| 見た感じは完全に「新車」、普通に乗れるならばちょっと欲しい |
タイプ597ヤクトワーゲンはポルシェにとって大きなチャレンジを行ったエポックメイキングなクルマでもある
さて、ポルシェはかつて戦車や軍用車などの設計を行っていたことでも知られますが、今回RMサザビーズの開催するオークションにて1995年製「タイプ597ヤクトワーゲン・プロトタイプ」が出品されることに。
1954年1月から1955年12月にかけ、ポルシェは仕様違いにて様々なタイプ597ヤクトワーゲンのプロトタイプ合計22台を製作することになりますが、この個体はそのうち5番目のプロトタイプなのだそう。
なお、戦時中は自動車メーカーが軍用車の開発を命じられたり、その工場を兵器工場へと転用されることも珍しくはありませんが、やはりポルシェもヒトラーの命を受けて様々な軍用車そして戦車を開発したという記録が残っています(このタイプ597は結局制式採用されず、かわりにアウトウニオンの試作したDKWムンガが選ばれている)。
ポルシェ タイプ597ヤクトワーゲンはこんなクルマ
そこでこのタイプ597ヤクトワーゲンにつき、まず開発された際には「タイプ57」の名称が与えられ、搭載されるエンジンは当時の356に積まれていた1.6リッター4気筒の改良版で、その出力は50馬力、トランスミッションは4速マニュアル、そして最高速度は100km/h。
もちろんこのクルマの目的は最高速を競うことではなく、最高速の代わりに与えられたのが「65%の勾配を登ることができる」という登坂能力、そして水に浮く(そして移動ができる)という特殊な車体構造。
しかし上述の通りドイツ軍に採用されることはなく、よってポルシェは開発にかかったコストをなんとか回収しようと考え、ドイツ語で狩猟車や狩猟ワゴンを意味する「ヤクトワーゲン」というニックネームを与えて1956年から1960年にかけてイギリスやフランスへと売り込みます。
ただしドイツ政府はこれを禁じ、よってヤクトワーゲンの生産は非常に少なく、71台に終わったとされ、さらに現存台数はぐっと減って最大でも50台という説も(10台という話もある)。
ちなみにポルシェは2018年にこのヤクトワーゲンに関する動画を公開しており、ここではこれまでわからなかった事実もいくつか明確になっています。
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タイプ597ヤクトワーゲンはポルシェにとって初のオフローダーだった
なお、このタイプ597ヤクトワーゲンはポルシェが開発した初のオフローダーだったといい、この数年前にはタイプ82キューベルワーゲン、タイプ86シュビムワーゲンを手掛けていたものの、これらは今までのポルシェもしくはフォルクスワーゲンの車両の設計を下敷きにしており、しかしタイプ597ヤクトワーゲンはほぼ新設計。
ただし軍用車そしてオフローダーといえども「軽量、(当時としては)パワフル、そしてリアエンジンというポルシェらしいパッケージングを持ち、車体構造はスチール製モノコック、サスペンションはショックアブソーバー付きのトーションバー・スプリング。
加えて、フロントアクスルカップリングによって4WDのほうが選択でき、高い車高を与えサイドシルを引き上げたことによって悪路走破性を高め、水陸両用車としての機能を持たせていることも大きな特徴です。
ちなみに試作された22台のうちの最初の二台は「水上航行を容易にするため」プロペラやオールが装着されていたと言われ、しかしその後の試作車でこれが廃止された理由はちょっとナゾ(タイヤの回転だけでも航行ができたのかもしれない)。
ただ、新開発車両ならではの課題もあり、それは「1台あたりのコストの高さ、製造の困難さ、スペアパーツを容易に入手できない」ということで、これは逆に「既存車両から多くを流用した」タイプ82キューベルワーゲン、タイプ86シュビムワーゲンのほうが有利な点であり、さらには競合であったアウトウニオンDKWムンガのほうがタイプ597ヤクトワーゲンに比較しコストや製造面において勝っていたとされ、これが理由によって制式採用に至らなかったと言われています(ポルシェの常として、こだわりすぎて妥協を許さなかったのかもしれない)。
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このタイプ597ヤクトワーゲンはこういった経歴を持っている
そして今回オークションに出品されるタイプ597ヤクトワーゲンにつき、上述の通り5番目のプロトタイプ、つまりシャシーナンバー005。
製造後はポルシェの倉庫に保管されていたといい、おそらくは他の国へと売り込みをかけた時代のデモカーとして使用された個体だと推測されています。
資料によると、1956年4月末にドイツのコブレンツにあるポルシェ・フォルクスワーゲンの代理店、レアー&ベッカー社に売却されたことがわかりますが、そこからの経歴は示されておらずちょっと不明。
ただし見ての通りこのタイプ597ヤクトワーゲンは「新車」同様のコンディションを持っており、ドイツにて専門家による徹底的なレストアを受けている、とも記載されています。
ボディカラーはドイツ軍用のオリーブグリーン、そしてインテリアカラーもそれにマッチしたグリーン。
キャンバス地のサイドカーテンとコンバーチブルトップも付属し、一応雨天時にも使用が可能。
クッションやサイドカバー等はレザーベルトにて固定されており、なかなかにレトロな仕様です。
リアシートはベンチ仕様。
メーター周りは非常にシンプルです。
シリアルプレートにはちゃんと「Porsche」の文字。
なんと取扱説明書も付属しており、信じられないほどのグッドコンディション。
タイプ597ヤクトワーゲンは(現代のポルシェファンにとって)「ポルシェ」とは認めづらいかもしれませんが、ポルシェによる新しいチャレンジが詰め込まれていること、しかしその内容はやはりポルシェであること、ポルシェの歴史を変えたエポックメイキングなモデルであることなどを考慮するに、ポルシェコレクターにこそ保有しておいてほしい一台だとも考えています。
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参照:RM Sotheby's