
| 過去の「ジョイスティック」、直近の「ステアバイワイヤ」など、メルセデス・ベンツはステアリングホイールになみなみならぬ関心を持っている |
今回の特許が実現すれば「けっこう便利そう」ではあるが
ドライビングポジションを完璧にフィットさせるため、シートの多方向電動調整(18ウェイパワーシートなど)やステアリングホイールの上下位置調整(チルト&テレスコピック)はいまや高級車において当たり前ともいえる装備です。
しかしメルセデス・ベンツが今回考え出したアプローチはさらにその先を行くもので、なんと「ステアリングホイール(ハンドル)そのものの大きさや形状を変化させる」という前代未聞の特許を出願しており、ここでは「ハンドル径の選択という自動車設計における古典的な妥協を打ち破る」メルセデス・ベンツの最新特許の全貌、そしてそこから見えてくる未来のコックピット体験について考えてみましょう。
この記事の要約
- メルセデス・ベンツが、ドライバーの体格や好みに応じて径(サイズ)を拡大・縮小できる革新的な可変ステアリングホイールの特許を出願
- 各サイドに複数の伸縮可能なテレスコピック機構やパワーアシストモーター(または油圧・空圧)を備え、ハンドルの大きさだけでなく独立した角度調整機能も盛り込まれている
- ステア・バイ・ワイヤ技術と組み合わせることで、レースカーのようなクイックな操作感と、伝統のラグジュアリーな大径ハンドル車の乗り味を一台で切り替えられる可能性を秘めている

メルセデス「可変サイズ・ステアリング」特許の概要
新車の開発において、ステアリングホイールの直径(サイズ)を決定することは想像以上に困難な設計課題であり、腕を休めて快適にドライブしたいドライバーや背の低いドライバーには大きめのハンドルが好まれる一方、体格が大きいドライバーやスポーツ走行を楽しみたい層には足元のスペースを確保できる小径ハンドルが好まれるため、従来の設計では常に「中間的な妥協点」を探る必要があったわけですね。
今回発掘された特許でメルセデス・ベンツが提案したのは、ステアリングの各サイドに「少なくとも3つの伸縮可能なテレスコピック調整要素」を配置する構造で、これにより、ステアリングコラムの前後調整(テレスコピック)だけでなく、ハンドルそのものの直径(大きさ)を外側へ広げたり縮めたりすることが可能となります。

-
-
ステアリングホイールととタイヤとが物理的に繋がらない。メルセデス・ベンツ新型EQSが「ステア・バイ・ワイヤ」で起こす革命とは
Image:Mercedes-Benz | メルセデス・ベンツは「バイ・ワイヤ」技術に積極的に取り組む自動車メーカーのひとつである | 140年の歴史が到達した「究極の操作感」とは? 自動車を発明して ...
続きを見る
特徴・スペック・メカニズム
特許文書に記載されている可変ステアリングの主な機構、そして調整によってもたらされるメリットは以下の通り。
- 外側へ広げる「大径モード」:ハンドル径を大きく外側へ押し出すことで、腕を預けてゆったりドライブしたい時や、エアバッグの開口展開エリアから手首や顔を遠ざけたいドライバーに最適なポジショニングを提供
- 内側へ縮める「小径モード」:ハンドル径を小さく縮めることで、体格が大きいドライバーが乗降する際の膝上スペースを確保できるほか、サーキット走行のようなレーシングカー感のある緊密なフィット感を実現
- ヨーク型形状と独自の「角度調整機能」:丸型の完全な円形ではなく、テスラやレクサスが採用するような上下が開口した「ヨーク(Yoke)型」のセパレート構造がベースとされており、また、従来のチルト機構とは独立して、ハンドルの左右グリップ部分の角度だけを個別に変更できる機構も含まれている
- 電動モーター・油圧・空圧によるパワーアシスト:調整用テレスコピックロッドの剛性を保ち、操舵時のガタつき(グラつき)を排除するため、電動パワーアシストモーターや油圧・空気圧システムを利用して強固に固定・作動させる構造が描かれている
| 項目 | メルセデス・ベンツ 可変サイズ・ステアリング特許の要約 |
| 可変機構 | 左右各3つ以上のテレスコピック伸縮ロッド(パワーアシスト駆動) |
| 形状スタイル | ヨーク(Yoke)型セパレート構造 |
| 駆動方式 | 電動モーター、または油圧・空気圧システム |
| 調整可能な要素 | ハンドル直径(サイズ)、グリップ角度(チルト独立) |
| 目的 | 乗車スペースの確保、ドライビング位置の最適化、安全性の向上 |

競合比較・市場での位置付け
メルセデス・ベンツが推進している次世代テクノロジー「ステア・バイ・ワイヤ(Steer-by-Wire)」との融合によってこそ、この可変ステアリングは真価を発揮すると期待されており、機械的なステアリングシャフトを廃止し、電気信号で舵角を制御するステア・バイ・ワイヤ技術と組み合わせることにより、以下のような劇的な走りの変化が可能となるものと思われます。
- AMGモデルなどのスポーツ走行(小径+クイック可変ギヤ比):ステアリング径を小さく縮めると同時に、ギヤ比を1:1などの超クイック設定に変更。持ち替えることなく、最小限の手元操作でクイックに曲がるサーキット志向のハンドリングを実現
- Sクラスなどのラグジュアリー走行(大径+ゆったり感):ステアリング径をゆったりとした大径に広げ、1950年代の高級車のように指一本で軽やかに操作できるアシスト感に切り替え。
テスラ(Cybertruck)やレクサス(RZ)もヨーク型ハンドルやステア・バイ・ワイヤの導入を進めていますが、「物理的にハンドルのサイズや形状そのものを変形させて走行モードに追従させる」という発想は、メルセデス・ベンツならではの独創的な試みでもあり、ここはさすが「自動車を発明した存在だけのことはある」といった感じですね。

補足情報
今回の特許出願からは、技術的な面白さとともに、市販化へ向けた現実的なハードルという「新しい気付き」も得られるかのようで・・・。
- 構造の複雑化と耐久性・剛性の課題:多数の伸縮ロッドや油圧ライン、電動アクチュエータをステアリング内部に仕込むことは重量増やコスト高を招くだけでなく、素早いハンドリングを行った際の「たわみ・あそび」の原因になりかねず、メルセデス・ベンツはこれらを補強によって克服する設計としているものの、市販車への落とし込みには高い耐久性が求められる
- 「ヨーク型ハンドル」に対する顧客の好み:テスラのヨーク型ハンドル導入時にも賛否両論が巻き起こったように、丸型ハンドルに慣れ親しんだユーザーがこの変形機構をどう捉えるかは未知数。しかし、運転支援技術(自動運転Level 3など)が進化し、走行中にハンドルを格納したり形状を変えたりする近未来のコックピットにおいては、極めて合理的なシステムになり得る
結論
シート位置だけでなく、ステアリングホイールそのものの大きさや角度までもドライバーの好みに合わせて変形させるメルセデス・ベンツの今回のアイデア。
特許段階の技術であるため、そのまま市販モデルへ搭載されるかは未知数ですが、ステア・バイ・ワイヤや自動運転時代を見据えたメルセデス・ベンツの飽くなき快適性とパーソナライズへの情熱を感じさせる、非常に興味深い特許と言えそうです。
合わせて読みたい、関連投稿
-
-
アウディ、BMW、メルセデス・ベンツ:同じ「ジャーマンスリー」でも全く違う?それぞれのブランドが採用する思想、掲げる理念とは
| それぞれに異なる理念を持ち、だからこそそれぞれにファンが存在する | ドイツ3大ブランドを理解する3つの「核心」 ドイツ御三家、いわゆるジャーマンスリーといえば「メルセデス・ベンツ」「アウディ」「 ...
続きを見る
-
-
1896年に「タクシーを発明」し、長らくタクシー業界と提携関係にあったメルセデス・ベンツ。「ブランドイメージにそぐわない」として今後タクシー業界とは縁を切ることに
| 日本では「メルセデス・ベンツとタクシー」とはイメージ的に結びつきにくいが | それだけに欧州へ行くと「ベンツのタクシー」の多さに驚かされる さて、意外ではあるもののドイツではタクシーの多くにメルセ ...
続きを見る
-
-
メルセデス・ベンツ誕生100周年、そして自動車の発明から140年。ブランドの成り立ち、これまでの転換点、そして未来とは
Image:Mercedes-Benz | 自動車の生みの親が仕掛ける史上最大の「未来への大逆襲」とは | 「スリーポインテッドスター」はある意味「もっとも有名な自動車のエンブレム」である 世界で最も ...
続きを見る
参照:CARBUZZ











