程度左右するようになるのかもしれません。
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すでに「独自のサウンド」に取り組んでいる自動車メーカーも
そしてこういったサウンドの重要性についてはいくつかの自動車メーカーが強い理解を示しており、メルセデスAMGは米ロックバンド、リンキン・パークと共同にてEV向けのサウンドを開発していることが伝えられ、ロータスは音楽プロデューサーのパトリック・パトリキオス氏との協業にてサウンドを開発中だと伝えられます。
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サウンドは「動き」をも表現する
なお、自動車の発するサウンドは「動き」をも表現すると考えていて、つまりは音によって人に錯覚を起こさせたりすることも可能だとぼくは考えています。
たとえば、(V8ターボエンジン搭載の)フェラーリを運転している時、アクセルをぐっと踏むと、エンジン回転数が上がるよりも先にサウンドが大きくなるように感じられ、おそらくはアクセル開度に応じてエキゾーストシステムのバルブが開いていそう。
これによって、実際には加速に移っていなくても「サウンドが大きくなるため」エンジンが素早く反応し、すぐさま加速しているように「錯覚」してしまうので、ターボラグを意識することがなくなるわけですね。
その反面、同じようにターボエンジンを搭載する別メーカーのスポーツカーだと、アクセルを踏んで、エンジン回転数が上がり、加給がかかってさらに回転数が上がってはじめて(エキゾーストシステムの)バルブが開くので、アクセルを踏んでからサウンドが高まるまで時間がかかり、ここで「リニアさに欠ける」という印象も持ってしまいます。
仮に両者の実際の動きや反応が「同じ」だとしても、音が耳に届くタイミング次第で人が感じるクルマの動きは全く異なると認識していて、このあたりフェラーリは「わかっている」と驚かされるところですね(フェラーリは、じつに様々なところで気持ちよくクルマを走らせることができるように努力を続けている)。
メルセデス・ベンツEQSのサウンドはスター・ウォーズの「アレ」だった
例によって前置きが長くなって恐縮なのですが、本題はメルセデス・ベンツのEVにおけるフラッグシップ「EQS」の疑似サウンドがスターウォーズに登場する「レース用ポッド」そのもの、という話。
メルセデス・ベンツはEQSにはルメスター製のサラウンドサウンドシステムを搭載し、このサウンドシステム経由にて「2選択可能な種類の」サウンドを流すとアナウンスしていますが、今回トップギアが(2種類のうち)ビビッド・フラックスというサウンドを動画とともに公開しています。
たしかに膨張感やパルスを感じさせるウンドは(スターウォーズ エピソード1/ファントム・メナスに登場する)ポッドレーサーそのものであり、この音を聞くことができるだけでも「EQSを買う価値がある」と思わせるほど。
ちなみにこの「音」を出すタイミングも(上述のフェラーリの例の通り)重要で、アクセルを踏むと同時に躍動感のあるサウンドを出すことで「レスポンスの良さ」を表現できることになると考えており、ポルシェ・タイカンは実際にそういった仕様を持っているようですね(アクセルを踏んで加速する瞬間にいちばん大きな音が出るが、これはガソリンエンジン車とは”逆”で、ガソリン車は加速後にサウンドが高まる)。
参考までに、メルセデス・ベンツはEQSに「フェイクのエンジンサウンド」を追加する計画も持っていたそうですが、結果的にこういった「エンジン音とは別の」サウンドを搭載することになり、その判断については高く評価したいと思います(実際には、変速を伴わないガソリエンジンサウンドを再現する必要があり、そうなると”とても奇妙なものになる”からだとコメントされている)。
ちなみにEQSにて採用される”ビビッドフラックス”サウンドは「インタラクティブなもので、アクセルの位置、速度、リカバリーなど、10数個のパラメータに対して反応する」と言われ、むしろ「ガソリンエンジンにはできないこと」を実現したと考えていいのかも。
ぼくは、「EVにエンジンサウンド」を付加するのは本末転倒であり、そういった行為を行っているようでは、いつまでたってもEVの造り手自身が「EVはガソリン車の下位互換」という認識を持ち続け、また「ガソリン車コンプレックス」をむき出しにしているようなものだとも考えていて、EVとはガソリン車とは別の乗り物であり、ガソリン車にできないことを目指し、それによってガソリン車に対して優位に立つべきだとも信じているわけですね。
さらにメルセデス・ベンツは「ドライブモードの選択によってもサウンドが変化する」と述べ、例えばスポーツモード選択時には、よりダイナミックなサウンドになり、インテリジェント・サウンド・デザイン・アルゴリズムは、ブルメスター・サラウンド・サウンド・システムのアンプ内にてサウンドをリアルタイムに計算し、その演算結果をスピーカーから流すことになる、とのこと。
さらに同社は「電気自動車のドライビングダイナミクスは、内燃機関とは大きく異なります。AMGならではの体験をしたければ、アファルターバッハ(メルセデスAMGの本社所在地)に向かってください。電気自動車を購入するお客様は、このような新しい "ユーザー体験 "を求めており、音響的な差別化を求めているのです」ともコメントしています。